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国家機密


 二度三度、ノックをする。


「なんだ?」

「失礼します」


 俺はギルド長室の扉を開いた。

 俺が入ってくるやいなや、クリクソンは驚いた様子でこちらを見つめている。


「どうしたんだ? お前を呼んだ覚えはないが?」

「聞かせて欲しい情報があるんだ」


 回りくどい言い方は避けよう。


「サラテの、王女の秘密をなんか知ってたら教えてくれ」

「·····何故だ?」


 クリクソンの目付きが鋭くなる。


 ドンピシャだな。やっぱ、ギルド長は知ってたか。


「俺の目の前でサラテが連れてかれたんだ」

「ちょっと待てっ! 会ったのか?」

「·····? そうだが?」


 何がおかしい?


「·····そうか。遂に·····」

「なんだ? 教えてくれよっ!」

「ちなみにどこで会った?」

「『魔の森』の湖」

「やっぱりか」


 クリクソンの質問の意味がわからないでいると、呼び鈴を鳴らし始めた。


「ここに」

「至急、エルサを連れてきてくれ。確か、居ただろ?」

「了解しました」


 瞬く間に秘書と思われし男性が現れ、そして瞬く間に消えていく。


「お前が知りたいのはサラテの秘密、それは国家機密に値する。それを聞く覚悟はあるか?」

「·····」


 タイミングがいいのか、悪いのか、ガチャっと扉が開き、エルサが入室した。


「どうしたのかしら?」

「サラテの事だ」

「──ッ! 遂に、来てしまったのね」


 どうやら、ギルド長のクリクソンだけと言うより、『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』が知ってることらしい。


「ここにルーロがいるってことは、貴方が見たのね? 『魔の森』の湖で彼女を·····」

「そうっすね」

「そして、交流したと?」

「はい」

「·····なるほどね」


 あの、そろそろ、俺にも·····


「分かってる。だが、ここで話すのはダメだ。エルサ」

「分かってるわ。『水の牢獄』」


 超高難易度の『水の牢獄』をいとも簡単にっ!


 確か、効果は──


「魔法の一切を受け付けない代物よ。この中で話せば、盗聴の心配はないわ」


 そこまで大事なのか。


 確かに国家機密って言ってたしな。


「よし、でだ。ルーロ、お前に覚悟はあるか? この件は()()も関与している。お前がやらなくとも、俺らで解決するかもしれない問題だぞ?」


 『龍殺し(ドラゴンスレイヤー)』が元々追いかけていた問題だったって訳か。


 んで、ほっといても解決すると。


 確かに俺よりも、エルサたちに任せた方がいいかもしれない。

 つか、そっちの方が得策だ、が。


「──そんな訳にはいかねぇだろ?」


 あの泣き顔みた瞬間から、あの顔をさせた俺にも、そして、その元凶にもムカついてんだ。


「俺はもう決めているんだ。サラテの問題がなんであろうと、アイツの泣き顔を見た瞬間から、助けてやるって、手を貸してやるって決めてんだ」

「·····そうか」


 値定めするような目付きを辞め、クリクソンはため息を吐く。


「なら、話そう。これは、俺も詳しくないし、エルサもそこまでだ。だが、この件を最初に知ったのはお前の師匠──エリドだった」


 まさか、ここで師匠の名が出るとは。


 どうやら、俺の予想は当たってた訳か。


「お前が会った王女様。つまり、サラテ様だが、厳密には〝サラテ〟じゃない」

「──ッ!?」

「王女様の名前はサラテで、歳もお前に近いが、お前が会ったのはサラテではなく、サクヤ様だ」


 ·····ちょっと待ってくれ、どういう事だ?


 サラテがサクヤで、サクヤはサラテじゃない。つまり、サラテがサラテじゃなくて·····ややこしいッ!


