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22話

 「ヨロズ殿、少々よろしいだろうか」

 「あ、クリストフェルさん。どうかしたの?」

 「私など、さんをつけなくても構いません。王子とは言えど、国は滅んでしまったのですから」


 話し掛けてきたのは、最近では見知った顔。ただ、前とは異なる印象を受ける人物だった。

 彼はクリストフェル・ファール・ヴェランディル。かつてこの人族大陸にあった最大の国、ヴェランディル王国の王子だったらしい。僕が蹴り飛ばした上に、拳骨を食らわせたあの王子である。今ではこうして話す間柄となったのだから、何が起こるかわからないものである。

 いかにも貴公子然としたその凛々しさは、多くの女性を虜にしたのだろう。今だって平伏していた女の子たちが頬を染めているのを見た。人によって好みが分かれるようなかっこよさではなく、万人受けしやすいかっこよさとでもいうのだろうか?何にせよ、いい男ではあると思う。あ、ウホッは付かないよ?


 で、仲良くなったきっかけであるのだが。あの場で殴り飛ばされたことにあるらしい。……うん、わかってる。おかしいよな、って話だよね。勘違いしないでほしいけど、彼にはそういう性癖があるわけじゃない。

 彼も王子というだけはあって、ちゃんと物事を考えることはできていた。そう、このままでは人族は滅ぶということも十分にわかっていたのだ。そして、人族だけではもはやどうしようもないところまで追い詰められてしまったのだ、とも。

 けれど、根付いた意識を急に変えることなどできない。他種族と協力する道を選んでもいいのか。もし協力すれば、そのときは家族を裏切ることにはならないのだろうか。また、周囲の人族から反感を喰らい、暴走してしまうのではないか。そんな不安を考えてしまっていたらしい。


 変革か、現状維持か。二つの考えに悩まされていたときに起きたのが、あの事件だった。僕に蹴り飛ばされたことで、自分の考えた道は間違いではなかったと思い直したそうで。今ではこうしてよく話す仲までになった。話してみるとまともな人物だっただけに、貴重な味方になってくれそうだと期待もしている。


 「で、話があるんでしょ?何があったの?」

 「ええ。あの事件のことで少しばかり忠告と、謝罪の件についてなのです」

 「謝罪はなんとなくわかるけど……忠告って?」


 今までの付き合いで、彼が真面目なことは知っている。きっと態度だけではなく、行動で謝罪の意思を見せようとしているのだろう。大方、謝罪のときに持っていく物は何がいいか、なんてことでも聞かれるのだと思う。

 だが、忠告の方は心当たりがない。変なことでもあったかな?


 「事件を起こした首謀者はサギーニ・スコレット公爵……いえ、もう王国は滅んだので、元公爵と言うべきでしょう。とにかく、元貴族であったのです」

 「うん、なんとなくそんな気はしてた」

 「そうでしたか。サギーニは貴族の中でも特に素行が悪く、人族至上主義を掲げた男でした。そのため、あの事件が引き起こされたとも言えるでしょう」

 「なるほど。ということは………」


 クリストフェルは頷く。彼もまた同じ考えに至っているようだ。


 「やつのプライドは人一倍強いこともあります。今回の一件で懲りるとは到底思えません」

 「やっぱり、君も同じ考えか。あれは懲りた人がする目じゃないからねえ」


 とてもじゃないけど、あの人族だけは信用も信頼もできそうにない。自らの欲に忠実過ぎる上に、下手にカリスマ性がある。加えて、他人の意見をまるで聞かない。前に少し接しただけでもそんな評価になるのだから、実質の彼はかなりひどいということになる。


 「既にご存知でしたか………」

 「いや、あの人を見たらわかったんだ。昔っから勘ばかりはよくてねえ。あ、謝罪の件で何か持っていくなら、特にこれがいいなんてものはないと思う。ただ、誠意が見えるものであること。加えて、あまり手作りのやつはやめといた方がいいかな。余計な詮索をさせちゃうだろうし」

 「……素晴らしい慧眼ですね。ご忠告、ありがとうございます。それと、サギーニはこちらでも警戒をするつもりですが、万一ということもあります。何かをしておいた方がいいかと」

 「それは今から魔道具を渡しに行くよ。それで万が一には備えられると思う」


 その後も雑談を続けながら、互いに情報を交換していくのだった。


※               ※               ※

 「で、なんでお前ら一緒に来るんだ?」

 「一緒の方が信用されやすいかな、って。ほら、どうしても会って言いたいことがあるみたいだしさ」

 「この度は誠に申し訳ない。人族を代表して謝罪する。許してくれとは口が裂けても言えないが、どうか力を貸していただけないだろうか。あなたたちの力が必要なのだ。勿論、ただでとは言わない。こちらにできることではできる限りの力になるつもりだ」


 マーヒトさんの部屋まで向かうと、むこうは嫌そうな顔をしながらも出て来てくれた。僕を見ると、少しだけ慌てたようだったけど。


 「まさか、それだけ言うつもりで毎日通ってたわけじゃねえよな?」

 「いや、そのつもりだったのだが」


 真面目な顔で返され、彼女は呆れたような顔になる。おお、彼にはきちんとした誠意があったらしい。元々ある程度は感心していたのだが、それを上方修正する必要がありそうだ。


 「……はあ、まあいい。水に流す気はねえが、いつまでも責めるのはやめてやる。あとで被害にあったナトゥラにも謝りに行け」

 「それは当然だ。そこまでして、ようやくスタートに立てると思っている」

 「……そっちの変なのが移って来てるんじゃねえか?」


 マーヒトさんにため息をつかれた。ひどい。変ではないのに。


 「とりあえず、今はこいつと話をする。お前はどこかで時間でも潰してろ。話が終わったら呼びに行く」

 「わかった。ヨロズ殿、後はよろしくお願いします」


 僕とマーヒトさんに頭を下げ、フロアを後にした。ここで粘っても困らせるだけだとわかったのだろう。


 「お前の方は理由があって来たんだろ?」

 「まあね。頼まれてた物が完成したから渡そうと思って」


 彼女に渡したのは腕輪型の魔道具。マーヒトさんを中心とした集団に渡すための防犯用魔道具が完成したのだった。


 「これはどう使うんだ?」

 「腕に嵌めて、最初に魔力を流すだけで大丈夫。それで登録されたことになるから、後は嵌めているだけでいいよ」

 「楽だな」

 「そりゃ神器(アーティファクト)ですから。効果は使用者が信用できない人に対して、使用者の持つ属性で反撃する、っていうシンプルなものにしといたよ。身体に触れようとするか、魔法を使われそうになるかで発動するようになってる。他に要望があるなら、改良したものを持ってくるよ?」


 しばらく考え込んでいたが、首を横に振った。これで十分ということだろう。


 「……しばらくは様子を見てやる。そういう結論になった」

 「そっか。ありがとう」

 「勘違いするなよ。人族は信用してない。ただ……受けた恩を返さないほど、恩知らずではないだけだ」

 「それでも十分さ。ありがとね」


 フン、と鼻を鳴らして、そっぽを向いた。照れてるのかな?


 「一つだけ言っておくよ。前に詭弁を言ってたあの人族。もしかしたら、何か問題を起こすかもしれない。警戒は怠らないようにしておいて」

 「………わかった」


 それから彼女は仲間たちに魔道具を配るため、皆の下へと歩いていった。

 ……何も起こらないのが一番いいのだが。過信することは危ないので、対策を立てるために頭を働かせるのだった。

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