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2話

 「貴重なお時間をいただけて、感謝します。この通りです」

 「いや、もういいから。それに、そんな堅苦しくなくてもいいよ。そこまで偉いわけでもないんだしさ」

 「しかし、それは………」


 廊下でも深々と頭を下げるロメリアさんに、僕は苦笑いするしかない。そりゃそうだ、こっちは好き勝手やって来たんだもの。偉いことをしたとか、凄いことをしたとか、そんな気はまるでないのである。というか、調子が狂うというのが本音である。


 「畏まられちゃうと、こっちが申し訳なくなっちゃうよ。だからね?」

 「そ、そこまで言うのでしたら………」

 「敬語もなしでいいから」

 「は、はあ……?このような口調でもいいのだろうか?」


 戸惑ったようではあるが、そこそこ砕けた口調になったので頷く。あんまり敬語やら敬意やらといったものは好きになれない。それには理由があるのだが……まあ、ここでは関係のないことだろう。割愛することとしよう。

 ちなみに、師匠にも同じようなことを言ってみたことはある。ただ………


 『私はこれが普通です』


 とのことだったので、口調はあのままだった。……というか、師匠は仲が悪い相手だと敬語も何も使わないのに、親しかったり敬意を持っていたりすると丁寧な言葉遣いになるのだ。ちょっとおかしな癖に、戸惑ったことは鮮明に残っている。


 「さてと、ここなのだが……入る前に断りを入れておく。中にいる者たちはすべてがすべて、あなたに好意的な感情を持っているわけではない。だから、無理に会わなくてもいいのだ。その場合には特徴や性格といったものを教えるつもりだ」

 「んー、別にいいよ。ここで逃げても、むしろ溝は深まるばかりだろうから。ちょうど都合もいいし、会って行くさ」

 「そうか……申し訳ない。それと、感謝を」

 「そこまで硬くならなくてもいいんだけどね」


 どこまでも生真面目な彼女に苦笑する。この人を見るときはいつもこんな感じなので、ちゃんと息を抜けているのだろうか。心配にもなってしまう。いい人だしね。

 念を押すようなロメリアさんに笑い掛けて、扉を潜り抜ける。ロックは最初から掛けられていなかったのか、はたまたノアが気を利かせて開けてくれたのか。そこまではわからなかったが、とにかく鍵が掛けられていて入れない、ということはなかった。


 中にいたのは多くの人族。こんなにいたのか、と軽く感動を覚えたほど。高校にいた人間をすべて集めればこのぐらいにはなるだろうか。それぐらいには人がいた。

 ……いや、これでも少ないのか。人族はこの世界で最も多かった種族と聞いている。非戦闘員を除いたとしても、これだけしか残らなかった。そう考えるのが自然である。


 「みんな、忙しい合間を縫って、ヨロズ殿がいらしてくれた!くれぐれも粗相のないようにせよ!よいな!?」


 返事は揃っていたが、あまり歓迎、というムードではなかった。副隊長さんのおかげでなんとか居れる、といった感じだろうか。何にせよ、これではスムーズに事が進むことはなさそうだ、と心の中で嘆息を漏らす。


 「では、ヨロズ殿。一言いただいてもよろしいでしょうか?」

 「ん?あー……その前に、敬語敬語」


 窘めるように言うと、ロメリアさんは目を瞬かせた。まるで思ってもいなかったことを言われたかのように。……いや、実際言われたのか。まさか、公式の場でも敬語抜きとまで言われるとは思ってもなかったのだろう。


 「し、しかし、けじめはけじめですし……我々はヨロズ殿に助けていただいたのです。無礼なことはできません」

 「いや、そんな大仰に捉えなくても。そもそも、僕だって目的があって助けたわけだし。わざわざ敬ってくれとか思ってないよ。むず痒いし」


 困り顔の彼女ではあったが、ほんとに敬語とかはやめてほしい。自分が利用している負い目もある、という理由はあるけど……それを抜きにしても、やはりやめてほしいのだ。

 敬語を使うことを強要すれば、上下関係のようなものができてしまう。たとえロメリアさんは上下を作ろうとしていなかったとしても、現状大多数の人族はどう考えるだろう?


