決着VSギル 後編
「せ、『聖なる槍』ッ!」
「<魔力・絶>」
焦ってろくに相手を見ていないギルは、『聖なる槍』を連発する。
だが、当然の事ながら俺の手元にまで届かない。
「『鬼神の牙刀』」
「ヒッ」
腰に差した刀を引き抜けば、ギルは怯えたように一歩後ろに下がった。
「安心しな、峰打ちでやってやるよ」
「こ、この『聖なる鎧』」
魔法を身にまとい、防御力を強化したか。
「こ、これで君の剣は意味を成さない」
「確かにそうかもな」
悔しいが、聖属性とはそこまでに優秀な属性なのだ。
属性には得意なものがあり、火属性なら攻撃性が、木属性なら防御性が高い。
そして聖属性はオールラウンダー。
つまり、攻防一体を可能にする最強の属性と言ってもいい。
確かに勇者が扱う属性なだけある。
「だが、それも術者が違えばゴミになるんだよ」
「何を馬鹿なことを──」
俺の魔力奪取は魔法が術者に近ければ近いだけ難易度が上がる。
距離が空けば魔力制御の管轄から離れていくのだが、距離が近いと魔力制御の管轄内にあり、こちらが支配権を有することは難しい。
なら、一点突破だ。
「お前のそれを破壊する」
「──ッ!?」
ファースト解放ッ!!
俺は地面を思いっきり、蹴った。
物凄い音と同時に、亀裂が走る。そして、俺は瞬時にギルの目の前にまで接近した。
「<連撃>」
怒涛の連続剣撃。
縦、横、突き、俺は流れるように繰り返す。
ピキっと音が聞こえた。さすがの『聖なる鎧』も鬼神の牙には勝てなかったのだろう。
「馬鹿なッ!」
「おらよッ!!!」
極めつけの突きで、完全に鎧を破壊した。
「ゲホッ、おかしい。おかしいよぉ」
「何がだ?」
「何故、属性適性を持たない君が、ここまで!?」
ギルの言葉は観客席にまで届く。
「なんと属性適性がないだと?」
「そんなもの冒険者には向かないッ!」
「有り得ないわ。まさか、今まで賄賂を!?」
ありもしない事を囁かれる。
ギルはその光景を見て、ニヤッと笑った。
「そうです。彼は、ルーロは僕にこう持ちかけてきたんです。『次の試合、わざと負けてくれ』と」
「なんと、やはりッ!」
そしてありもしない噂は事実となって、それに同調するように周りが非難し始めた。
「そんなもの冒険者には必要ないッ!」
「帰れ、試験は中止だ!」
「この卑怯者めッ!」
虫どもの羽音が俺の耳に入ってくる。
エルサやクナイは何も言おうとはしない。
だが──
「そんなの嘘に決まってるじゃない!」
「──ッ!?」
ギルの目が見開かれる。
俺も驚いた。
まさか、レーデが抗議するなんて。
「私は正々堂々と勝負して負けたの! それを否定するなんて、私たち敗者への侮辱だわ!」
「そ、そうだ!」
「そうね!」
俺に負けた試験者たちがレーデに続く。
「彼の力は本物。じゃなきゃ、ね、『ネクストドラゴンキラー』である私が負けるはずがないでしょ!?」
レーデたちの言葉は先程までの野次馬共の口を黙らせた。
だが、馬鹿者の口は黙らせられなかったみたいだな。
「ならば、レーデは追放だ」
「え?」
「弱者に『ネクストドラゴンキラー』は相応しくない。君は今日をもって追放だよ。これならば、君の言葉は弱者の言葉になる。そして、強者である僕の言葉が正しいという証明となるのだ!」
誰もがギルの発言に言葉を失った。
当たり前だ。俺もここまで怒りが湧いてくるんだから。
「──いい加減にしろよ」
「は?」
「てめぇの口からは追放しか言えねぇのか?」
「ルーロ、君は誰に向かって言葉を──」
「なら、レーデは俺が貰う」
後でレーデにいくらでも怒られてやる。
どれだけ嫌われたって構わない。
でも、てめぇに人生狂わされる身にもなってみやがれ。それだけは許さねぇ。
「てめぇが強者だと?」
「あぁ、そうだ。僕は聖属性の適性者であり、次の勇者候補。そして、あの龍を殺せるような最強の冒険者になる男だからな」
俺の知ってる龍殺しは。
俺の知ってる最強の冒険者は。
俺の知ってる強者は──
「てめぇなんかじゃ、ねぇえぇぇッ!!!」
俺は思いっきり、ギルの顔面を右ストレートで殴り飛ばした。
「立てよド三流! てめぇに強者ってのを、その力の一端を見せつけてやるッ!」
「<二段階・解放>ッ!」
瞬間、ファーストの時とは比較にならないほどの、爆発的な魔力が俺の全身から吹き出した。
「一瞬で終わらせてやる」
会場中が俺の魔力に注目する。
丁度いい、さっき、俺に文句言ってきた野次馬共にも見せてやるよ。
「<全開出力解放>ッ!!!」
セカンドに秘める全ての魔力が俺の右拳に集約する。
銀色に光り輝く魔力の光は、激しく会場中を照らし出す。
「喰らいやがれ──<銀滅の拳>」
ギルの腹部に無慈悲に繰り出す正拳突き。
溜まった魔力は波紋状に広がっていき、ギルの体をこれでもかと言うぐらい吹き飛ばした。
でも、さすがは聖属性か。
「う、うぐっ」
その姿はいつになく弱々しい。
滑稽だ。実に愉快である。
「ざまぁねぇな。追放した男にボコされるなんて!」
「もう許して」
涙で顔をぐちゃぐちゃにして、許しを乞う姿はかつてのギルからは想像出来ない。
「てめぇが追放したんだろ。てめぇが俺を殺しかけたんだろ? その罪を、その重さを知ってもらう」
「な、何を──」
「今、誓え。一つ、俺たちに手を出さないこと。二つ、自分勝手な行いを反省すること。これを破った場合──」
「分かった、誓う、誓うからッ!」
「じゃあ、これで試合は終わりだ」
そう言って踵を返した瞬間。
「馬鹿がッ! 僕に手を出したこと許すわけねぇだろ──『聖なる槍』ッ!」
セイノが驚いて止めに入るが、ギルの手からは一向に『聖なる槍』が出現しない。
「あ、れ? おかしいッ! 魔法が!?」
「確保ですッ!」
「な、なんで!?」
セイノや騎士団に取り押さえられたギルは怒りで顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
「ルーロッ! 何をした!?」
「話を最後まで聞かねぇのが悪いんだろ?」
「答えろッ!」
ため息一つ、俺は説明する。
「契約を破った。だから、魔力を封印した」
「は?」
「魔力を出来るだけ奪って、少なくした後、俺の魔力で残り僅かの魔力を押さえつけた。これでお前の魔力は回復することはないし、俺の魔力が邪魔して魔法も放てない」
「··········嘘だろ」
本当に救いようのない馬鹿だ。
契約さえ守っていれば、冒険者を続けられたかもしれないのに。
反省していれば、ここまですることはなかった。
全てはギル本人が招いた結果だ。
「ざまぁ」
俺の呟きはギルの耳に入り、ギルは力なく倒れ込む。そして、騎士団に連れていかれた。
そして、冒険者試験は終わりを告げた。
まだ少し第一章は続きます。
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