16話
巨大な球体――――超越神器《完了体》、ノアは《ケツァルコアトル》が近付くと、レーザー光線によって進路を誘導した。機体は進路に沿い、ノアへと進んでいく。
ある程度の距離まで近付くと、ノアの一部が開く。内部へと誘っているのだ。段々と速度を落としながら、《ケツァルコアトル》はノアの中へと入った。
「…………これからお前と付き合っていくときさ」
「うん」
「こんなこといつも覚悟しなきゃなのか?」
「まさか。ノアクラスの魔道具はそうそうないよ。神器ならまだしもね」
「そーかい………」
引き攣った笑みを浮かべるフェルトをよそに、機体内で不安を抱えている皆へと外に出るように伝えてもらった。伝えるのはマーヒトさんと、人族の青年だ。同時に、荷物がある人には持って降りるように言い含めておいた。
僕とフェルトは特に仕事があるわけでもなかったので、さっさと降りた。荷物はあるものの、そこまで多いというほどでもない。そもそも、アイテムボックスにほとんど収納しているのだ。持って降りるのは楽というものである。
「……こんなもの、滅茶苦茶じゃねえか………」
「滅多にないからね、超越神器なんてさ」
降り立ったそこは、機体を収納するための格納庫。あちらこちらに、機体を固定するための固定具がある。僕たちから見て、奥に行けば行くほど小さくなっていく。《ケツァルコアトル》がそれほど大きいということだね。
今は《ケツァルコアトル》しかないけど、後でもう少し増えるだろう。この子一機じゃないし、そもそも一機だと寂しいだろうし。
「その、なんだ?アーティファクトなんちゃら?って何なんだ?」
「超越神器のこと?興味ある?やっぱりある?」
「なんか、目が光り輝いてるな………魔道具のことがそんなに好きなのか?」
「勿論さ!」
「即答だな」
呆れたような目を向けるフェルト。いや、でも興味ぐらい湧くでしょ?かっこいいし。そもそも、巨大ロボットや戦艦なんて男の夢みたいなものじゃないか。おかしいところはまるでないはずだ。
「フェルトはさ、神器って何のことだと思う?」
「え?いや、そりゃ……めっちゃ強い魔道具、か?」
「でも、それだとアイテムボックスは違うでしょ?便利ではあるけど、強くはないわけだし」
「まあな」
彼女が頷く。そう、神器は強いか弱いかではない。それを言うなら、アリアドネの糸もあのテントも、島で作った農場でさえも神器ではなくなってしまう。つまり、だ。
「神器、っていうのは神様が使う道具。要は宝具を人が使えるレベルまで落とし込んだもののことだよ。簡単に言ってしまうのであれば、劣化版宝具といったところかな?数さえ揃えれば、神様にさえも近付くことはできる。理論上はね」
「……そんなもんだったのか」
「そう。そして、神器の最大のメリットは誰でも使えるということさ。例え才能がないものでも、これがあれば人並み以上に活躍できる。それこそが神器の真価なんだよ」
一番簡単な例を挙げれば、アイテムボックス。これがあれば、《空間収納》といった収納系スキルを持っていない者でも、多くのものを運ぶことができる。勿論、誰でもだ。
『穢れを祓う聖盾よ』にしても同じ。強度が一定以上のシールドを、集中力が切れない限り展開し続けられる。それはまさしく、英雄と呼べるような力を所持しているのと同じだろう。そこまで言えなかったとしても、前線で戦えるような戦士と同じほどの力はあるはずだ。
「話逸れてねえか?」
「いいや、これでいいのさ。ここからが本題だからね」
ここまでは話をわかりやすくするためのもの。神器、というものが理解できていなければ、超越神器は理解できないのだから。
「神器はあくまで万人に使えるもの、言うなれば人が持つことができる最強の牙。けれど、超越神器は違う。こちらは英雄のための武器。選ばれた者だけが扱うことのできる代物さ」
「………はい?」
「簡単に説明するなら、道具が人を選ぶ。もし一般人に渡したら、まともに動きやしない。それどころか、暴走する恐れだってある。最悪、死を覚悟しなきゃいけないかもね。それほどに恐ろしい子たちなのさ」
僕も実際に作るまでは、神器こそが自分の作れる最高の作品だと思っていた。それはそうだ。最初に作った賢者の石でさえ無限に利用できるエネルギー体。他のものも、凄まじい力を所有していた。
これ以上の力などないと思えるほどに。完成されたものだと、思っていたのだ。
――――神が持つ宝具を見るまでは。
宝具は強過ぎた。見抜くことができるからこそわかる。神器では宝具を越えることなどできない。数千、数万。それでも足りない。世界中の全ての人が神器を手に持ち、その上で完璧な動きをする。そこまでして、ようやく一つの宝具と対等になる。
……これでは駄目だ。戦えない人たちにはいい。積極的に戦わないのだから、神器でもいい。だが、戦う者たちは?これではたして足りるのか?宝具を前にして、不安に感じてしまったのだ。
「超越神器は神器の上を行く。段階は……5段階だよ。《強化体》、《改造体》、《改良体》、《完成体》、《完了体》。数字が増えれば増えるほど強力になっていく。でも、扱う人に求められるものも多くなっていく。《完了体》ともなれば、完全にじゃじゃ馬さ。上手く取り扱えるのはほんの一握りだろうね」
「あれ?けどお前、これを《完了体》って………?」
「僕はこの子の親だからさ。むこうが聞いてくれているのはそのせい。もし赤の他人だったら、話すら聞いてくれないはずさ」
肩を竦める。特に、ノアは扱いが難しい。へそを曲げると、すぐに迷惑を掛ける。もし気に入らない人に渡せば、すぐに帰って来てしまうだろう。
せめてもの救いは親孝行であるということか。……いや、あの子たちよりずっとマシ、ということもあるか。あっちはもはや迷惑レベルではないことだし。
「はー……お前、つくづくとんでもねえやつだったんだな」
「そうでもないよ」
『そうでもあります。マスターはそろそろご自身の価値に気付くべきかと思いますが?』
唐突に第三者の声が加わる。聞いたことのない声に、フェルトが武器に手を伸ばす。それを僕は手で制した。
「やあ、ノア。気分はどうだい?」
『まあまあ、でしょうか。マスターが頼ってくれたので、それなりに良くはあります。そちらの少女が褒めていたので、さらに良くなりましたが』
「それは上機嫌と言わないかい?」
『さあ?ヒトの感情はよくわかりません』
そう、と呟く。理解しようとしているだけいい子なのだ。僕を中心として考え過ぎているだけで。まあ、おいおい教えていけばいいか。
「さてと、案内を始めようか」
これから忙しくなりそうだ。《ケツァルコアトル》から降りて来る人々を見て、そんなことを考えるのだった。




