8話
「……疑問があるのですが」
「なん……で、しょう………?」
息が切れているので、途切れ途切れの返事になる。頑張ってはいるけれど、今日も今日とて全部回避!ということはできず、相も変わらず地面に転がされている。これでも10発に1発ぐらいは避けられるように……いや、そこまで高くないか。それにしたって、少し加減されてるし。始めたばっかりのときよりはマシ、程度なんだよね。これでもまだ緩い方なのだから、文句は言えないけど。
で、呼吸を整えるために地面に倒れているときに、ゲイムロルさんから怪訝な目で見られた。何かおかしいことでもしたかな、と思いながら、必死に呼吸を繰り返していると、そんな言葉を聞いたというわけだ。
「何故、攻撃をしないのですか?先ほども攻撃をしていれば、私は対応をするために防御をしたはずです。そうすれば、自分を守るのも楽になるはずでしょう」
「ああ……そのことですか………」
ようやくまともに喋れるぐらいには戻れたので、立ち上がる。どうせ立たないと、ど突かれるし。それぐらいにはこの女の人を理解してるつもりだ。
「いや、だって殴れないじゃないですか」
「何故です?」
「え?ほら、ゲイムロルさん、女の人ですし」
「はい?」
ゲイムロルさんの上に?マークが見える(気がする)。理解はできないのかな?僕にとってはそれが普通なんだけど。彼女は額を押さえて、ちょっと待ってくださいと声を上げた。
「たったそれだけのことで、あなたは攻撃をしなかったのですか?馬鹿なのですか?」
「あはは、よく言われます」
「よく言われるのですか!?」
おお、ゲイムロルさんが愕然としてる。珍しいね。カメラがあったら、写真を取ってたかもしれない。それぐらいにはレアな顔だったね。
「あなたは……いいですか?これから行く場所は女性でも強い者がいるのです。そもそも、私はあなたよりも強いのですよ?そのような調子では、命を落とす可能性だってあるのです。わかったら、遠慮なく………」
「まあ、ジェンダーって言われてしまえばそれまでなんですけどね。でも、それで死んじゃうようなら、それまでの人間だったってことですよ」
「はい?」
本日二度目の驚きの顔をいただきました。カメラないかなあ?この際スマホじゃなくて、ガラケーでもいいからさ。冗談はさておきと、僕は笑いながら答えた。
「弱い、強いはどうでもいいんですよ。僕は女の子を攻撃しないことにしてるんです」
「い、いえ、待ってください。何故そんなことを………」
「……?だって、誰彼構わず振るう拳なんて、安っぽいじゃないですか」
理由としてはまずそれだ。誰に対しても拳を振るうやつは、平等ではあるかもしれない。けど、同時にその拳の重みは滅茶苦茶軽いと思う。何と言うか……ただ、暴れることで自分を落ち着かせているだけ。薄っぺらい自分を周囲に認知させるために、派手なことをしているだけに思える。そんなことで自分を変えられはしないのに。誰かが認めてくれるわけではないのに。
「で、ですが、それは女性に限定しなくてもいいでしょう?相手が悪いと思った場合にのみ振るう、でもいいはずです」
「んー、それはそうなんですけど。小さい頃から、女の子は守るもの、っていうのが染みついてますからね。殴り蹴るはしたくないですし、暴力を振るわない、が約束ですし」
「約束?誰とのですか?」
「爺ちゃんとの、ですよ」
目を瞑れば、今でも思い出すことはできる。骨ばった手に、皺くちゃの顔。髪は歳のせいで、白くなっていた。それなのに、腰は曲がっていなかった。いつでも笑っていて、ちょっとしたことですぐ褒めてくれるような人。それが僕の爺ちゃんだった。
「……そうですか。それなら無理に、とは言いません。相手を傷つけず、痛みも与えないような技術を教えましょう。しっかりと覚えるように」
「はい!よろしくお願いします!」
※ ※ ※
「と、いうことで」
「はい、何でしょう?」
「模擬戦です。あなたの技術を確かめるために、今日は人を連れて来ました。全力で相手をするように」
ゲイムロルさんが体を引くと、後ろに誰かが立っている。見たことがない人だ。たぶん、前に言っていたここで訓練に励んでいる戦士の候補生か、既に戦士になった人かなんだと思う。
筋骨隆々、という言葉が正しいほどに、筋肉がついている。腕の太さで見れば、僕のものの1.5倍はあるんじゃないだろうか。それぐらいに違いがある。服装は身軽さを追求しているのか、トランクスのようなものを履いているぐらいだ。あれがパンツなのか、それとも短パンなのかはわからないけれど。ただ、こんな格好が似合うのは、きっとアスリートみたいにスタイルがいいからだろう。ガリガリだったり、太っていたりすれば半裸状態は似合わないだろうな、と思う。
「おいおい、こんなやつが相手なんですかい?まだまだガキじゃないですか」
「ええ。ですが、成長するためには壁に当たる必要があります。手を抜く必要はありません、全力でやりなさい。例え死んでも、ここでなら問題ないのですから」
「了解ですよ、と。てことだ、ガキんちょ。恨むんなら、自分のツキのなさを恨みな」
男の人の顔立ちは精悍という言葉が合う。ややくすんだ金色の髪を逆立てて、茶色の目はギラギラとしていて、凄みがある。何より身長が高く、頭一つどころか見上げざるを得ないほどの差がある。190㎝は優にあるのではないだろうか。それほどには高かった。
「うーん……確かに、そうかもだけどね。最初から諦めるのはちょっとねえ」
ゲイムロルさんが怒るだろうし、折角組んでくれたのに失礼だと思う。目の前の人にも、ゲイムロルさんにも。それに、最初から駄目だと思ってたら勝てるものも勝てない。ほぼほぼ全てのものが劣っていたとしても、気持ちだけでは負けちゃいけない、とも言われたしね。
そんなことを言ってみたら、男の人は笑い始めた。変なことでも言ったかな?
「いやいや、すまんな。ガキにしては随分と肝が据わってる。気に入ったぜ。胸を借りるつもりで、どんと来るといいさ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「両者とも準備は良さそうですね。それでは始めましょうか」




