17話
「ノアは詰め込める技術をできるだけ詰め込んだ、最高傑作と言ってもいい代物でね。たぶん、これを越える魔道具は……存在しない、かな」
「あるわけねえだろ。これを越えるもんがあったら怖えよ」
「……そうだね」
笑みを見せて、彼女に同意する。確かに怖い。
「で、だ。もう気付いてるかもだけど、外見と中身は同じじゃあない」
「つまり?」
「この中は空間歪曲が起こってるから、見た目よりも人を収容できる。ここでならマーヒトさんの集団と人族のみんなが住んでもまだまだスペースは余るぐらいさ」
小型惑星とも言えるぐらいだし。前に計算してもらったところ、スペース的には10億人までなら住むことが可能だという結果だった。勿論、それは理論上の数値。食料を生産するためのスペースや、パーソナルスペースも確保しなければならないとすると、許容できる人数は減る。
だが、せいぜい数百人程度なら済ませることは可能だ。ここならば魔物がいない。外で暮らすよりもずっと安心して生きていけるだろう。
『ところで、マスター。《不可視化状態》に移行しておきますか?』
「ああ、うん。お願いしておくよ。魔物に襲われたら困るからね」
『了解しました』
魔力が一瞬高まり、すぐに感知できなくなる。早速仕事をこなしてくれたのだろう。ありがたい。ノアには兵装を積んでないからね。
「そういや、さっきから聞こえるこの声は何なんだ?」
「ノア。この魔道具のAIみたいなもの……って、わかりにくいか。まあ、意思を持った魔道具だから、こうして話すことができるんだよ」
「……ますますとんでもねえな。インテリジェンスウェポンみてえなもんか」
「そうだね。その言葉が一番言い得て妙かも」
集団を先導しながら、先へ先へと歩いていく。時折、きちんとついて来ているか確認もしている。
「で?あたしらが大丈夫と言える理由は?ちゃんとあるんだろうな?」
「絶対に、とまでは言えないけどね。そこは住む区画を分けることでどうにかしようと思ってる」
「区画?」
「そう。さっき、空間歪曲を起こしてるって話はしたでしょ?」
それがいったいどうしたのか、といった表情。これだけじゃわかりにくいか。わかりやすいように、噛み砕いて説明していく。
「この魔道具内では建物みたいな構造をしてるんだ。何階、というか何フロア、って分け方をしてる。そして、フロア間は特殊な乗り物で移動する必要がある。勿論、緊急時は別の話になるだろうけど……溝が埋まるまでは別々に暮らしてもらうこともできると思う」
「それは………」
「それでも、完全にってレベルではないんだ。どうしても納得できないなら、ここで降りるのも仕方ないとは思っているよ。それは君たちが話し合って自由に決めてくれ。強制するつもりはないし、いつ出ていくのも君たちに委ねる。地上まで送っていくし、数日分くらいは食料も渡すよ」
しばらく悩んでいた様子ではあったが、仲間のこともあるのだろう。今は返事を濁すだけに留まっていた。まあ、今はこれで十分だろう。明確な拒否をされてないことであるし。
「とりあえず、フロア毎の紹介をしていこうか。まずは一番使うであろう食堂からかな?」
※ ※ ※
フロア1、つまりは1階に当たる部分はほとんどが格納庫である。それはそうだ。じゃないと、『ケツァルコアトル』のような巨大な機体が入るわけがない。格納庫にフロアを移動するためのエレベーター、それと個人的な開発用の部屋でフロア1の説明は片付く。
重要なのはフロア2から。フロア2には食堂や食料品売り場、加えて生活必需品などが置いてあるスーパーがある。大抵のものはここで買えるので、何か必要なものがあればフロア2に降りてくればいい。
フロア3~5まではさらに専門的な店が揃っている。例えば、家具や家電。あるいは、娯楽用品なども。足りないものがあれば、後々増設するかもしれない。たぶん、今はこれで十分だと思うのだが。
そして、フロア6より上は居住区画。個人用の部屋が多くある。イメージとしてはマンションやアパートに近い感覚だと思ってくれればいいだろう。部屋の大きさ的には1LDKといったところだろう。
人族の方はもう気に入ったらしく、何度も感謝をしていた。ここに移住することに異論はない様子だった。
一方、マーヒトさんの集団は迷いがあるようだった。いいところではあるが、人族と共に生活しなければいけない。それが一番のネックになっているのだろう。憎い相手と生活しなければならないのだから。全員で話し合って、結論を出すとのことだった。すぐに決めてくれ、ということでもないので、納得いくまで話し合ってくれればいいと思う。
「で、君は当然の如く残るんだねえ」
「そういう契約だろ。生活も楽だし、強いやつ見つけるのにもちょうどよさそうだし、お前について行くさ」
「正直言うと、残ってくれてありがたいよ。僕もできる限りで力になるから」
「そうかい。そんじゃとりあえず………」
フェルトに引き摺られ、エレベーターに乗り込む。どこに行こうとしているのかはなんとなくわかった。だって、ねえ?何かに期待している目を見れば、なんとなくでもわかるでしょ?
「お昼にはまだ早いと思うよ?」
「間食だ、間食。昼もちゃんと食うさ」
はいはい、と肩を竦めて歩く。さてさて、我が儘なお姫様を満足させられればいいのだけど。