 「…………まあ、普通は偉ぶってるとでも思うだろうなあ」


 敵対関係にまでなってしまえば、僕の目的はほとんど達成できないと見ていい。僕の言葉は届かず、彼らは糾弾し、排除しようとする。

 そして、それはもう一つの行動を引き起こす。僕を排除しようとすれば、フェルトやティオが黙っていないだろう。特にティオは僕を守る為であれば、嬉々として戦うだろう。僕のことを想っているからというだけではない。憎いと思っていた人族に反撃できる大義名分ができるからだ。ティオの率いる集団も同じ。


 「…………僕の行動1つで容易く戦争になる、か。ハードモードは相変わらずだな…………」


 結論から言えば、これ以上人族との溝を広げるような行動は控えるべきなのだ。彼らに敬語を使うようにさせるのも広げる可能性がある。慎重に動くためにも、ロメリアさんには折れてもらいたいわけなのだ。


 「ま、いいんじゃない?いちいち言葉を選ぶ必要がないってのは楽でいい」


 軽い口調で会話に入ってきたのは、何度か付き合いのある相手。クリストフェル、ロメリアさんと同じく、他種族を差別しない貴重な人族。ローランさんだった。


 彼はそれなりに年を取っているらしく、あごにはそれなりの髭が生えている。本人曰くオジサンらしいので、あまり動くのは嫌なのだとか。……どの口で言うのかな、と心の中では思っていたが。

 それもそのはず、隠してはいるけどローランさんはかなりの実力者だ。なにせ、彼が声を掛けるまで誰も気付かない。決して特徴がないわけでも、背が低いとかでもないのに。恐ろしいまでに気配を消すのが上手い。たぶんではあるのだが、もしローランさんと敵対することになれば、こちらの勝率は限りなく低くなる。戦う前に勝負はついているだろうからだ。僕としては味方につけたい一人である。


 見た目はゆったりとした服をよく着ていて、くたびれた様子のオジサン、というのが正しいかな。渋くてカッコいい、というわけでもなく。道端に歩いていれば、何も思わず通り過ぎてしまうような普通の男の人。

 ただ、顔が特徴敵じゃないだけで、特徴がないわけじゃあない。パッと見ではわからないものの、引き締まった身体をしており、一切の衰えすら感じさせない。身長もそれなりに高く、180は超えてそうだ。加えて、彼の目は品定めをするように油断がない。初対面であるなら特に。


 髪の色は黒の強い緑。深緑色、とでも言えばいいのだろうか?とにかく、暗い色だった。瞳の色は赤。その目に感情は映るのだが、それが本心からなのかは疑問視している。

 性格は親しみやすい、ダメなオジサンといったところ。ギャンブル好きで、酒も好き、おまけに美女も好きというまるでダメな人だ。まあ、話し掛けやすいし、人族の中では話す方かな。


 「ローラン!貴様というやつは………!」

 「いいって。それより話をするんでしょ?あんまり時間を取っても悪いし、話させてもらってもいいかな?」

 「で、ですが……いえ、その通りですね。申し訳ありませんでした」


 律儀に頭を下げる彼女に、僕は困ってしまった。この人の硬さはなかなか直りそうにないようだ、と。

 ただ、これは時間を掛けないと仕方ない。諦めて、話を始めることにした。


 「ええと、タクミ・ヨロズです。正直、敬語で話すのは苦手なので、別に皆さんも普通に話し掛けてくれればいいです。今回はいきなりではあるのですが、本題から入ろうと思っています」


 騎士たちがざわめく。何を思ったのかは知らないけど、ロメリアさんが怒り出す前に話を進めちゃおう。


 「皆さんはロボットに興味はありますか?」

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