VSレーデ
「いやぁ、緊張するわ。さすがに」
訓練場に設備された休憩室で俺は次の試合を待っていた。
壁には対戦表が貼られており、次の対戦者が書かれている。
「レーデ·····」
次の対戦者はレーデだ。
火属性の適性者であるレーデは昔から優秀だ。一筋縄ではいかないだろう。
だが──
「勝たないといけない」
レーデに勝てば、次の決勝でギルと当たる。
負けられないし、負けない。
師匠も言っていた。
「諦めたらそこで試合終了だ」
って。
だから、どんな相手だろうと俺はベストを尽くすだけだ。
「次の試合を始めます」
さぁ、行くか。
ツンデレを倒しにッ!
「久しぶりだな」
「··········えぇ、そうね」
·····あの、さ。
俺は女の子に嫌われ過ぎじゃね?
殺気が漏れているんすけど。しかも、殺気だけだったらクナイに勝っているかもしれない。
すんません師匠ッ!
ツンデレってなんすかっ!
「ツンツンデレデレって事だ」
頭の中の師匠が答えてくれたが、本当に意味が分からない。
ツンツンしかないんすけどぉ? デレが一つもないんすわっ!
「両者、構え」
案の定、無慈悲に試合開始の合図は告げられた。
「では、試合開始ッ!」
レーデの先制。
「貴方の力は分からないけど、量で勝負するわ──『無数の火球』」
際限なく出現する火球。
それがバラバラに飛んでくる。
「<魔力・絶>」
一斉に魔力を奪うが、量が異常に多く、全てを奪うことが出来ない。
クナイ戦時の俺を見て、量で押し切れば勝てると判断したんだろう。
これは避けないとまずい。
──ファースト解放ッ!
「それも知ってるわ」
「ッ!?」
余裕そうにレーデは淡々と告げていく。
「驚異的な身体能力。魔法が使えないルーロに、これ以上の効果が存在する技なんてない。なら、近づけさせなければいいだけだわ」
レーデは『無数の火球』を数球、自分の周りに配置させる。
「そんなんで、俺の足を止めれると思うなよッ!」
俺は関係なく、レーデの真後ろに回り込む。
貰った──ッ!?
「──真後ろに来るのは予想出来てたわ」
「ッ! な、にっ!」
火球が地面に着弾し、地面が爆破した。
土煙で視界を防がれる。
「セイっ!」
「カハッ!」
矢継ぎ早に回し蹴りが俺の腹部を襲った。
「魔法使いが魔法だけ鍛えているわけがないでしょッ!」
腹部を蹴られ、完璧にタイミングが遅れた俺はレーデの怒涛の拳舞に為す術がない。
「ラストッ!」
気合いの籠った正拳突きが俺の顔面をクリーンヒットし、俺は地面に突っ伏した。
「·····勝者──」
「まだ終わってねぇ」
ったく、どこ見てんだか。
「なんで立てるの!?」
「あのなぁ、確かに武術は凄かったが、魔力操作がお粗末過ぎるんだよ」
俺はファーストを解放している。
つまり、防御力も通常に比べて上がっているのだ。そこに魔力操作がお粗末なレーデの攻撃が加わっても、ほとんどダメージを受けない。
「本物の魔力操作を見せてやるッ!」
「む、無数の火──」
「遅いッ!」
俺は額に向けて、デコピンをした。
ただのデコピンと侮るなかれ。普段ならともなく、今の俺の状態で放たれたデコピンは超痛い。
「これで終わりだな」
吹き飛ばされ、派手に転び、ボロボロになっている。
「終わらせない、まだいける」
それでも尚、立った。
「なんでそこまで··········お前なら落ちることも無いだろ?」
「──よ」
「え?」
「嫌なのよッ!」
レーデの言葉は俺だけではなく、観客中に響き渡った。
「追放して、それでも会えると思ってたのに、勝手にどっか行って。一緒に強くなろうって思ってたのに、勝手に強くなって帰ってきて。女の子と一緒に楽しそうにッ!」
一緒に強くなる?
