21話
騒動は一段落し、その場は解散ということになった。王子(であろう人)は他の人族にも僕の言ったことを伝えることを引き受けてくれた。殴られたことが結構聞いたのかもしれない。その目には反省の色も見えたことだし、こちらは問題はなさそうだ。経過観察に留めておこう、という結論になった。
しかし、エルフの少女に絡んだ方。こちらの人族たちは危うさを感じる。それなりの対策をしておかなければならないと判断したので、ノアには監視を頼んでいた。何か起こって欲しくはなかったし。
で、現在は………
「……意外だったな」
「んー?何が?」
「お前のこと。何があっても怒らねえかと思ってた」
マーヒトさんに加え、戻ってきたフェルトと共に、マーヒトさんたちが使っているフロアへと移動していた。そんな中、フェルトから掛けられた言葉がそれである。どうやら覗き見をしていたらしい。それなら助けてくれてもいいんじゃないか、とは思ったのだけど。
「君は僕を何だと考えているんだい……僕だって怒るに十分な理由があれば怒るさ。さっきみたいにね」
「人格が豹変してたぞ?」
「あー……中学、とと。12歳かそこいらの年でちょっと荒れてた時代があってね。その名残だよ」
「……想像できねえな」
「個人的には黒歴史だからねえ。あんまり思い出したいものでもないのさ」
中学時代はいい思い出がそんなにないからなあ。度々喧嘩に明け暮れて、傷だらけになって。そして、あの事もあって……お世辞にも明るい人生ではなかっただろう。
「けど、なんで怒ってたんだ?人族なんてあんなもんだろ?」
「丸腰の相手に、それも女の子で一人なのに、集団で暴行を加えようとしてるのは流石に見てられなくてねえ。何て言うか、ダサいというかそれでも男かというか」
「いまいちよくわからん………」
「ま、可愛い女の子を放っておけなかったとでも思ってくれればいいよ。そんなものだし」
足音が急に減る。どうしたのかと振り返れば、変人を見るかのような目のフェルトと、顔を赤くしたマーヒトさんがいた。
「……お前、相当な変人だな。人族じゃなくても、アマゾネスを可愛いなんていうやつはなかなかいないぞ?」
「……?なんで?」
「多種族の中でも、結構な嫌われ者だからだろうな。アマゾネスはアマゾネスしか生まねえし」
「……ますます意味が分からないけど?」
ため息をつかれた。ひどい。釈然としなかったので、マーヒトさんから説明を受けることにした。その内容をまとめると、こういう事らしい。
通常、異種族間で結婚し(滅多にないことらしいが)、子供が生まれたとき。その子供はどちらかの種族になる。
例えば、人族とエルフが結婚したとしよう。その二人から生まれ落ちる子供は、人族かエルフになるそうだ。
どちらになるかはランダムであるらしいのだが、基本的にはレベルが上の方の種族になることが多いそう。
また、ごく稀にハーフと呼ばれる存在が生まれることもあるらしいが……これはまたの機会にしよう。
で、ここからが本題である。アマゾネスは相手がどの種族であろうと、どんな相手だろうと子供を生むことはできる。きちんとこう……エッチができる相手であれば。
なのだが、ここで種族の特徴、というか問題がある。アマゾネスは女性しか存在しないということ。そして、アマゾネスの生む子は必ずアマゾネスになるということだ。
つまりは、アマゾネスは他種族を強引にさらい、無理やり事を行う。他の種族から同意を得られる事はない。なにせ、自らの種族は絶対に生まれないのだから。
そのため、アマゾネスは異性を得ることができず、人をさらわざるを得ない。そうすることで他種族から嫌われ……悪循環となるのである。
結論をいうと、アマゾネスは嫌われたり憎まれたりこそすれ、好かれることなどないとのことだった。可愛いなどという言葉は聞かないのが当たり前。恋愛結婚など、夢のまた夢らしい。もしそんなことをするやつがいれば、相当な変人であると。
「……そうかな?そんなつもりはないのだけど」
「だ、だろうな!まあ、人族のお前に好かれても、これっぽっちも嬉しくはねえけどよ!」
「ん?いや、そうじゃなくて。僕、そんなに変人だとは思えないんだけど」
僕からしたら普通のことをしているだけ。おかしく思われるのは心外である。
「へ、変なこと言うんじゃねえ!」
急に叫んだかと思うと、そのままずんずんと歩いていってしまった。ほんとに、どうしたんだろ?
※ ※ ※
「とりあえず、対策をするために防犯用の魔道具を持って来るよ。少しは安心できるようになるでしょ」
「………まあな」
マーヒトさんを自分の部屋まで送り、少しだけ対策について話をした。ここを出ていくにしろ、留まるにしろ、使えるような魔道具を渡すことにしたのだ。いまだトラウマが残っているであろうこの子たちには、安心できる拠り所が必要なはず。そう考えての判断だった。
結果としてはある方が安心できる、とのことで作った魔道具を貰うまでは留まってくれるそうだ。人族との接触を避けることが条件ではあったが。
「………なあ」
話を終えて、早速仕事に掛かろうと踵を返したときだった。マーヒトさんに腕を掴まれていた。
「どうしたの?」
「お前、さ。もしあたしと付き合え、って言われたら付き合うのか?さっきの口ぶりからするとよ」
さっき、というのは彼女の部屋に戻るまでだろうか。そこまで考えて、僕は言葉を返す。
「……ごめん、それは無理かな」
「………ハッ、だろうな。好き好んでアマゾネスと付き合うわけ………」
「ううん、マーヒトさんに問題はないよ。正直こちらから頭を下げてでも、付き合ってほしいぐらいには魅力的な女の子だからね」
顔が一気に赤くなる。あまり言われ慣れていないのかな?少しだけ笑ってしまう。
「ば、バカ言うな!大体、それならなんで………!」
「僕自身の問題があるんだ。僕は基本、ろくでなしだからね」
自嘲するように笑う。その影に気付いてしまったのか、彼女は言葉を継げなくなっていた。
慌てて暗い側面を打ち消し、いつものように笑って見せる。これ以上は見せないように。
「ごめんね。でも、マーヒトさんならきっといい男の人を見つけられるよ。僕みたいなやつを好きになっちゃ駄目だよ?」
ふふ、と淡い笑みを残して、その場を後にした。踏み込ませないように。僕を好きにならないように。
そう、僕はろくでなしなのだから………




