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9話

初めての戦闘回です。

 真正面から、それもこんなに近くで見ると、改めて身長の差を感じさせられる。この様子だとリーチも大きく違うだろうし、相手も凄く鍛えているのだろうから、地力の差でもむこうが上だと思う。きっとだけど、不利どころか勝率ほぼ0レベルなんじゃないかな。なかなか無茶をしてくるよねえ、ゲイムロルさんも。

 それにしても、どう戦ったものだろうか。まともに突っ込んでいけば、即座に負けることは明白。そもそもパワー、リーチ、戦ってきた数のすべてで負けてる所から、結果はお察しである。


 「……まあ、やるだけやってみるしかないかな」


 自分に言い聞かせるように呟いて、一応構えのようなものを取る。所詮は付け焼刃みたいなものだけど、動きにくい体勢で始めるよりかはずっといい。むこうの構えは様になっていて、付け入る隙のようなものが見つけられない。やっぱり、そう簡単には行きそうにないなあ。


 「両者、準備はいいですか?」

 「いつでも大丈夫ですぜ」

 「こっちも大丈夫です」


 ゲイムロルさんがどんな顔をしているのか。見たい気はするけど、目を逸らした瞬間にやられるかもしれない。目の前の大男からは視線を外すことはできなかった。


 「武器の使用は禁止。それ以外はどのような手段を使ってもかまいません。それでは……始め!」


 ヒュン、という音と共に、始まる合図が掛けられた。何かをしようとする前に、僕は防御の構えを取る。それと同時に、全力で後ろに跳んでいた。


 「おらァ!」


 衝撃。ガードしていた手がビリビリと痺れる。威力を殺そうとしてこれなのだから、まともに当たっていたらと思うとぞっとする。笑いながらも、次の一撃を放とうとする相手を見て、すぐに体勢を立て直した。


 「よく対応したじゃねえか!どんどんいくぜ!」


 そこから先はほとんど一方的。殴り、蹴り、時にはチャージや頭突きまで。そのどれもがまるで鈍器のようで、体力の消耗が激しかった。一発でももらえば、それだけでダウンすることもあり得そうな攻撃の数々であったのだから。


 「どうしたどうしたァ!このままだと殴り殺されんぞ!」


 降り注ぐ拳の雨。その勢いはまるでゲリラ豪雨にも似た連打だ。勿論、いつかは体力が切れることはわかる。これだけの激しい攻撃だ、スタミナの消費も大きいはず。

 けれど、それよりも先に僕がやられるのが早い。一回の攻撃を捌くだけでも手一杯なのに、それが何発も連続で襲い掛かってくるのだ。ダメージは少しずつ。だけど、確実に蓄積している。相手の言う通り、このままじゃいつか致命的な隙ができて、強力な一撃を受けることになるだろう。持久戦になれば、僕が負ける。


 「仕方ない、か………」


 正直、分の悪い賭けであったし、もう少し情報が欲しくはあったけど……これ以上長引かせれば、反撃する体力も失われる。勝負を仕掛けるなら、今この時しかない。


 「何をブツブツと……なにっ!?」


 初めて驚いたような声を上げた。まあ、普通は驚くかもね。今の今まで守り続けてた相手が、急に前に出て来れば。

 最初の動きは成功。相手の意表を突くことで、動きを少しだけ止めることができた。その甲斐もあって、パンチの威力も弱めることができた。それなりに痛くはあるけど、耐えられないぐらいじゃない。


 「せいっ!」


 狙ったのはみぞおち。人体に数ある急所の1つだ。僕が勝てるとすれば、奇襲による勝利。それも一発のダメージが大きくないといけない。となると、ただただ殴るだけじゃ駄目。ダメージは少ないだろうし、痛みで冷静になられたらまず勝てない。一撃一撃が重くなりやすい、急所を狙うのがいいと考えたんだ。


 「狙いはいいんだが、なあ………?」


 自分の目線辺りにある急所へと、渾身のアッパーカットを放ったのだけど、相手はニヤリと笑うだけ。殴った感触も、硬いものを叩いたかのようなものだった。当然、痛みを感じているのは僕だ。


 「そんな!」

 「思ってたより、ずっと肝が据わってやがる。それに、判断力もいい。後はパワーの差をどう埋めるかだな!」


 全力の蹴り。今度は僕が意表を突かれる形となった。準備のできていないこれを喰らったら、それなりに鍛えてるとはいえひとたまりもない。








 ――――そう思って貰いたかった。


 「なんだと!?」


 賭けには勝てたらしい。少しだけ口の端を上げる。足に組み付いて、威力を殺しながら考える。

 不審には思っていたのだ。何故蹴りも出せるような状態なのに、蹴りの数が少ないのか。勿論、蹴りの方がバランスを崩しやすいということも考えられる。けれど、それにしてはあまりにも使う頻度が少な過ぎたのだ。


 「二度とはやりたくない賭けだけど!」


 思い出していくと、この人は僕の防御が甘くなったときに蹴る頻度が上がっていた。その事から、この人が蹴ってくるのは相手が体勢を崩したとき。もしくは、相手に大きな隙が生じたときではないかと考えた。だから、わざと声を上げた。いかにも作戦が失敗したと思わせるために。


 「くっ……!このっ!」


 僕を引き剥がそうと、再び拳の雨が降り始める。防御できない分、さっきよりもダメージは大きい。でも、この手を放すわけにはいかない。逆転の目はここにしかないから。

 僕が狙うのは1つ。どうやっても鍛えようがない器官。それでいて、男であれば必ずしも注意しなければいけない場所。即ち。


 「がっ!」


 金的。それも拳よりもずっと威力がある、蹴りでのもの。これで結構なダメージを与えられたはず。

 すぐに、その場から離れる。苦し紛れの攻撃に当たれば、すぐに倒れてしまうぐらいにボロボロだし。相手は股を押さえて蹲っている。とどめを刺しに行きたいけど、不用意に近付いて反撃を喰らわないという保証もない。結局、警戒しながら歩みを進めることにした。


 「ぐっ……こいつ………」


 拳が届く距離になっても、まだ仕掛けてはこない。ただただ呻くだけ。それなりにダメージは与えられたみたい。ここぞとばかりに、攻撃を仕掛けた。


 「なんてな」

 「………ッ!」


 ある程度予想はしていたけど、やっぱりショックだ。一瞬にして投げ飛ばされる。受け身を取りながら起き上がると、ケロッとした顔で立っている。金的一発じゃ、決定的なダメージにはならなかったみたい。


 「さて、第2ラウンドと行くか」

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