6話
「で、オレはなんで呼ばれたんだ?」
「意見を聞くため?」
「疑問形の時点で怪しさが残るんだが」
「……正直な話、フェルトが使うかどうかわかんないし」
自分の部屋へと戻る途中に、人(人族のことだけではないけど、いちいち言葉を選ぶのがめんどくさくなった)を拾ってきた。その中の一人がフェルトなのだ。とりあえず、と思い浮かぶようになった辺り、自分でも結構信頼するようになったんだね。
言動はアレだけど、頼りやすいところはあるし。人族を嫌ってるとはいえ、憎むまでは行ってないのだし、ある程度は融通も利く。手放したくない戦力だな、とは思っている。……食堂にあるカレーの種類でも増やしとこうかな。
今は文句を言いながら椅子に座っている。が、後でカレーでも作るよ、と言っただけで機嫌が回復した。……それでいいのかい?
「……そういう話じゃなかったのか………」
少し残念そうにしているのは、こちらも道中で引っ張ってきた子。ティオだ。大方、彼女のことをどう思っているかとか、そんな話をするとでも思っていたのかもしれない。うん、恋をするのはいいけどさ。僕はやめておけ、という話をしたよね?まるで聞いちゃいない……どうしたものか、と考えてしまう。
ただ、具体的な根拠を示してないしな……今は忙しくて話ができないけども、余裕ができたら説明をした方がいいのかも。そっちの方が納得してもらえると思うし。
ああ、今はティオのこともかなり信頼してる。そりゃそうだ、恋心を抱いているのであればどう行動するのかは予想が立てやすい。利用しているみたいで気分は良くならないが、今は四の五の言える状況でもない。彼女に対していい顔を続けるしかないだろう。
「私が呼ばれたのはわかるのだが………」
複雑な表情で他のメンバーを見るのはロメリアさん。それもそうか。集めたメンバーが異色だし、どうしてこんな相手を?と考えても仕方ないかもしれない。
彼女は……微妙、といったところか。人族ではまともであることは間違いない。信用はしているし、世間話をするぐらいには仲がいい、と思っている。なのだが、ロメリアさんはあくまでクリストフェル――――王子を優先している。選択を間違えれば、敵となる可能性があることは否めない。
できれば味方に引き込みたい、とは思っている。クリストフェル同様、彼女の持つカリスマ性は侮れない。人族と他の種族が歩み寄るためには、彼女のような人物が率先して動くことが望ましい。ロメリアさんに対しては、今の関係が続くように動くべきだろう。
「こいつらは?」
「意見聞くために呼んだ人。ロメリアさんの話だと、この二人は特殊だと思ってるし」
招待した最後の二人はローランさんとルクレースさん。ローランさんはやる気がなさそうに座っていて、ルクレースさんは不機嫌といった様子。二人にいい感情を持っていないのか、ティオは敵意全開。フェルトは我関せずと、買ってきた食べ物を摘んでいた。
「特殊かい?別にそんな気はないけどね?」
面倒事は避けたいのか。背もたれに体重を預けているローランさんは、遠回しに帰りたいという意志を示している。ルクレースさんは声こそ掛けないけれど、帰りたいという思いは同じなのか。彼の言葉を否定することも、責めるような目で見ることもなかった。
責めているのはロメリアさんと、何よりティオだ。ロメリアさんの方は窘めるような目だけども、ティオの方は射殺さんばかりの視線である。何もそこまで睨まなくても……と、僕が申し訳なくなるような目である。だが、騎士団であるからにはそれなりの場数も踏んでいるらしく。二人とも責める視線などどこ吹く風、といった様子だった。
「……人選間違えたんじゃねえの?」
「……奇遇だね、僕もそう思ってきたところだよ」
ははは、と渇いた笑みを浮かべながら、どうしたものかと頭を巡らすのだった。
※ ※ ※
「……とりあえず落ち着いた?」
このままじゃいけないと思ったので、場所を変えることにした。閉鎖的な空間だと気分が詰まっちゃうか。そう考えて、飲み物や食べ物を色々と買い込んだ。部屋を出て、フロアを移動。最上階まで運んでもらうことにした。
一番上のフロアは屋上のようになっていて、屋根は無色透明となっている。つまりは、空を眺めることができるのだ。少なくとも、密室よりは気分が晴れるはずだろう。
見渡せば、一面が芝に覆われている。息を吸い込めば、草の匂いが鼻を抜ける。まあ、芝だけでなく背丈の低い木も奥には生えている。座れるようにベンチもいくつかあるし、このフロアのみ雨が降れば雨粒が落ちて来る。そのため、屋根と柱のみの建物もある。建物の中には、木の机と背もたれのないベンチが置いてあった。
また、建物の近くには花壇があり、何種類かの花が咲き誇っている。そこまで大きくはないものの、花が好きでない人であっても気に止まるほどにはあるはずだ。
「こんなとこもあったんだな」
「まあね。完全に僕の趣味で作ったから、話すタイミングを失っててさ。ただこの様子だと………」
連れてきたことは正解だったかな。そう思えるほどに、険悪なムードは消えた。
フェルトはいつも通りだけど、ティオは久々に花をじっくりと見れるからか、花壇へと走っていく。ロメリアさんは驚いたように声を失っている。ローランさんは態度こそ変わっていないが、先ほどよりもリラックスしているように思われる。ルクレースさんはしゃがみ込んで、芝に触れている。本物なのか、感触を確かめているのかもしれない。
「改めて、ここにいるみんなに協力を依頼したい。ロメリアさん、ローランさん、ルクレースさんは人型兵器の開発に、フェルト、ティオには別の兵器の開発に力を貸してほしいんだ」
「ん?別の兵器?」
「うん。もし人族だけに力を与えれば、確実に増長するだろうからね。今の状態で全面衝突は避けたいんだよ」
「それもそうか」
納得したように、もとい面倒だから考えるのを放棄したように、フェルトは適当な返事をよこした。……本当に、この子大丈夫だろうか?心配になってくるレベルである。
「具体的には、試作品のテストだね。腕のいいみんななら、多少難しくても使えると思ってる。ただ、ローランさんとルクレースさんは別のことも頼むことになっちゃうかな」
「別のこと、ですか?」
仕事とあってなのか、自分の分野に関係ないからなのか。ローランさんもルクレースさんもいい顔はしていない。けれど。
「お願いだよ。ローランさんは隠密として、ルクレースさんは魔法使いとしての腕を見込んで選んだんだ。隠密用の機体や魔法攻撃主体の機体も造るとなると、二人の意見は………」
「どんなことでも質問してくださいませ!」
必須なんだよ、と言う前に、ルクレースさんの顔が眼前に迫っていた。戸惑う暇さえ与えず、僕は手を取られていた。
「そういうことであれば、このルクレース・ハマメリスにお任せください!どのような質問であろうとも答えて見せますわ!」
「ああ、うん………」
……やっぱり、この人は魔法を関与していなかったから不機嫌だったのか。何というか単純というか、親近感がわくというか……まあ、協力してくれるだけいいか。
「はいはい、それで?別の兵器のこと話してくれよ」
近かった僕たちの距離を、ティオが割って入ることで離す。嫉妬したんだろうな………
「そうだったね。フェルトやティオは身体能力が元々高い。だから、人型兵器に搭乗するより別のものを作った方が力を活かせると思うんだ」
鬼人族やアマゾネスは人族よりもよほど強い。それこそ、個々の能力なら人族の追随を許さないほどに。だが、人型兵器に乗せればむしろ高い身体能力を殺してしまいかねない。そこで考えたのが………
「強化外装のようなものを作ろうと思ってるんだ」




