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16話

 巨大な球体――――超越神器アーティファクトオーバー完了体(5)》、ノアは《ケツァルコアトル》が近付くと、レーザー光線によって進路を誘導した。機体は進路に沿い、ノアへと進んでいく。

 ある程度の距離まで近付くと、ノアの一部が開く。内部へと誘っているのだ。段々と速度を落としながら、《ケツァルコアトル》はノアの中へと入った。


 「…………これからお前と付き合っていくときさ」

 「うん」

 「こんなこといつも覚悟しなきゃなのか?」

 「まさか。ノアクラスの魔道具はそうそうないよ。神器(アーティファクト)ならまだしもね」

 「そーかい………」


 引き攣った笑みを浮かべるフェルトをよそに、機体内で不安を抱えている皆へと外に出るように伝えてもらった。伝えるのはマーヒトさんと、人族の青年だ。同時に、荷物がある人には持って降りるように言い含めておいた。

 僕とフェルトは特に仕事があるわけでもなかったので、さっさと降りた。荷物はあるものの、そこまで多いというほどでもない。そもそも、アイテムボックスにほとんど収納しているのだ。持って降りるのは楽というものである。


 「……こんなもの、滅茶苦茶じゃねえか………」

 「滅多にないからね、超越神器アーティファクトオーバーなんてさ」


 降り立ったそこは、機体を収納するための格納庫。あちらこちらに、機体を固定するための固定具がある。僕たちから見て、奥に行けば行くほど小さくなっていく。《ケツァルコアトル》がそれほど大きいということだね。

 今は《ケツァルコアトル》しかないけど、後でもう少し増えるだろう。この子一機じゃないし、そもそも一機だと寂しいだろうし。


 「その、なんだ?アーティファクトなんちゃら?って何なんだ?」

 「超越神器アーティファクトオーバーのこと?興味ある?やっぱりある?」

 「なんか、目が光り輝いてるな………魔道具のことがそんなに好きなのか?」

 「勿論さ!」

 「即答だな」


 呆れたような目を向けるフェルト。いや、でも興味ぐらい湧くでしょ?かっこいいし。そもそも、巨大ロボットや戦艦なんて男の夢みたいなものじゃないか。おかしいところはまるでないはずだ。


 「フェルトはさ、神器って何のことだと思う?」

 「え?いや、そりゃ……めっちゃ強い魔道具、か?」

 「でも、それだとアイテムボックスは違うでしょ?便利ではあるけど、強くはないわけだし」

 「まあな」


 彼女が頷く。そう、神器は強いか弱いかではない。それを言うなら、アリアドネの糸もあのテントも、島で作った農場でさえも神器ではなくなってしまう。つまり、だ。


 「神器、っていうのは神様が使う道具。要は宝具を人が使えるレベルまで落とし込んだもののことだよ。簡単に言ってしまうのであれば、劣化版宝具といったところかな?数さえ揃えれば、神様にさえも近付くことはできる。理論上はね」

 「……そんなもんだったのか」

 「そう。そして、神器の最大のメリットは誰でも使えるということさ。例え才能がないものでも、これがあれば人並み以上に活躍できる。それこそが神器の真価なんだよ」


 一番簡単な例を挙げれば、アイテムボックス。これがあれば、《空間収納》といった収納系スキルを持っていない者でも、多くのものを運ぶことができる。勿論、誰でもだ。

 『穢れを祓う聖盾よ(アイギス)』にしても同じ。強度が一定以上のシールドを、集中力が切れない限り展開し続けられる。それはまさしく、英雄と呼べるような力を所持しているのと同じだろう。そこまで言えなかったとしても、前線で戦えるような戦士と同じほどの力はあるはずだ。


 「話逸れてねえか?」

 「いいや、これでいいのさ。ここからが本題だからね」


 ここまでは話をわかりやすくするためのもの。神器、というものが理解できていなければ、超越神器アーティファクトオーバーは理解できないのだから。


 「神器はあくまで万人に使えるもの、言うなれば人が持つことができる最強の牙。けれど、超越神器アーティファクトオーバーは違う。こちらは英雄のための武器。選ばれた者だけが扱うことのできる代物さ」

 「………はい?」

 「簡単に説明するなら、道具が人を選ぶ。もし一般人に渡したら、まともに動きやしない。それどころか、暴走する恐れだってある。最悪、死を覚悟しなきゃいけないかもね。それほどに恐ろしい子たちなのさ」


 僕も実際に作るまでは、神器こそが自分の作れる最高の作品だと思っていた。それはそうだ。最初に作った賢者の石でさえ無限に利用できるエネルギー体。他のものも、凄まじい力を所有していた。

 これ以上の力などないと思えるほどに。完成されたものだと、思っていたのだ。




 ――――神が持つ宝具を見るまでは。


 宝具は強過ぎた。見抜くことができるからこそわかる。神器では宝具を越えることなどできない。数千、数万。それでも足りない。世界中の全ての人が神器を手に持ち、その上で完璧な動きをする。そこまでして、ようやく一つの宝具と対等になる。

 ……これでは駄目だ。戦えない人たちにはいい。積極的に戦わないのだから、神器でもいい。だが、戦う者たちは?これではたして足りるのか?宝具を前にして、不安に感じてしまったのだ。


 「超越神器アーティファクトオーバーは神器の上を行く。段階は……5段階だよ。《強化体(1)》、《改造体(2)》、《改良体(3)》、《完成体(4)》、《完了体(5)》。数字が増えれば増えるほど強力になっていく。でも、扱う人に求められるものも多くなっていく。《完了体(5)》ともなれば、完全にじゃじゃ馬さ。上手く取り扱えるのはほんの一握りだろうね」

 「あれ?けどお前、これを《完了体(5)》って………?」

 「僕はこの子の親だからさ。むこうが聞いてくれているのはそのせい。もし赤の他人だったら、話すら聞いてくれないはずさ」


 肩を竦める。特に、ノアは扱いが難しい。へそを曲げると、すぐに迷惑を掛ける。もし気に入らない人に渡せば、すぐに帰って来てしまうだろう。

 せめてもの救いは親孝行であるということか。……いや、あの子たち(・・・・・)よりずっとマシ、ということもあるか。あっちはもはや迷惑レベルではないことだし。


 「はー……お前、つくづくとんでもねえやつだったんだな」

 「そうでもないよ」

 『そうでもあります。マスターはそろそろご自身の価値に気付くべきかと思いますが?』


 唐突に第三者の声が加わる。聞いたことのない声に、フェルトが武器に手を伸ばす。それを僕は手で制した。


 「やあ、ノア。気分はどうだい?」

 『まあまあ、でしょうか。マスターが頼ってくれたので、それなりに良くはあります。そちらの少女が褒めていたので、さらに良くなりましたが』

 「それは上機嫌と言わないかい?」

 『さあ?ヒトの感情はよくわかりません』


 そう、と呟く。理解しようとしているだけいい子なのだ。僕を中心として考え過ぎているだけで。まあ、おいおい教えていけばいいか。


 「さてと、案内を始めようか」


 これから忙しくなりそうだ。《ケツァルコアトル》から降りて来る人々を見て、そんなことを考えるのだった。

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