13話
「ここは………」
「隠れ集落か。よくもまあ、ここまでの規模に発展させたもんだ」
僕たちが案内されたのは、ごく普通の洞窟であった。では、あったのだが……予想外であったのは洞窟は見た目に反して、かなり長かったこと。そして、長く奥へと伸びていく道に脇道があり、巧妙に隠されていること。更には、その脇道の先には簡素ではあるものの、住居が建っていることだった。
即ち、連れて来られた先は人族たちの隠れ集落だったのである。ここには多くの人族が住んでいた。見えるだけでも、30~40ほどはいるのではないだろうか。なるほど、フェルトが最も数の多い種族というだけあって、確かに多い。
「――――――!――――――――!」
何かを叫ぶと、途端に建物の中からぞろぞろと人影が顔を覗かせた。結構な数だ。もしかすると、3桁に届くのではないだろうか。それほどには人の影があるのだ。
「なあ、何叫んだんだ?」
「さあ?」
「さあ、てお前………」
「訛りがひどいんだか何なんだかわからないけど、聞き取れないんだよねえ。音としては聞こえるんだけど」
そう、人族の言葉は聞き取ることはできるのだ。フェルトやマーヒトさんのように、発音できないような音が存在しないから。
……が、その音の数々が意味を成してないというか。何を言っているのか、まるで理解ができない。例えるなら、本州で暮らしていた人が沖縄の方言か、アイヌの人の言葉を聞いたかのような。なんて言ったのかはわかるけど、内容はわからない、というような?とにかく、言っている内容は何一つわからなかった。
「訛りってお前、むこうが大陸の人族なんだろ?訛ってるのはお前の方じゃねえのか?」
「かもねえ。とりあえず、翻訳できるようにしようか。ちょうどいい人がいるし」
おもむろに一人の人族へと近付き、怪我の部分をしげしげと見つめる。怪我をしているだけで、特に何かがあるわけでもなかった。これなら大丈夫であろうと、血をいくらか取らせてもらった。
「さて、まさか用意していたものが無駄にならずに済むとはねえ」
アイテムボックスから取り出したのは、はぐれた種族に出会うのでは?と考えて作っていた、翻訳機の予備。ここに処理を施した血液を入れることで、すぐに翻訳機へと変えることができる。念のため、と思って作っておいたものが役に立ったのだ。
採取した血液に術式を組み込む。何度も繰り返したおかげか、この作業は短時間で終わる。翻訳機の血液を溜め込んでおく部分に流し入れ、自分のものにも同じことをする。フェルトも二度目となれば慣れたのか、何も言わずとも翻訳機を渡してくれた。彼女のものにも血液を入れ、準備は完了。ここまで15分も掛からない。
「よし、後はこれを………」
自分たちのものは自分たちで身につけ、先導している騎士の人に渡した。むこうは困惑した様子ではあったが、ジェスチャーによって何をすればいいのかはわかったみたい。素直につけてくれる。ここは同じ種族であったことが幸いしたのかな?
「して、これはいったい?何か特別な効果があるのでしょうか?」
「そうですね。僕の住んでいたところは少々特殊でして。訛りがひどいんですよ。なので、そちらの言葉がわからなかったのです。ですから、この魔道具を使うことで翻訳ができるようにしているのです」
「そうだったのですか!それは素晴らしい。遠い場所より来て疲れているでしょう。どうか疲れを癒してください。このような場所ではありますが、精一杯おもてなしをするつもりです」
にこやかに案内をしようとする青年。軽装ではあるものの、しっかりとした鎧に身を包んでいる。顔立ちもよく、好印象だ。女の子がいれば、それはそれはモテモテなんだろうね。今も何人かの女の子が頬を染めてるし。
「あ、少し待ってください。やっておかなければいけないことがあるので」
「やっておかなければ、ですか?」
「はい。おもてなしはその後にしていただければ、と」
青年を待たせ、血を取らせてもらった男の人へと向かう。その人は傷だらけではあったものの、まだまだ動けると無理をしている様子だった。そんな人を放っておくことはできないわけで。
アイテムボックスを開き、飲むタイプの回復薬を取り出す。これを飲むように言ってくれるかと頼むと、青年は頷いて早速伝えていた。
「こ、これは!?」
目の前の男の人も、青年も驚いた様子で起きた変化を見ている。傷が見る見るうちに塞がっていくのは、奇跡のようなものだと思ったのだろうか。僕からすれば、大したことでもないのだけど。
「このような代物を使っていただけるとは……!ありがとうございます!どうぞ、こちらへ!私たちにできる最高のもてなしを致します!」
頭を深々と下げ、僕を案内する青年。その顔には尊敬と感謝の色が強く出ていた。
とりあえず立ち話もなんだし、ということで移動を始めた。二人で青年の後を追い、建物の方へと向かう。
「――――?」
「――――――?」
移動中、何故か指差しながらひそひそと話す人たちを見かけた。それも、1組や2組ではない。多くの人々が何かを話している。指差す人物はと言うと、僕の隣を歩くフェルトだ。
「そういえば、話は変わってしまうのですが」
「なんでしょう?」
「そちらの鬼人族はあなた様の奴隷でしょうか?」
至極当然のことのように。青年は言ってのけた。何の疑問もないように。
隣でムッとした気配を感じたのだが、静かにしていてもらう。話が拗れても困るからだ。
「彼女は用心棒ですよ。恥ずかしながら、自分には戦闘の才がまったくないもので。普段から守ってもらっているのです」
「そうでしたか。ですが、それならこれからは我々がこなしますよ?わざわざそのような異種族を頼らずとも………」
「……いえ、自分は気に入っているので大丈夫ですよ。少数で行動する方が性分に合いますし、それならば鬼人族の方が都合がいいでしょうし」
「なるほど。それならば無理は言いません。気が変わった際にでも、声を掛けていただければ」
「ええ、そのときはよろしくお願いします」
その後も表面上は和やかに会話を続けたが、内心ではまったく別のことを考えていた。
――――そうか、これが人族の歪みなのか、と。




