決戦VSギル 前編
「これより、最終試合を始めます。ギルくんとルーロくんは準備完了次第、訓練場に集合してください」
アナウンスが鳴り響く。
「·····行くか」
今まで俺はろくに装備もしていなかった。
それは本気を出てないとか関係なく、要らなかったからだ。
『黒狼のマント』をまとっただけで試合をしていたが、ギルだけは別だ。
俺は『死の谷』で過ごしていた時の装備を装着している。
『黒狼のマント』、『鬼神の牙刀』、『黒鴉の靴』、『大蜘蛛の籠手』。
どれも『死の谷』に生息している魔物が素材で作られており、中には俺が作ったのもあるが、主な製作者は師匠だ。耐久性と実用性は非常に高い。
「それが貴方のフル装備って訳ね」
「そうっすね。別に今まで舐めていた訳じゃいんすよ。使う必要性もないってのと、これは見せつける為に装備しているだけなんで」
見送りに来てくれたエルサは小首を傾げる。
「お前が追放してくれたお陰でここまで来れたんだって、だからお前のした事は俺のためになったんだよって言ってやるんすよ」
魔物は全て俺が倒した。『黒狼のマント』と『鬼神の牙刀』だけは師匠に教わりながら、自作した。
ここまで至れたのは他でもない、ギルが追放してくれたお陰だ。
その時にした行為も含めて、まるまるお返ししてやる。
「··········頑張って」
「おうッ!」
エルサの背中に隠れながら、クナイが言う。
拳を軽く握って、ファイトって送ってくれる。
超可愛い、やばい、マジ天使。
自然とやる気が出てくるもんだ。
「やっぱり、私の時は本気じゃなかったのね」
「レーデ·····」
入口付近にレーデが立っていた。
キリッとした目を俺に向けている。
「別に本気じゃなかったってことは無い。装備をしてなかっただけで、あの場で最高の威力は出した」
「装備があれば、もっと余裕で勝てたでしょう?」
「·····まぁな、でも、レーデはそんな俺を越してくるんだろ?」
「当たり前じゃない!」
彼女の目にはいつかのひたむきさが写っていた。
「冒険者になったら、今度は一緒に冒険するか?」
「──ッ!? し、仕方ないわね。そこまで言うならい、一緒に冒険してやらなくはないんだから!」
ややこしいな。
でも、これでこそレーデだ。
「ルーロ、遅れるよ?」
「そうだな。すまん、じゃ行くわ」
クナイが後ろから教えてくれた。
あれ? なんでここで殺気のぶつかり合いが··········また俺に怒ってるのか?
遅れるって言うのは本当なので、俺は気づかないフリをして試合に向かった。
「逃げずによく来たな」
会場には既にギルの姿が。
「お前も漏らしたのに、よく俺の前に立てたな」
「なッ! あれは漏れてない。少し、水が引っかかっただけだッ!!」
「··········うそーん」
ちょっとした冗談のつもりで言ったのに、まさか本当だったとは·····。
ギルが羞恥心を露わにして震えている。
「·····なんか、ごめん」
「謝るなぁッ! 漏らしてないと言っているだろう!?」
「マジでごめん」
なんとも言えない空気が流れる。
セイノは切り替えるように、試合開始を促す。
「り、両者構えて、試合開始ッ!」
そして最終試合の鐘が鳴る。
「「うぉぉぉぉぉぉ」」
観客席がいつにも増して盛り上がっている。
ギルはそんな彼らに見せつけるように、魔法を放った。
「君は女の子に守られていた。あの子がいない今、君に勝ち目はない。『聖なる槍』ッ!」
あの時と同じ魔法。
聖なる光の槍が出現し、俺めがけてセットされる。
自然とあの時がフラッシュバックする。
怖かった。
悔しかった。
悲しかった。
様々な思いが駆け巡るが、それらを踏み越えるように俺は一歩前へ踏み出した。
「あの時とは違う」
そう、もう違うのだ。
弱かったあの時とは。
悔しかったあの時とは。
師匠に出会って、物語が始まった。
これはその第一章に過ぎない。
だから俺は、ギルの魔法を嘲笑うかのように右手で空を切った。
「なッ!?」
「<魔力・絶>」
神々しく輝いていた『聖なる槍』は儚く散る。
それは俺が吹っ切れた証明だった。
「俺は昔の俺じゃない。あの時は憎かったが、今は少しだけ感謝しているんだ」
何度も言うが、追放されなければこうはならなかった。
だから、嘲笑を含めてこう言う。
「ありがとう。俺を強くしてくれて、そしてさようなら。てめぇは今ここでぶっ飛ばすッ!」
そして最後の試合が幕を開けた。
第一章も終盤です。
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