4話
「ふざけているのですか………!?」
ルクレースさんは怒りの目で僕を睨みつけた。おお、なかなか怖い。とはいえ、師匠と比べたらまだまだか。ま、大概のことはあの人と比べると、大したことがなくなるのだけど。
懐かしいなあ、音速で迫る攻撃を魔道具なしで対処しろって言われたり、地表から1000mもあるところから叩き落とされたり。大怪我負ってるのに、戦いを強要されたり。手加減なしにボッコボコにされたり……あれ、ろくな思い出がない。どこぞの少女スポーツ漫画なら『涙が出ちゃう、だって女の子だもん』とでも流れそうだ。いや、僕女じゃないけどさ。
「いや、ふざけてはないよ。造ってみたい、っていうのは事実だから、嘘つくわけにもいかなくてね。あれやこれや理由をつけるよりは潔く?って感じかな?」
「……理由はそれだけではない、と?」
「そりゃまあね。いくら僕が作りたいからって、意味もないもの渡されても困るでしょ」
個人的にはもっとこう、面白いものや前々から作りたかったものもあるけれど。今はそんな時期でもないし、作るべきものと作るべきでないものの区別はしないとね。まあ、別に一生作れないわけでもないだろうし。作るべきものの中から、作りたいものを作っていけばいい、というわけだ。
「イメージ的には人型兵器、ってのはこんな感じ。完成すると、これに乗ることになると思ってくれればいい」
ノアに頼んで、騎士たちの前方に計画途中の機体。その完成図を写す。いくらか声が漏れ、興奮した様子の騎士たちもチラチラ見える。興奮しているのは男性連中で、女の人は大して興味を示してはいないが。ルクレースさんにしたって、無関心のようだった。
「これは鎧、ですか?」
質問をしたのはロメリアさん。冷静に見て、その有用性を考えているのだろう。僕は問いに対して、首を振る。
「『鎧』であって、『剣』でもある。なにせ、こいつは完成すれば10mは超えるからね。重量も巨体に比例して重くなるはずだよ。そうだな……イメージ的にはこの兵器の拳は家一つが落ちて来るようなものだと考えてくれればいい」
場がどよめく。興奮していた人は実用性があることも知れて、喜んでいる。どこの世界でも男のロマンが大きく変わることはそうそうないらしい。
ふむ、とロメリアさんは頷いたが、面白くなさそうなのはルクレースさんだ。彼女はどうやら魔法主体で戦っていそうだし、こういった物理系統の兵器は好きではないのかもしれない。
「で、こっちが別の案。いわゆる戦闘機や戦車だ。戦闘機は主に空中戦に、戦車は主に地上戦で使うものだよ。銃器で武装は強化するつもりだけど、弾が切れたら魔法で攻撃、ってことになるかな。更に言うなら、特殊な改造を施して魔法主体のものにすることもできるけど………」
「そちらがいいと思いますが?」
即座に同意したのはルクレースさん。その目には情熱?のようなものが宿っている。うん、気付いた。というか、わかってしまう。彼女とよく似た人間を僕はよく知っている。それはもう、これ以上ないほどに。
「いや、だが人型兵器も捨てたものじゃないだろ?攻撃力には見劣りしないはずだし」
誰かが人型兵器の方がいい、と反論を返す。しかし、彼女はにべもない。
「そんなこと、魔法を使えば同じことはできます。それこそ、魔法を連結させればそれ以上のこともできます。あのような兵器にまるで興味はありませんわ」
「そ、そんなこと………!」
「……ルクレースさんは魔法が好きなんだね」
僕が呟くと、彼女は鼻を鳴らした。
「当然です。魔法はこの世界の神秘を解き明かすもの。これ以上興味深いものがありまして?」
「魔道具なんかも面白いけどね……あ、でも魔法の概念を受けているし、無関係とも言えないのか」
……ひょっとすると、ルクレースさんとは仲良くなれるかも?僕も彼女も好きなものには一直線、というところは似てるだろうし。
「話を戻すけど、ルクレースさんの意見は無視できるものじゃない。理由としては同じ技術を持っているなら、戦闘機や戦車の方が圧倒的に優れているから」
「そんな!?」
「ふふ、当然ですね」
絶望的な表情を浮かべるロボット好き(なのかな?)と、勝ち誇ったようなルクレースさん。女性は僕の言葉を聞いて、後者の案に興味を持ったようだ。勿論、ロメリアさんも。
「まず、人型兵器を作ろうとするとパーツが多いせいで、同じ機体を造るのにもコストが掛かる。一方、後者は同じ機体を造るのなら、そこまで苦労はしない。後から武器をつける必要もないしね」
コスト面の問題。これは戦闘機・戦車に軍配が上がる。圧倒的なまでに。そもそも、魔物に通用するようなサイズであれば、戦闘機・戦車の方が小さい。材料は人型兵器の方が多いし、パーツの多さから見ても工程は増えて、コストが掛かることは容易に想像できる。
更に、人型兵器は元々固定武装をつけておくならまだしも、オプションとして武装を後から手にすることもある。というか、そちらの方が多いだろう。つまり、また作るものが増えるので……結果として、コストが掛かるという結論になる。
「それに、防御力と機動力だね。戦闘機や戦車は動かす部分が限定的だし、取りつけられれば多少重いものでも搭載させることができる。いちいち武器を取り付けて、バランスを考えなくちゃいけない。加えて、関節が動くように装甲は厚過ぎないように、と造った人型よりも機動力も防御力も上を行く」
防御力。人型はあまり装甲を厚くすると、バランスが崩れる。動きが鈍重になるし、立ち上がれなくなることもあり得る。それどころか、動けないということも考えられるのだ。そのため、ある程度装甲は削らなければならない。
一方で、戦闘機・戦車は重過ぎないようにすればいい。薄くせざるを得ない場所もあるだろうが、基本は装甲を厚くすることができる。特に、人が乗り込んでいる部分は厚くできるだろう。これが大きい。
機動力にしても、やはり上なのだ。人型は2本の足で動かすため、歩かせるのも一苦労。浮かせるにしたって、元から飛べるように造られた戦闘機とは違い、燃料を馬鹿みたいに使う。一旦トップスピードに乗ってしまえば、空気抵抗が少ない戦闘機・戦車の方が機動力でも勝ってしまう。
「更には、ここに整備するのが楽だったり、習熟の容易さだったり、構造的な強度だったり、被弾面積だったりが加わる。ぶっちゃけた話、人型兵器は汎用性があるだけで、戦闘機や戦車の方がメリットは多いだろうね」
「そのようですね。それではやはり、後者の案を進めるべきだと思います」
僕を黄色に近い橙色の瞳が真っ直ぐ見つめる。だが、先ほどの騎士とて諦めることができなかったのか、縋るような目で僕を見ていた。
だからこそ僕は笑い、宣言する。
「ということで、人型兵器を造ろうと思う」




