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24話

 部屋内に鳴り響くサイレンで飛び起きた。とりあえず最低限の見てくれだけは整えて、部屋を出て駆けだした。


 「場所は!?」

 『フロア6の団欒室。現在、障壁にて妨害を行っています』

 「理由は?」

 『スキルの影響かと。透明化、もしくはそれに近いスキルを得たことで、予めフロア6に潜入していたことが考えられます』


 そういうことか。見通しがまだまだ甘かったことを再認識し、誰にも気付かれないように舌打ちをした。苛立っているのは他の誰でもない、自分自身のことに対してだ。結局、完璧に対策を立てることなんてできていなかったのだから。

 これは出ていかれても仕方ないな、と自嘲しながら、エレベーターに乗り込んだ。非常事態であったので、ノアが先んじて呼んでおいてくれたらしい。どこまでも親孝行なこの子に感謝した。


 「何があった?」


 扉が閉まる直前にギリギリ駆け込んだのはフェルトだった。自分の部屋にしかサイレンは鳴らさなかったのにな、と思いつつも、状況を説明した。


 「馬鹿な人族が暴走した、って言えばいいかい?」

 「起こるだろうなとは思ってたが、案外早かったな。誰が被害に遭った?」

 「………そういえば誰だろ?」


 急いでいたから、確認するのを忘れていた。そんな僕に呆れた目を向ける。


 「おいおい、相手が男だったらどうすんだよ?」

 「ん?そりゃ助けるさ」


 別に性別がどうとかいうつもりはないし。助けるべきと感じれば、それが老若男女誰であろうと助ける。そういう約束だし。


 「……ほんと、お前はよくわからん」

 「よく言われるよ、っと。ここか」


 野次馬が集まって来ている。問題を起こしたのは人族だ。代表者を含めて呼んだのだろう。人族の代表者としてはクリストフェルさんに、ロメリアと呼ばれた女性、それに初めて目にする人族がいた。なんだかやる気がなさそうにしているのが印象的だ。初めて見る人はめんどくさそうではあったが、クリストフェルさんとロメリアさんは申し訳なさそうにしている。

 一方で、マーヒトさんの集団も勢揃いしていた。その目は一様に敵意が映っており、今にも衝突しそうであった。

 加えて、当然とも言うべきなのだが……この事件の首謀者も首を揃えていた。サギーニをはじめとした一団。こちらはまったく懲りた様子もなく、傲慢な態度を取っていた。


 「で、全員集まった?」

 「これはこれは救世主殿。ここまでご足労頂き、誠にありがとうございます」

 「そんな前口上はいいよ。被害に遭ったのは……マーヒトさんか」


 床に倒れている彼女が目に入り、やはりまだまだ設定を詰めるべきだった。魔法、物理は封じたとはいえ、スキルは封じられていなかったのだ。ここまで発展させてしまったのは見通しが甘かったと言わざるを得ない。


 「どういうことですか!ここには人族が入れないというから我々は生活していたのに……あれは嘘だったのですか!?」


 眉を吊り上げているのはナトゥラさん。よほど怒っているのか、突風を身に纏っている。他にも、武器を構えていたり、魔法を撃てるようにしていたりする人はいる。一つ間違えれば、即座に僕を貫くだろう。それだけの激しさがあった。


 「ごめん。僕が甘かったみたいだ」

 「それで納得できると思っているのですか!?」

 「救世主殿、耳を貸す必要などありませぬ。この者たちはあなたを誑かそうとして、その上で責めているのですから。ここはしっかりと物を言わなければ」


 後ろでにやにやと笑うのはサギーニ。当然の如く、反省の色など見えない。これは決定か。

 視線をクリストフェルさんの方へと向けた。彼は肩を震わせた。前に全員追い出す、という言葉を聞いて思い出したのかもしれない。


 「クリストフェル。君を人族の代表と思って聞く。これは人族の総意か?」

 「……!いいえ、違います!今回の件はサギーニの暴走です!」

 「それは神に、そして君のご先祖たちに誓えるか?」

 「はい!」


 その目に曇りはない。まあ、疑ってはいなかった。全体のことを完全に把握するなど不可能だ。この事件はサギーニの方が一枚上手だった。そういうことだろう。


 「ノア」

 『はい』

 「サギーニ、及びその配下と今回の犯人をマイナスフロアに輸送してくれ。最低限生きていられれば、それでいい」

 『了解しました』


 途端に、サギーニたちの姿が消えた。配下、そして犯人であったであろう人物も含めて。綺麗さっぱりと。

 戸惑っているのは事情を知らない人物たちだ。特に、ナトゥラさんたちは驚いていた。


 「今のは………?」

 「サギーニたちをマイナスフロアに跳ばした。空間転移、とでも言えばいいかな」

 「それは、いったい………?」

 「犯罪者を収容するための施設さ。真っ暗闇の中、ずっと魔力を搾取され続ける。光を見ることは叶わない。彼らが許されるまでは、永遠にね」


 マイナスフロア。フロア1よりも下にある完全に闇に閉ざされた世界だ。食事、睡眠はとれる。だが、娯楽は与えられない。真っ暗闇の中、何も変わり映えのしない景色を見つつ、孤独で過ごさなければならないのだ。ずっと魔力を吸われながら。吸われた魔力はノアのために使われる。微々たる量ではあるだろうが。

