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25話

 床に色とりどりの薬を並べていく。これだけあれば大丈夫だろう。無謀で無茶なことは理解しているが、そのぐらいはしないと信用なんてものは得られないだろうし。それに……きっとまあ、なんとかなるだろうさ。どこまでも絶望的なわけでもないのだし。

 急に動き出した僕を不審に思ったのか、ナトゥラさんは僕の方を向く。他の仲間は今も頑張って助けようとしていた。


 「何をしようとしているのですか?」

 「ん?マーヒトさんを助けようかと思って」


 青い液体を飲み干す。やや甘い医療用シロップのような味が口に残った。


 「……それならば、何故薬をあなたが飲むのですか。ティオに飲ますべきでしょう。それに、その赤い液体は確か………」

 「そ、造血薬。まさか前に思ったことが現実になるとはねえ」


 5本ほどまとめて飲み下す。……やっぱり変な味。味の改良も進めて行った方がいいかもしれない。


 「……何をするつもりなのですか?」

 「あの子はたぶん、一人にしなきゃいけない。そこで一旦落ち着いて、もう一度君たちと話せるようにすればいい。きっと今は混乱しているだけだからね、少し寝て休憩すればわかるようになるよ」

 「ですが、ここには寝具がありません。まさか床で寝ろと言うつもりはないでしょうね?」


 きつい目で睨まれる。怖いなあ。……いや、毎日毎日モネにストーキングされたり、まったく目が笑っていない師匠に無言で見られるよりは全然怖くないけども。え?それは怖くないっていう?いやいや、女の子は怒ったら何するかわからないからね?斬る、刺されるは当たり前よ?6年目ぐらいからのヴァルハラでの死因は大体それだったし。

 話が逸れた。とりあえず、最後の黄緑色の液体を飲み干し、準備は完了。いつでもやれるようになった。


 「聞いているのですか!?」

 「うん?ああ、聞いてる聞いてる。今からちょっとばかし危ないことするから、離れててね」

 「はい?」


 戸惑った様子のナトゥラさんを通り過ぎて、マーヒトさんの所へと近付く。彼女はまだ目に強い恐怖が残っていた。

 安心させるように頭をポンポンとしようとして……吹っ飛ばされた。思いっ切り壁に叩き付けられ、一瞬息が止まる。腕にも強い痺れが残った。


 「なっ!?何をしているのですか!?」

 「いやー、それなりに効果を発揮してて何よりだよ。ま、程度はわかったし、そろそろ始めますか」


 再び近付き、今度はマーヒトさんの首と膝の裏へと手を回す。バチバチと強い電撃が身体を焼くが、覚悟はしていた。割と耐えれてる。師匠の扱きと比べれば、まだまだいけるね。


 「お、おい!お前、なんで触れて………!」

 「別に大したことじゃないさ。たかだか痛いだけでしょ?」


 最も損傷が激しいのは腕だ。暴走している魔道具のせいで、醜い火傷跡が刻まれていく。女の子の柔らかさなんて感じられるわけもない。腕が痺れ続けて、感覚が麻痺してるぐらいだしね。

 ただ、まあ……師匠に腕を斬り落とされるわ、候補生たちに爆風で吹き飛ばされるわ、ヴォルフに肋骨粉々にされるわよりかはまだマシ。耐えれないほどではない。それにしたって、もっと痛いと感じたときはあったしね。あれはやばかったなー、とぼんやり考えつつ、彼女を持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこの体勢である。


 「な、ななななな………!」

 「で、君の部屋に連れていけばいいってことさ。ほら、なんてことはないだろう?」


 ひっきりなしに血が流れていく。僕の足元には小さな血溜まりができるほど。普通だったら死んでるね。


 「何やってんだ、死ぬぞ!?」

 「だから造血薬飲んだんじゃない。もうしばらく……2、3時間ぐらいならこうしてても大丈夫なくらいだよ」

 「そういうことじゃ………!」

 「気にしなくても大丈夫さ。さて、部屋まで行きますかね」


 ゆっくりとではあるが、足を進めていく。耐えれないほどではないとはいえ、痛いものは痛い。必然的に、歩く速度は遅くなってしまう。


 「いい加減にしろよ!なんであたしを助ける!?お前に何もメリットはないだろ!」

 「……そう、かもね。こんなことをしても出ていくときは出ていくだろうし、君の憎しみや悲しみがどうにかなるわけじゃなさそうだ」

 「だったら!」


 目尻から涙が零れる。本当は優しい子なんだろうなあ。きっと、傷つけたくはないと思っているのだろう。


 「でも、それは君に背を向けていいことへの言い訳にはならないよ。それにあれこれ考えるから、めんどくさいことになるのさ。世界はもっと単純に考えればいい」

 「単純に………?」

 「そ。僕は君を助けたいと思ったから助けた。それでいいじゃない」


 それにしても、フロアが違わなくてよかった。エレベーターも使わなきゃいけないんだったら、結構きつかったかも。もう手の感覚とかわからなくなってるし。視線を落とさないと、しっかり持てているのかも怪しい。

 時間は掛かってしまったものの、無事にマーヒトさんの部屋へと辿り着けた。鍵は掛かってるし、彼女じゃないと開錠はできないのだが……緊急事態だし、仕方ないか。空中に向かって声を掛ける。


 「ノア、マスター権限でここの鍵を開けてくれる?」

 『了解しました、すぐに開錠します』


 カチャリ、という音と共に扉が開く。気遣いに感謝しながら、部屋の中へと足を踏み入れた。


 「……お前、その気になればどこでも侵入できるのか?」

 「まあね。使うことはなかなかないけど」


 そんな趣味はないし。それに、そもそもここのところ忙しいし。他の部屋に行く機会などないのだ。


 「これで大丈夫かな?鍵は掛けておくから、落ち着いたらみんなのところに行ってあげるといい。心配してるだろうからね」


 マーヒトさんをベッドに横たえ、布団を掛ける。血がついてしまったが、これは許してほしい。今もダラダラと絶えず血が流れ落ちてるから、拭うどころではないのだ。

 少しだけ言葉を掛けて、部屋から出ようとした。ここにいれば、心は休まらないだろうと思ったし。


 「あ………!」


 手に再び痛みが走る。振り返れば、僕の手を掴む褐色の手があった。その手は赤く染まっていたが。僕の血がついてしまったのだろう。慌てて手を放した。


 「……行かない方がいいかな?」

 「そ、れは………」


 彼女は迷っていた。信用していいものかと、心が揺れている。目が不安と期待とで揺れていた。

 だから。


 「なっ………!」

 「汚れるかもしれないけど、こうしているから。僕がいるから、安心して寝てていいよ」


 今度は自分の意思でマーヒトさんの手を取った。出血が凄いことになってるけど、気にしていない。だって、彼女の身体から緊張が抜けたように感じたからだ。

 涙を目にいっぱい溜めながらも、少しだけ口元が緩む。声にならないほどに小さく口を動かし、マーヒトさんは目を閉じた。


 「ありがとう、か。少しは助けになれたのかな?」


 ほんの少しだけ笑って、握った手の力を少しだけ強める。僕がここにいることを伝えられるように。この手が放れてしまわないように。


 「……やれやれ、長い1日になりそうだ」


 そっと息をつき、アイテムボックスに手を入れるのだった。

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