18話
「そういやなんだが」
「どうしたの?」
「ここだと普通に言葉が通じるんだな」
もぐもぐと食べ物を口に運ぶ。タンドリーチキンが気に入ったようで、バケツサイズの物を買って食べているのだ。……あれ、完全にネタで作ったんだけどなあ。食べる猛者はいるかな?みたいな感じで。
少し気になった人がいるかもしれないので、説明を入れておこう。ノアでは食事は機械が作って出してくれる。なので、いつだろうと出来立てが食べられるのだ。本当は料理人を雇うべきなのだろうけど、そういう余裕もない。それに、24時間働かせるのも心苦しいしね。こうするのが一番だろう、と思っているのだ。
勿論、機械が作ったものを嫌がる人だっているだろう。そのために、居住区画のどの部屋にも必ずキッチンとダイニングが存在する。早い話が機械的なのが嫌なら、自炊しろということである。これ以上はどうしようもないからね。まあ、本気で食べたいなら、料理人でも呼んでくるだろうし。
さて、話は戻る。
「言語のこと?そりゃあ、ここならノアが自動翻訳してくれるからね。口から出る言葉は共通語になるんだよ」
「とんでもねえな………」
「そこまでできなきゃ、《完了体》は名乗れないからねえ。たぶん、ノアも最良の自負ぐらいは持ってるんじゃない?」
ノアのコンセプトは『万能』。なんでもできる、ということを前面に押しているのだ。そのため、大抵のことはできる。魔道具であるのに、魔道具を作ることなんてお手の物。シェルターにもなる、生活もできる、娯楽も提供できる。その気になれば、戦闘もできないことはない。作った僕でさえ、よく作ることができたな、と思う代物だった。
が、そのせいもあって、二つほど弱点が存在する。
1つ、万能過ぎるせいでよほどの才能がない限り、従ってくれることが稀であるのだ。僕はノアを作ったからこそ尊敬され、感謝され、尽くそうとしてくれている。僕の命令やお願いはきちんと聞いてくれるのだ。
しかし、他の人ともなれば、これがまあ笑えてくる。ヴァルハラにいた人物で、この子を従えられたのは一人。しかも、人じゃない。神様ですらノアの前には頭を抱えていたぐらいだ。その一人とは勿論師匠である。師匠は圧倒的な才能で叩きのめし、力を認めさせたのだ。……こんな無茶苦茶ができるのは師匠ぐらいのものである。
2つ、これも万能であることから来ている問題。即ち、万能であるがゆえに特化型には勝てない、ということだった。この子は安全性を追求して作ったのだ。どう考えても、あいつには勝てない。……いや、あいつは異色過ぎる。あいつに比べれば、僕の作った魔道具は9割5分以上が弱い、という結論になってしまう。
話が逸れた。まあ、言うなれば代用しようとすれば、ノアを使わなくてもノアの再現はできる。暮らすところは魔道具のテントが、食事ならば自動で作ってくれる魔道具が、翻訳ならば翻訳機がある。突き詰めれば、代用はできなくはないものであるということ。それも神器で。もしこれらの神器をより改良していけば、超えることはできるということである。
する気はないけれど。今はノアで十分だし、ノアのことも気に入っている。仕事を奪うことはないだろう。
「この中なら大抵のことはなんとかなるよ。それこそ暴動だって鎮圧できるし、これを本当の意味で手に入れられた人は神にでもなった気分じゃないかな」
満ち溢れる万能感。実物を知っているから、本当に神になれるわけではないだろうが……それでも、限りなく近い存在にはなれる。なにせ、《完了体》は限りなく宝具に近い魔道具であるからだ。
「けど、やべえやつがノアを持ったときどーすんだ?やりそうなやつがいるだろ。特に人族とかよ」
「んー、それはノアが弾くとは思うんだけどねえ。ハッキングへの対策も十分にやってるし。でも、万が一ってのもあるしなあ」
「ちゃんと考えてんのか?」
「………まあ、一応」
ため息をついて、頷く。どうしようもない状況になれば、使える手はある。本当に、最悪の手だが。
「一応、ってお前な………」
「仕方ないじゃん。使いたくないんだよ。気乗りしない、っていうのがねえ………」
煮え切らない返事に、疑っている様子のフェルト。大丈夫なのか、とでも思ってるんだろう。逆の立場なら、僕だって疑うかもしれない。
「………ノアを破壊する。それが最終手段」
「破壊ねえ。妥当だろよ。で、なんでそこまで渋ってるんだ?」
「だってさあ、この子は僕を親だと思ってるし、僕はこの子を子供のように思ってる。進んで子供を殺したい親はそうそういないだろうさ」
そう、僕はこの子を作った。その苦労はしっかりと覚えているし、手にも残っている。故に、子供のように感じているのだ。だから、壊すことは考えたくない。例え、どれほど歪んでしまったとしても。
「それに、ノアには自我があるからねえ。普通の魔道具よりもその気持ちは強くなるさ」
「ふーん?まあ、手を考えてるなら構わねえさ」
再び食事に戻り、チキンを消費していく。どんどん消えていくし、ほんとに全部食べるらしい。フェルトらしいというか、何というか。
周囲を見回せば、ちらほらと人影が見える。その多くは人族であり、どこかはしゃいだ様子であった。久しぶりの安堵からなのだろう。
そんなときだった。
『マスター、少しよろしいでしょうか?』
「うん?どうしたの?」
『いざこざが起きています。というよりも、一方的に襲われたというのが正しいでしょうか?』
ノアの言葉を聞いた瞬間、椅子から立ち上がっていた。
「どこ!?」
『フロア2のスーパー内。食品売り場です』
「わかった!」
僕はスーパーのある方角へと駆け出していた。




