8話
「それでは基本的なことから説明していきましょう。魔法とは己の魔力を消費して、通常では起こり得ない現象を引き起こすことを指します。一種の奇跡とも言えますわね」
「うん、そこまでは知ってるね」
使わないとはいえ、知らなくていいわけではない。それが師匠の持論であった。なので、知識はなるべく満遍なく。使わないものは基本を押さえ、使うものはより深く踏み込む。そのため、魔法の知識も基本だけは頭に叩き込まれているのだ。
がっかりさせちゃったかな、と思っていたが、そんなことはなかったよう。熱の入った話はまだまだ続いた。
「魔法は属性を介して発動します。発動した魔法は必ずいずれかの属性に分類されるわけですわね。属性は火、水、風、土、雷、光、闇、無の八つですわ」
「なるほど、思っていたよりも多いかな」
異世界物の小説を読んでいると、大体は火、水、風、土の四属性、ないしは無属性を加えた五属性。たまに、光と闇が加わることもあった。それにしたって、七属性しかないのだし。
しかし、これだけ属性が多いとなると、大変ではないのだろうか?もし目的の属性を使える術者を探すとなれば……途方もない時間が掛かりそうである。だが、そんな考えは杞憂であったようで。
「とはいえ、魔法を使う者は大体二属性使えるものです。少しセンスがあるものならば、三属性使える者がいても不思議ではありませんわ」
「あ、そうなんだ?」
「そうだぞ。あたしも雷と無属性使えるしな」
会話をぶった切っているのはティオである。彼女は僕の隣に座って、ルクレースさんの話を聞いているのだ。そこまで警戒しなくても、恐れるような事態にはならないと思うんだけどな。ルクレースさんが距離を縮めるのは理解者を見つけた!という感じなのだし。
話は戻るけども、魔法使いは普通二属性以上使えるのか。少し意外だったが、よくよく考えればここは異常な世界だ。これぐらいなら驚くべきことでもないか、と思い直した。
「そか、それなら納得だ」
「え、何がだ?」
「いや、前に自衛用の魔道具渡したでしょ?あれは装着した人の魔力を使って人を弾くからさ。君が雷の属性を持っていたなら、暴走したときに雷を放出してたのも頷けるよ」
もし彼女が火属性だったのであれば、暴走したときは炎が吹き荒れていただろう。そう考えると、彼女が雷属性でまだよかったのかもしれない。フロアが燃えていたら洒落にならなかっただろうし。……いや、そのときはノアに頼んで、鎮火させていたかもしれないけども。
「うう……あんときは悪かったな………」
「別にいいさ、過ぎたことだしね」
終わったことをいつまでもずるずると気にするのは器が小さい。どうせどこまで悔やんだところで、やり直せるわけでもないのだ。それならば、前に踏み出す方がよほどいい。
それを実行できるようになったのはつい最近だし、偉そうに言えた義理でもないけどね。乗り越えるには色々なことがあり過ぎたし。……それも言い訳か。
とにかく、僕は気にしちゃいないってことだけ伝わればいい。それが僕にとって………
「聞いていますか?」
「あ、ごめんね。ちょっと考え事してた」
意識をようやく僕たちの方へと戻したルクレースさん。こちらの意識が逸れていたことを察したのか、少し不満顔だ。頭を何度か下げて、ふと思ったことを質問することにした。
「そういえば、同じ魔法でも使う人によっては威力が変わるものなのかい?あるいは、魔物の方が強力とか………」
「よい着眼点ですわ!」
不満そうにしていたのはどこに行ったのやら。花が咲いたように顔を輝かせ、距離を詰めた。今度は完全に近付く前に割り込んだティオに、この一連の行動はしばらく続きそうだ、と笑ってしまうのであった。
※ ※ ※
「……どう?使えそうだった?」
ルクレースさんに協力してもらいながら、データを入力。ノアにも頼んで、敵がランダムに、しかしおかしくならないように魔物を敵として登場させる。そして、現在開発途中の人型兵器のデータを入れて、コクピットと同じ空間を作る。最後に、操作系統を作り上げれば完成。シミュレーター自体は1週間もあれば試作品を作ることはできた。……何度か上手くいかず、作り直す羽目にはなったけど。
シミュレーターの中から出て来たのはロメリアさん。試運転に付き合ってもらっているのだ。彼女は微笑んで頷いてくれた。
「ああ、今度は大丈夫そうだ。これをいくつか作れば、開発している間に操作に慣れることは可能だろう」
「そか、それは良かった。長い間付き合わせちゃってごめんね」
「いや、構わないさ。そもそも、一番大変なのはヨロズ殿だろうからな」
今日は早めに切り上げて休んでくれ、と続ける。ありゃ、ばれちゃってたか。一応、隈を隠すために軽く化粧はしているのだけど。……化粧に慣れている時点で男としてどうなのか、という質問はあるだろうが。
ここ2週間はほとんど寝ていないのだ。寝たとしても、せいぜい1時間ほど仮眠をとるぐらい。まともに寝たのはいつだっけ、と思うぐらいには頭がボーっとしていた。今更ながら、よくミスをしなかったものである。
「ん、わかった。理論自体はもうできてるし、同じの作るだけならそう時間もかからないでしょ。今日は早めに仕事を終わらせるよ」
「ああ、そうしてくれ」
「それと、ルクレースさんも長く付き合わせちゃったから。もしできれば、彼女だけでも先に休ませてくれないかな?」
ロメリアさんに頼むと、彼女は苦笑しながらも頷いてくれた。今は意識を失っているルクレースさんを部屋から運び出していった。
ルクレースさんにもシミュレーターの開発に大きく関わってもらっていた。魔法はまったく使えない僕の代わりに、魔法の威力や使える相手、そしてタイミングのことまですべて引き受けてくれたのだ。本当に感謝しかない。申し訳ないとは思わないのは、彼女もまた嬉々として参加していたからだろうが。
「ふう、あと少し。頑張りますかね」
素材の山を前にして、一人呟くのだった。




