確定
スタンドからはその勝負を見た興奮そのまに割れんばかりの大歓声が飛び交う。
しかし、その歓声に手を挙げて答えるものはいない。
その、歓声も掲示板に映し出された赤い文字によりどよめきに変わる。
レコード 2:19:8
従来のタイムをコンマ1秒更新した。その文字が実に38年ぶりに日本ダービーで映し出された。その数字を見た競馬を知っている者は、ついに30年以上も止まっていた日本競馬の時計が動き出したと感じた。それも、2頭の馬によって。
着順が確定したが。1.2着は映し出されず。
場内には写真判定のアナウンスが流れる。
ホワイトジェムとアルファジャックルの着順についてだ。
『どっちが勝ったと思う?』
アルファジャックル鞍上の春日が話しかける。
『アルファジャックルが出ていたようにも感じますし、ホワイトジェムが差し返したようにも感じます。』
『俺もだよ。正直、あとは運だな。』
清弘にも春日にもどちらが勝ったのかわからなかった。
清弘と春日はウイニングランは行わず検量室前に向かっていく。
ーーー検量室前にはホワイトジェムの馬主、調教師、生産者のほかに、出走馬の関係者が多く集まっていた。
『おじさん、どっちが勝ったか見えましたか?』
中島が清に興奮気味に聞く。
『真香ちゃん、落ち着いて。』
清は困ったようになだめる。
真香は久しぶりに清に会うのだが、そんな懐かしさに浸らないほど興奮をしていた。
『どっちが勝ったの、どっちが勝ったの!?』
中島は気が気ではなかった。
『俺にもわからない。もしかしたら勝ったかもしれないし負けたかもしれない。』
ジョッキーであれば多少の有利不利もわからのだが清にはそれすらもわからなかった。
『もしかしたら負けたんじゃ…。』
競馬では、1着と2着では大きな差がある。
こと、ダービーに至ってはダービー馬の栄誉かダービーに2着馬では天と地、月とすっぽんそれ以上の差がある。
検量室前にいる他の調教師も馬主も厩務員も着順とレコードの話で持ちきりである。
『これは、わからないな。松崎先生と高村さんはどう思いますか?』
大田が松崎と清に聞く。
すると松崎先生は唸りながら、
『ホワイトジェムが勝ったと信じましょう。』
そうだ、私が信じないでどうする!
中島はトントンと胸を叩く。
すると、二頭が戻ってきた。
その上に乗っている2人の表情は硬かった。
『お疲れ様です。高村騎手。ホワイトジェム。』
ホワイトジェムを引きながら話しかける。
『中島さん、なんか硬いですよ。』
中島はいつも通りに声をかけたつもりだったが、気付かないうちに硬い表情になっていた。
『ナイス騎乗だったよ、高村騎手。』
大田さんが手を叩きながら迎える。
『首の上げ下げだな。こればっかりは時の運だ。』
松崎も硬い表情で清弘を迎える。
しかし、清は声をかけなかった。
ただホワイトジェムと清弘を交互に見つめるだけであった。
『そうですね。あとは信じるだけです。』
清弘は鞍を外し、検量室へと向かった。
中島はホワイトジェムをひき、クールダウンを行わせる。あれだけのレースをしたのだ、体に相当負担がかかっているはず。
『ホワイトジェム大丈夫?』
中島は馬体、特に足を入念にチェックする。
馬の足はガラスの足で怪我で走れなくなることもあるし、最悪さに至ってしまう。
『歩様に問題なし、足にも腫れは無い。お疲れ様。』
さすがに疲れているようであったがホワイトジェムはいつものようにパカパカと洗っている。
『何も異常ないかな。』
確認をしていると、後完了を終えた清弘がこちらに向かってくる。
『ホワイトジェムは問題ないですか?』
『はい、大丈夫です。』
『良かった。あれだけのレースをしたから心配でしょうがなかったんです。』
清弘はフーッと息を吐き、ホワイトジェムを撫でる。
『それにしても、本当に分かりませんね。』
中島はモニターの方を見て呟く。
モニターで何度も何度も流されるリプレイ映像。
技術が発展し、本当に細かいところまで鮮明に見れるのだが、それでも全く分からない。写真判定に結果は委ねられる。
しかし、写真判定でもまだ決着がつかない。
関係者の間でも同着ではないかとの声が上がってくるほどだ。
『本当に、何回見ても並んでるようにしか見えませんね。』
検量から戻ってきた清弘が答える。
『でも、大丈夫だよ真香。多分勝ってる。』
清弘がポツリと続けた。
そして、15分に及ぶ写真判定の末に結果が出た。
5
1 ハナ
9 7
8 3
2 クビ




