15話
「ふざけんな!」
「うん、だと思った」
開口一番これである。眦は吊り上がっており、まさに激昂という言葉が相応しい。言うまでもなく、マーヒトさんである。
約束していた場所で合流したのだけど、連れている人族を見て怒り出したのだ。説明を聞いても、まるで理解しようとはせず。むしろ、火に油を注ぐ結果となってしまった。
「いいか、あたしらは絶対こいつらとは関わり合いにならねえ!もし一緒に住めっつーなら、あたしたちは出ていくぞ!」
「やっぱりか………」
その怒り様は烈火のごとく、という言葉が合うだろう。絶対に、何があろうとも譲らない、という意志が感じられた。
だが、黙っていないのは人族の方だ。青年は僕の前に出て、マーヒトさんに物を言い始めた。
「ふざけているのはあなた方の方でしょう?この御方は我々を助けた。そのついでに、あなた方の命も救ってやったのです。ありがたく思いこそすれ、恨むなど筋違いというものです」
「なんだと?あたしたちには選ぶ権利すらねえってか?」
「当然です。我々人族の役に立つように。そして、何よりこの御方の役に立つように働くのがあなたたちの義務。身を粉にして働くのがいいでしょう」
「……わかった。どうやら、てめえから潰した方がいいみてえだな」
マーヒトさんの手が剣に触れる。青年もまた自らの武器に手を伸ばし、一触即発といった空気だった。
「あー、もう。初っ端から問題を起こさないでおくれよ。とりあえず、今のは君が悪い。謝っておいて」
「で、ですが!この亜人共はあなたの威光を無視しようとしているのですよ!?薄汚い種族の分際で!」
「………亜人、って言葉が何なのかは詮索しない。ただ、僕が支援するからにはいざこざを起こさないでくれ。もし起こすようなら、気が変わるかもしれない」
「そ、そんな………」
情けない顔をしているが、仕方がない。この調子だととてもじゃないが、世界を救うなんてことは無理だ。それどころか、内輪揉めで空中分解しかねない。
そうならないように、最悪の場合はどちらかを切り捨てる覚悟はしなければならないのだ。今はその切り捨てなければならない方は人族側なのではないか、と思っているが。
「僕からも謝っておくよ。すまないね」
「お、おやめください!あなた様がそこまでする必要は………!」
「あるよ。こうでもしないと、君は謝らないだろう?」
「うっ………」
言葉に詰まる。図星だったのだろう。どうも、異種族は下、という風潮があるようだし。
「……フン、あたしは許さねえからな。同じ空間にいるぐらいなら、逃げ出してやる」
「うーん……どうしても?」
「どうしても、だ。お前攫って逃げる」
「え、僕は強制なんですか………?」
驚きだ。同じ人族だから、放っておかれると思ってたし。なんなら、暗殺される危険性だって考えていたのだ。それが随分と優しくなったものである。
「お前にゃ神器があるだろ。そういうことだ」
「あー………」
すごく納得。そりゃそうだ。お宝を持っている相手がいるのに、わざわざ見逃す手はないだろう。特にこの世界の今の状況で、生きていくことが楽になるというのであれば。
「………まあ、それ以外にもあるけど」
「え?」
「なんでもねえ!とにかく!こいつらと一緒は嫌だってことだ!」
マーヒトさんは人族を指差し、絶対妥協をしないという表情。一方で、人族の方も譲る気はないらしい。睨みつけるような目で、彼女たちを見ている。
「そーいやよお」
「あ、フェルト。どうかした?」
「いや、ふと思ったんだが。この人数、あれに入るか?」
フェルトが示すのは恐らく、今移動に使っている手段のことだろう。確かに、『ケツァルコアトル』の部屋は充実しているが、この人数は入らない。せいぜい、入っても半分ほどだろう。
「ほら見たことかよ!人族なんざ邪魔なだけだ!ここに捨ててくのがお似合いだぜ!」
「なんだと!貴様らが出ていけばいいだろう!」
「仮にそうしたところで、意味はねえさ!何割かは置いてかなきゃいけねえ!残念だったな、ざまあみやがれ!」
口汚く罵り合う様を見て、外野の僕とフェルトは冷めた目だった。なるほど、こりゃあ島に行って一人になりたくもなるわ。いちいち付き合ってると阿呆らしくなる。
「とりあえず、『ケツァルコアトル』に乗り込んでもらう。その後、生活する場所に案内するよ」
「テントでも使うのか?」
「いや、それとは別。早々に使う羽目になるとは思ってなかったけど……ちょうどいいしね」
僕は微笑んで、皆を『ケツァルコアトル』へと誘うのだった。
※ ※ ※
「………なあ、前々から思ってたんだけどさ」
「うん?何かな?」
指令室に話ができるメンバー、即ちフェルト、マーヒトさん、人族の青年が集まった。これから行うことを説明するために。そして、他の人々に伝えてもらうために。フェルトは違うけれども。
で、振り返ると一人が引き攣った顔、一人がおかしなものでも見るかのような顔、最後の一人が呆気に取られた顔であった。順にフェルト、マーヒトさん、人族の青年なのだが。
「お前って、本当に何なんだ?」
代表して尋ねるのは、僕との付き合いが一番長いフェルト。耐性ができて、そろそろこの程度のことじゃ驚かなくなってきているのだろう。うんうん、それはいいことだ。だって、これはまだまだ序の口に過ぎないのだし。
彼女が言っているのは、前方に出現した超巨大な物体のことだろう。『ケツァルコアトル』は大きいのだが、目の前の物体はそれよりも大きい。それも、ずっとずっと。
「さてね?この頃自分でもわからなくなってきたよ」
それはさながら、小さな惑星のよう。それもそのはず。これは惑星のレプリカであるのだ。見ただけではとても巨大な蒼穹の球体にしか見えないだろう。だが、それは……間違いなく、多くの救いを必要としている今こそ必要とされるもののはずだ。
「超越神器《完了体》、ノア。僕の所有する魔道具の中で、最高峰と言っていいほどの能力を持つ、いわば人口惑星さ」