 人間というものは刺激を求めるものだ。何も変化のない世界で、孤独な日々を過ごしていけば、遠くないうちに正気を失うのは想像だに易い。これがノアで犯罪を起こしたものへと与えられる、最大の罰だった。


 「……そうでしたか。サギーニの行動は目に余るものがありました。仕方のないことかと」

 「うん。君らは無関係なことはわかってる。人族の全てを追い出すことはしないよ」

 「ありがとうございます。こちらもこちらで対策をするつもりです」

 「よろしくね」


 改めてナトゥラさんたちへと向き直り、深々と頭を下げた。


 「ごめん。僕が言えるのはこれぐらいだ。今回のことで愛想を尽かされても仕方ないとは思ってる。止める気はないし、もし望むのならこちらから最大限の配慮はする。だから、どうか人族に報復をすることだけはやめてくれないかな。それをすれば、泥沼の戦いになると思うから」

 「私からもお願いさせてもらう。気に入らないのであれば、私が報復を受けるつもりもある。どうか、民たちには手を出さないでほしい。この通りだ」


 クリストフェルさんも頭を下げた。クリストフェルさんのことがあったからなのか、ロメリアさんを含めた後ろの二人も頭を下げた。それを見て、毒気が抜かれてしまったようで。仲間内で話し合いをするため、この場を引き上げることになった。

 ぞろぞろと部屋へ引き返していく。その中で、ナトゥラさんがマーヒトさんに肩を貸そうとしたときのことだった。


 「きゃっ!」


 バチイッ!凄まじい音と共に、ナトゥラさんが弾かれた。なんとか間に合ったので、壁にぶつかる前に僕がキャッチすることができた。

 彼女は人族に触れられていたが、それよりもショックの方が大きかったらしい。目が動揺で揺れている。それはこの状況を起こしてしまった本人も思っているようで。


 「な、ナトゥラ?違うんだ、これはお前を信用してないとかじゃなくて……そうじゃないんだ。これは………!」

 「ティオ………?」

 「違うんだ、違うんだよ!どうして、どうしてだよ!?」


 今にも泣き出しそうな顔。信用したいのに。それははっきりとわかる。


 「ノア」

 『何でしょうか?』

 「襲われたときのことを、詳細に報告してくれ。これは普通じゃない」

 『了解しました』


 少しの間が空いて、ノアが話し始めた。それは予想していた通りで、最悪の答えだった。


 『先ほど解析が終了しました。サギーニから依頼を受けた男は《隠密》というスキルを使い、数日ほどナトゥラというエルフの少女を尾行。仕草や口調を真似しました。その後、彼女の尾行を続け、フロア6に侵入。人族でありながら、ここに存在できるようになりました』

 「そんな!?」


 自分が原因だったとは思っていなかったであろう彼女が顔を青くした。だが、最悪なことはさらに続いた。


 『そして、彼は《変身》というスキルも持ち合わせていました。スキルによってナトゥラに化けた彼は容易に近付き、犯行を起こしました。口に含んだ薬によって身体の自由を奪い、サギーニの下へ送ろうとしていたようでした』

 「そこで異常を感知した君が妨害。犯行は未然で防がれた。……ただ、その代償にマーヒトさんは誰が本物で、誰を信用していいのかわからなくなってしまった、と」

 『そのようです』


 ……本当に、最悪だ。彼女は心に深い傷を負い、怯え切ってしまっている。そして、混乱をしてしまっているのだ。どうすればいいのか、わからないから。わからなければわからなくなるだけ魔道具は暴走し、威力は上がり、真価は発揮できなくなっていく。今や、彼女は誰にも触れてほしくない。そう思っているのかもしれない。


 「ティオ……!こんな……こんなことって………」


 ナトゥラさんの声は涙混じりだ。そうしている間にも、仲間たちが触れようとするのだが……その誰もが弾かれていった。このままでは大きな溝ができてしまう。一度、一人になって落ち着かせなければいけない。

 僕が大きく息を吐いていた。なるほど、こういうときなのか、と。







 ――――誰かの人生を決めてしまうような大事な分岐点に遭ったら。もしくはとても辛くて立ち上がれないような人がいたら。そのときは迷わず手を差し伸べてあげなさい。それが戦うときだ。


 「さてと、やりますか」


 僕はアイテムボックスへと手を伸ばし、必要なものを取り出していくのだった。約束通り、辛くて立ち上がれなくなってしまった子を助けるために。

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