確か前に──
「私、出来ないぃぃ」
「あと少しだから、頑張れよ」
小さい頃、レーデは魔力操作が出来なかった。
俺は最強の冒険者に憧れていたから、凄く練習して出来ていたのだが、レーデだけはからっきしダメだった。
「どうやってできるようになるの?」
「うーん、努力かな?」
「私も頑張ってるのにぃ」
あの頃はレーデも素直だった。
強さに対してひたむきで、だから俺は言ったのだ。
「一緒に強くなればいいだろ」
「え?」
「出来ないなら俺が教えるし、逆に俺が出来ないことを教えてくれよ。そしたら、強くなれる」
「ほんと?」
「当たり前だろ」
遂には泣き始めたレーデをそうやってなだめたのだ。
それから、メキメキと上達し、遂に俺よりも上手くなった。
あの頃からか。今のように棘のある言葉遣いになった。
「──あんな昔のこと覚えていたのか」
「当たり前じゃない。どれも大切な思い出なのよッ!」
·····レーデ。
「それなのに勝手にいなくなって、一緒に強くなるって言ったのに。私が教えようって思ってたのに」
「·····そうだったのか」
誤解してたかもしれない。
確かにレーデは言葉に刺があるが、どれも俺を思って言ってくれた言葉だった。
「だから、許さない。許さないのッ! 私の方が強いって証明して、また、次こそはッ!」
レーデの魔力が膨れ上がる。
「今度は一緒に、一緒にィッ!!!!」
レーデの赤色の魔力が綺麗な真紅となって、膨張する。
「これで決めるんだからッ!」
「レーデさん。これ以上はッ!」
セイノが止めようと近づくが、その圧倒的な魔力に近づけない。
さすがの俺も、ここまで膨れ上がった魔力は奪えようとも奪えない。
だから、俺は真っ向から受け止める。
「渾身の魔法を喰らいなさいッ! 『サラマンダーの獄炎』ッ!!!」
この世界に魔力が存在するように、また精霊が存在する。
純度の高い魔力を好み、自由で姿を見せない謎多き生物。
契約を結べば圧倒的な力が宿り、契約を背けば命を奪われる。
精霊は属性ごとに存在し、五大精霊と呼ばれる最高位の存在がある。
それがレーデの肩に──『サラマンダー』と呼ばれる小さなトカゲいや、ドラゴンが居た。
この一撃は高位精霊の一撃。人の身では到底耐えられない最高火力の獄炎。
ならば、俺も応えよう──
「<全開出力解放>ッ!!!」
ファーストで引き出せる最大出力。内から溢れ出る魔力を確認し──
ただただ、拳を突き出した。
これで勝てるとは思えない。獄炎の魔力を出来るだけ奪い、威力を充分に殺す。
衝突する獄炎と拳風。
引き起こる拮抗、とてつもない暴風が巻き起こる。そして──
「あっ·····」
それは誰の声か。
拮抗が崩れた。
俺の拳風が獄炎を巻き込み、そして打ち消した。
倒れるレーデ。消えた、サラマンダー。
残ったのは静寂だった。
「おい、審判ッ!」
「あっ、しょ、勝者、ルーロッ!」
皆が呆気に取られていく中、レーデを回収しようとした職員たちを押しのけ、俺がレーデに近づく。
「離れてください。過度に魔力を使用した事により、命が危険な状態なんですッ!」
「そんな事は分かってる」
俺はレーデを抱えあげる。
かつて、レーデが絵本を指さして言っていた。憧れのお姫様抱っこと言うやつだ。
お姫様抱っこをしたのが俺で悪いが、緊急事態だ。
「いいわ、彼に任せなさい」
「エルサさん!?」
「エルサ、ありがとう」
職員が心配そうに見つめている中、俺は医務室に向かった。
「やべぇな」
魔力量が残りわずかだ。
「<魔力・与>」
すぐさま魔力を与えた。
やっぱ、中々の魔力量だな。ごっそり持ってかれた。
「う、うぅ〜ん」
「·····気づいたか」
半目でレーデが目を覚ます。
「る、るーろ?」
「そうだ」
「えへへぇ、ルーロだぁ」
「ちょ、はっ、え?」
ガバッと抱きつかれる。
ここ最近、抱きつかれることが多いんだが、それは。
·····と、思いながら、しかし、師匠の教えを思い出し、すぐさま離れようとする。
「クソ、無駄に力が強いんだが」
「ルーロだぁ、ルーロっ!」
身体強化してるのに、この力っておかしいだろ!?
「えへ、ルーロの匂い、ルーロ、ルーロ·····るー、ろ? は、へ?」
ようやく意識がはっきりしたか。
「なんで、ルーロの顔が近くに? えっ? キャァァアアッ!」
ドンと強い力で突き飛ばされる。
「キモイ、変態、最低ッ! 気を失っている時に抱きつくなんて有り得ないッ!」
·····理不尽ここに極まれり。
勝手に抱きつかれて、頑張って俺は離れようとしているのに、すごい力で抱きついてきて。
目を覚ましたら、突き飛ばされ、罵声の雨。
「レーデが勝手にやったんだよッ!」
「そ、そんな訳ないじゃない。私がルーロなんかに抱きつくなんて·····魔物に抱きついた方がマシよ!」
師匠、貴方の教えは本当でした。
やっぱ、触れられるのは嫌なのか。
しかも、抱きついてきたのそっちなのに。
「まぁ、それだけ元気だったらいいや」
なんかもう、この場にいたらドンドン悲しくなってくる。
はぁ·····俺が何をしたってんだよ。
「ちょ、ちょっとっ!」
「なに?」
「その·····あの、あ、あ·····」
なんだコイツ。
感謝でもしようとしているのか? 珍しい。全然人に感謝しないレーデが〝ありがとう〟を口にする日が来ようなんて──
「あ、アンタに回復されても嬉しくないんだからッ! 感謝なんてしてあげないんだからね!」
──前言撤回。
やっぱ、レーデだわ。
「分かってるよ、じゃあな」
ドアを開けて、医務室から出ていくと、声が聞こえてきた。
「なんで素直に感謝出来ないの私ッ! あぁ、もう馬鹿·····」
なんて言ってるか分からないが、大方──
「マジ最悪だわ。感謝なんてする訳ないじゃない! バァーカ」
だろう。
考えれば考えるほど悲しくなってくるので、俺は遂に考えることを辞めた。
やっぱ、レーデは分からない。
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