魔力操作の極致1
目の前ではクナイがベッドの上で横たわっていた。
ファーストを解放した状態で殴ったのだ、暫くは目を覚まさないだろう。
俺は次の試合まで時間があるため、こうして看病に来ている訳だが──
「·····少し、いいかしら?」
聞き覚えのある声と共にドアを開いた。
「·····エルサか?」
「失礼するわ。貴方のさっきの試合について聞きたいことがあるの」
やっぱりか·····。
「単刀直入に言うわ。あれは何?」
「·····」
あの場で観客たちの中、エルサだけは察したのだろう。
異質なナニカが、あの場に出現し、クナイを倒すきっかけとなったことを。
エルサだけは気づくだろうな、と、承知した上で<破滅されし世界>を発動したのだ。
ここに来ることは計算済みである。
「あれは『魔力操作の極致』を取得する為に使用する訓練場みたいなものです」
『死の谷』での修行──
数多の危険な魔物とのサバイバル生活も、師匠とのタイマンも、全てはあの世界を生き抜くための修行の修行に過ぎない。
「訓練場って、エリドでも使ってなかったわ」
「当たり前です。訓練場であって、戦闘で使うものではありませんからね」
そう、全ては俺の力不足故の結果である。
師匠ならファーストのみであの場を切り抜けることが出来ただろう。
「あの訓練場は解放状態を会得するために使用する場所でして、その先々の世界がもたらすのは〝死〟です。だから、別名『死門』とも呼ばれていますね」
初めて、<破滅されし世界>に入った時、死にかけた。
誇張とか関係なく、それは事実だ。
『死の谷』が生ぬるいと感じるほどである。
だから、クナイがあの場で立ち上がったのが異常であった。
あのまま<破滅されし世界>に留まっていれば、ファーストを会得出来ていた頃であろう。
「あの世界の事は分かったわ。でも、安易に使用して良かったのかしら?」
「師匠に『死門』を譲り受けた時、この所有権そして使用権は俺に譲渡されています。そこは問題ないっす」
「·····そう。でも、あの世界を酷使していたら──」
「分かってます」
その存在を知った奴らがどんな手を使ってくるのかは言わずもがなである。
だから、師匠は『死門』を戦闘で使うことは無かったのだ。
「最後に『魔力操作の極致』って何かしら?」
魔力操作の極致を指すものは『解放状態』である。
魔力操作を究めに極めた者が扱える史上最強の身体強化。
「何とは?」
「エリドもセカンドすら解放せずに龍と戦って、その果てに治癒不可の状態にまで陥った。貴方もクナイを倒すのにセカンドは使用してないし、私と戦った時さえもファーストで充分って言った」
一拍開けたエルサは、真剣そのものの顔で聞いてくる。
「代償があるんでしょう?」
「·····」
「エリドがよく言っていた。『死んだら死ぬし、万能な力など有り得ない。この世界は現実だ』って、だから圧倒的な身体能力を得る解放状態も無償で使用出来るものじゃないって思ったわけなのよ」
確かにファイナルに近しい段階ほど使用するのは控えろって言われてる。
その理由も、もちろん知っている。
「私は最初、筋肉痛だと思ったの。でも、それだけが代償だとは思えない。ねぇ、『魔力操作の極致』を使用した場合、貴方たちはどうなってしまうのかしら?」
「·····秘密であることは魅力ですよ?」
「え?」
「それを説明する気はありません。ファイナルなんて余程の事がない限り使わないっすから」
これ、フラグになりそうだなぁ。
まぁ、そんな時は師匠から譲り受けた〝フラグクラッシャー〟の名に恥じないよう、クラッシュしてやればいい話だ。
「貴方ねぇ··········まぁいいわ、これ以上聞いてもはぐらかされそうだしね」
「そうしてくれると有難いっすね。でも、案外筋肉痛だけかもしれませんよ?」
「ファーストだけでもあの身体能力なのに、最終段階を使用してその程度で済むわけないでしょう? じゃあ、残りの試合も楽しみにしているわ」
そう言ってエルサは去っていった。
しかし、一難去ってまた一難とはよく言ったものだ。
「·····起きてるよな?」
「··········」
まさか、ここまで回復力が高いとは。
先程まで治癒に魔力が使われていたのに、今では落ち着きを取り戻していた。
「·····代償」
「心配すんなって、筋肉痛だよ」
あんまりこの事は話さない方がいい。
自分勝手かもしれないが、これ以上心配させる訳にはいかないだろう。
「·····そっか。頑張って」
「おう、一位になって、ギルに『ざまぁ』してやらなきゃいけないんだからな」
セイノのアナウンスが聞こえてくる。
クナイに別れを告げて、俺は訓練場にへと向かったのだった。
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