皐月賞の後
皐月賞の翌日、厩舎では松崎と清弘が話していた。
『あれは強い。』
松崎が大きな声でその言葉を発した。
『ええ、認めたくはないんですが。』
今まで対決がなかった分、まだ成長したホワイトジェムの方がという可能性を信じていた。
しかし、若葉、皐月の連敗によりこれを認めざるを得なかった。
『あの末脚は脅威だ。まともに同じ土俵で勝負はできない。競馬に絶対はないとはいえかなりキツイだろう。』
『ですね…。自分の騎乗の未熟さもありますし。』
かなり気弱になっていた。
大舞台とはいえ、ホワイトジェムをうまく抑えられず
あれだけの差を見せつけられたのだ無理はない。
『あれだけ抑えようとしても行きたがったんだ。清弘を攻めようとはしないさ。お前の騎乗技術は認めている。それよりも問題は前に行きたがるとことだな。』
ホワイトジェムは皐月賞で見せたように最近の調教でも行きたがる癖を持ってしまっていた。
『ソラを使わなくなったとは言え…』
何も策が浮かばず頭を抱える。
『いっそ逃げてみるか?』
やけくそで言った。
『もしかしたら、いいかもしれません。』
清弘が言った。
『は?』
松崎は驚いた。
口からついつい出てしまった言葉に意外な反応を示されたからだ。
『実は牧場にいたとき。この馬には逃げが合うと思われていたのですよ。』
『詳しく聞かせてくれるか?』
『スタミナがあり、母、父ともに先行逃げ切りだったのでジリ脚になる血統かと思われていたのですよ。』
『そう思うよな。』
血統がものを言うのでそう思われるのは当然だ。
『ただ、ホワイトジェムにはいい末脚はあるぞ?』
『たしかにいい末脚はあります。ただ、これは自分が見たわけではないのですが、牧場時代の育成中に大爆走をしてふらふらになり、並ばれながらもハナは絶対に譲らなかったらしいんですよ。』
にわかには信じ難かった。
あんなに大人しいホワイトジェムが?
『たしかに、皐月でも粘りを見せたけども…』
その後、少し考え込んだ松崎。
『たしかに逃げに行く作戦もあるだろう。』
そう言った上で、
『ただ、今までのスタイルを崩した上で、勝ちに行く自信はあるのか?あのダービーの舞台で。』
松崎は問いかける。
『持つような自信はないです。未熟者ですし。
ただ試してみたいと言う気持ちはあります。』
その答えとその顔に松崎の迷いはさらに大きくなる。
『一旦保留だ。ダービーまではまだある。その時までに考えよう。それに他のお手馬のこともあるしな。』
結局この場では、まとまらなかった。
最大の目標である日本ダービーに課題を残す形となった。




