7話
「んー、これはどうしたものか………」
人型兵器の設計、試作を始めてから早2週間ほど。ロメリアさん、ローランさん、ルクレースさんの助言によって、開発段階にまで進むことはできた。
自分では気付かなかったことや何を欲しているかを知ることができたため、どんな機体を造るべきなのか。具体的な形にすることができたのだ。
……なのだが。
「次はこう来たか………」
初めて物を作るときは、失敗と隣り合わせである。何度も何度も失敗して、ようやく形にすることができるのだ。僕自身、自分のことを天才だとは思っていない。失敗も何もなしに完成するなんて、さらさら思っちゃいなかった。だから、ここで躓くことは別に恥でも何でもないのだが………
「そうか、そもそも動かし方について考えてなかった………」
動かしやすくすることに考えを割き過ぎていた。そもそも大前提として、こちらの世界では機械を動かすことなんてなかったはずである。人族だけでなく、フェルトやティオ、更にはティオの仲間であるドワーフにも聞いてみた。だが、誰一人として複雑な機械を操作したことなどない、との答えが返って来たのだ。
車を動かすことだって、いきなり動かすことはしない。規定や規則を学び、シミュレーターを使い、自動車学校内で場内教習を行って、その上でさらに路上教習をする。そこまでやって、試験に合格したらようやく免許取得なのだ。急に動かそうとすれば、事故が起こるのは時間の問題である。
「となると、演習場とシミュレーターが必要っぽいな………」
これじゃあ、機体を完成させることを急いでも仕方ない。演習場の方はノアに頼めばいくらでもなんとかなる、のだが。シミュレーターの方は僕が作らないといけない。それに、少なければ騎士団全員に行き届けることはできない。それなりの数は必要になってくるはずだ。
一時人型兵器の開発を延期して、シミュレーターの製作に集中すべきか。
「シミュレーターか……車を運転させるのと違うだろうし、結構難航するだろうな………」
物理攻撃、自らが開発した兵器だけであれば、正しい威力は知れる。物理攻撃なら物理法則にしたがっているし、計算すれば威力もわかる。自ら開発したものも、実験の場に自分がいるのだ。威力も知れようというものである。
だが、問題はこの世界に魔法があるということである。これが僕を悩ませているものであった。
「僕は魔法使えないしな………」
魔法を使えれば、話は早かったのだが。生憎と僕にはその才能すらなかった。魔力を感知することはできても、魔道具を使わなければ魔力を体外に出すことができないのだ。魔道具を使ったところで、僕の魔力には大きな問題があった。
それは周囲の環境に含まれる環境マナ、と呼ばれる魔力に、僕の魔力が非常に近いこと。魔力を放出すれば、周囲に広く拡散していくだけ。つまりは『魔法』という形になる前に、魔力が溶けて消えてしまうのだ。魔法を使おうとしても、ただ魔力を吐き出すだけの無意味な効果となってしまうのである。
通常、自分の魔力と環境マナが似通っていることは大きなメリットである。環境マナは体内に取り込むことができる。自分の魔力と似ている、ということはそれだけロスが無く使えるということなのだ。
しかし、だ。僕の身体は一種の絶縁体のようなものだった。魔力を体外へと放出することができなければ、体内へと取り込むことすらできない。加えて、仮に放出しても空気に溶けていく。かと言って、僕の身体が魔法に耐性があるかと言うと、そういうわけでもなく………
「……何というか報われないなあ、と………」
あれ、おかしいな?異世界転移ってこんな感じだったっけ?魔法や剣を扱いながら、鮮やかに活躍する話じゃなかったっけ?なんだか、思ってたのと違う………
話を戻そう。魔法のことはどうやっても自分の力ではどうにもできない。専門家に聞くのがいいだろう。今は食事をしてもらうために休憩させているのだが、大丈夫だろうか?あの人、基本的に仕事ばっかりしてるからな……適当に済ませて、すぐに帰って来るとも思えるような………
「ただいま戻りましたわ。さて、魔導ライフルについての談義を再開しましょう!さあ!さあ!」
声が掛けられた、と思ったときには、彼女の顔が迫っていた。なんか、この人って距離感がよくわからないよなあ。しみじみそう思ってしまう。強引に離されたルクレースさんと、絶賛不機嫌な様子のティオは協力を依頼した頃から、あまり変わっていなかった。マイペースで天然なルクレースさんに、ティオが振り回されている、という感じ。
「そのことなんだけど、少し問題が起きてね。開発は少し止めることにしたんだ」
「何故ですか!?」
この世の終わりのような顔になってしまった。そこまでかい。話を引き継いだのはティオだ。
「結構進んでただろ?やめる必要はないと思うんだが……あと、飯買ってきた」
「いや、やめたって言っても延期するだけで、計画を中止するわけじゃないよ?ありがとね」
食べ物を受け取って、いくらかお腹に入れてから話を続ける。
「現段階だと、造ったところでまともに使えるのはロメリアさんしかいないしね。先にシミュレーターを作るべきなのさ。建造したら、すぐに試運転できるように」
「なるほどな、納得だ」
「それと、関節の部分がまだ脆いからね……シミュレーターを作ってる間も、この事は考えとかないと」
何も、問題はシミュレーターがない、ということだけじゃない。建造中の機体もまだまだ問題が残っている。シミュレーターの製作と並行して、別の素材や技術を組み込むことを考えなくちゃいけない。
それに、問題はまだあった。
「ティオに手伝ってもらってる強化外装の方も、しばらくは延期かな………」
「あたしたちだけに渡せば、不満が爆発するからか?」
「そう、確実になるからね」
やっぱり、仲が悪いことは頭が痛い問題だ。下手すれば即戦争、とか物騒にも程がある。喧嘩するなとは言わないから、多少は目を瞑ることを覚えてほしい、と思う今日この頃である。
「そんなわけで、ルクレースさんにお願いがあるのだけど………」
「……なんですか………?」
滅茶苦茶暗い声で返事があった。そこまでかい?考えてみれば、同じような状況になれば僕もそんな感じになるかもしれないけども。
「シミュレーターに魔法のことも組み込まなきゃだからね。魔法のことについて教えてほしいと………」
「ぜひお任せください!」
一瞬にして彼女が目の前に。……うん、流石だなあ。感心しながら、ルクレースさんとティオが言い合う様子を見つつ、苦笑するのだった。




