決意
ーー月曜日、清弘は実家に帰っていた。
競馬サークルは月曜日が休みであるからだ。
実家は美浦からほど近い鹿島市。
豊かな緑に囲まれた牧場である。
息子の雄太が東京の大学に行ったため、
今は家族だけではなく、2人のスタッフがいる。
『母さん、ただいま。突然ごめんね。』
『お帰り、清弘、ご飯食べていく?』
『いや、大丈夫。顔見せに来ただけだから。
父さんいる?』
『厩舎の方にいると思うよ。』
何気なく交わした言葉であるが、ここに帰ってくるのは久しぶりなので母弘子はとても嬉しかった。
しかし、それ以上に息子の顔が何か悩みを抱えているようにも見えるのが気になった。
ーー厩舎のほうに行くと父は馬房の手入れをしていた。
『父さん、ただいま。』
『ん?』
清はとても驚いた顔でこちらに振り返った。
何しろ帰ると連絡したのは今日の朝なのでまだ清の耳に届いてなかったのである。
『おかえり、清弘。連絡なしで帰ってくるとは。何かあったんだろ。手入れ終わったらすぐ行くから外で待ってろ。』
ここに事前の連絡なしで帰ってくるのは悩み事がある時だろうと清は知っている。
『父さんはどうやってあんなにうまくなっていたの?父さんのように乗っているつもりでも全然上手くいかない。同期は勝っているやつが何人もいるのにG1勝ててないのがいい証拠だ。』
清弘は自分をそう言った。
清はかつて若手の中でも将来を嘱望されるほどの騎手であった。
『考えすぎだ。お前は』
『でも、俺は…。』
今にも泣き出しそうな声でそう言った。
『お前は上手く乗っている。本当にそう思う。
馬のことを本気で知ろうとしている。
誰だって失敗するしそれが続く時だってある。』
『でも、父さんのように結果は出ていない!』
清弘は悔しそうにそう言った。
『焦ることはない。たしかにいま勝つことも大事だ。でも何で騎手を始めたんだ。昔から馬が好きだったからだろう?馬に触れ合って大事にして。
そんなお前なら、清弘なら俺を超えられるし、トップジョッキーにだってなれる。保証する。』
清は真剣な表情でいった。
清弘は胸の奥のつっかえがスーッと取れる気がした。
清弘は天を仰ぎら過去の自分を振り返った。
馬と真剣に向き合うことの大切さか。
清弘にこの言葉はとても染みた。
『ありがとう、父さん。俺、精一杯頑張る。
頑張って頑張って父さんも安楽も超えてやる!』
そう強く決心をした清弘。
その顔に悩みなどは一切見られなかった。