「クリクソンの説明は下手なのよ、昔から。こういうのは順序よく話すのがいいの」


 おぉ、救いの女神よ。


「まず、サラテ様が産まれた時。国民には一人しか産まれてないって言われてるけれど、実際は違う。サラテ様とサクヤ様の双子なのよ」


 ·····双子か。


 双子は対の存在であると、昔から考えられている。


 例えば、片方が善だとすると、片方は悪などといった考えが伝えられているのだ。


「そして、サクヤ様は妹。サラテ様は姉なの」


 先に産まれた方が早くに大成すると言われ、昔から長男、長女が権力を持つ。


 つまり、サラテ──もとい、サクヤは王族に殺される運命なのか。


「貴方も勘づいていると思うけれど、代々、姉の大成を祈って、妹を生贄にする風習があるのよ」

「でも、そんな昔の考えなんて·····」

「そう、普通はそんな事ないわ。この国も稀に双子が産まれてくるけど、別に殺すことはしない。でも、王族の場合は変わってくる」


 一拍。エルサは言った。


「これが、国家機密。それが『王国の罪』と呼ばれる儀式」


 王国の、罪·····。


「『勇者伝説』を知ってるかしら?」

「あぁ、よく昔から聞かされた話だ。俺もよく知っている」

「第五章に『王国編』というのがあるの。そのストーリーの大まかな流れは、魔王が姫を気に入り、嫁にする所を勇者が助けるという内容よ」


 知ってる。


 前に言ったレーデの憧れである〝お姫様抱っこ〟とはこれから来ている。


 最後の勇者に抱えられるお姫様の図を、通称お姫様抱っこというのだが、これが名シーンで、よくレーデが読んでいたところである。


「それがどうしたんだ?」

「これは王国の図書館、それも禁断エリアとされている場所に残されている書物に書いてあったことなのだけれど、その時の王女様は双子だったのよ」


 ·····双子だと?


「『勇者伝説』の第五章で魔王は姫を攫っていった勇者を追わず、引いたとされる。それは勇者の力に恐れ、逃げたとされるが、本当は違う。王国が代役を立てたのよ。双子の妹を、魔王に差し出した」

「──ッ!?」


 王国が代役を·····!?


「何故?」

「王国は恐れたのよ。魔王による報復を·····。勇者はそのまま姫と駆け落ちして、幸せに暮らし、そして第六章に続くのだけれど、王国のその後は描かれてないの。そして、その後が描かれたのが王国の禁断エリアに保存されていた。それが、妹を生贄として魔王に差し出し、事なきを得たという文献よ」


 それが『王国の罪』の所以って訳か。


「それから代々、双子が産まれた年には妹を生贄とし、捧げてきた。勇者によって倒された魔王が復活しないように、妻として捧げるのよ」

「そして、今回、サクヤがその対象って訳か」


 なんとも悲しい話だ。


「『勇者伝説』の裏側では、こういうのが度々あるそうよ。エリドの言ってたこの世は〝現実〟だって意味がよく分かったわ」


 夢物語のように終わらない。

 とんだ馬鹿な勇者もいたもんだ。


「エリドはこの事実をたまたま知ってしまった。あの日、凱旋パーティの日、サラテ様が私たちに挨拶に来た頃、エリドは間違えた部屋を開けてしまった。その先に居たのが、監禁されたサクヤ様。来る日の生贄として、牢獄に入れられていたそうよ」


 そりゃあ、あんなに好きになるわけだ。


 何も知らないからこそ、師匠の言葉は誰の言葉よりも面白く、それこそ夢物語のようであっただろう。


 彼女にとって師匠は〝光〟そのものだったのだろうか。


「私達も口頭で説明された時は驚いたけれど、調査をして行くうちにそれが本当のことだと分かった。そして、来る日になんとか救出出来ないかと考えていたのよ」


 ·····なるほどね。


「じゃあ師匠はここに来るのか?」

「それがさっきから連絡してんのに、出ないのなんの。アイツ、本当に自由な奴だな」


 クリクソンがお手上げと言わんばかりに、連絡器具を投げた。


「なら、ほっときましょう。それよりも、ルーロ。貴方はどうするつもりなのかしら?」


 エルサが尋ねる。


「勇者のように助けても、また悲劇が繰り返されるだけ。貴方はどうやって、サクヤ様を助ける気なの?」


 ·····どうやって、ねぇ。


 この件で王族を殺してでも攫ってくれば簡単に済む話である。


 だが、その後が問題だ。主導者がいなくなった国は国じゃなくなり、多くの人が困り果てるだろう。

 だから、この作戦はなしだ。


 なら──


「死を偽造しようか」

「·····それが、一番かしらね」


 だが、この作戦の一番の問題は。その後、どうやってサクヤが暮らすか、である。


「ちなみに、その来る日ってのはいつなんだ?」

「『魔の森』の湖に入ったということは、身を清めるため。猶予はそんなに残されてないわ。せいぜい一週間あたりでしょうね」


 なら、二日あたりで準備を整えなければならないのか。


 それぐらいあれば充分だっ!


「この件は俺に任せてくれ」

「死を偽造するだけではダメよ? その後始末が出来るのかしら?」


 既に、何個か案は浮かんでる。


「大丈夫だ。任せてくれ」

「··········自信があるのね」

「当たり前だ。失敗なんて二文字は俺の辞書に存在しない··········多分」

「もう自信がないじゃない·····」


 エルサは呆れながらに言うが、頷く。


「·····分かったわ。でも、失敗する可能性が少しでも浮かんだら、相談。又は、直ぐに連絡してくれないかしら? 私たちが全面的にフォローに回るわ」

「有難い」


 心強いバックがついたな。


「クリクソンもそれでいいかしら?」

「あぁ、分かった」


 よし、じゃあ、こっから先は俺がシナリオを作る。


 第二章、『王国の罪』編の始まりだッ!

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