12話
「結構いるものだね」
「だな。予想よりもずっと多い。これなら今日中に集めきるのも夢じゃねえだろ」
「その代わり、戦う数が多いけどね………」
今も襲ってくる魔物を、展開していた『穢れを祓う聖盾よ』で防ぐ。その間に、フェルトが頭を叩き潰していた。これがまあ、よく続くこと。途中から数えるのが面倒になったほどだ。
「疲れたのか?」
「そりゃね。『穢れを祓う聖盾よ』は常時展開してなきゃだし、アイテムボックスの容量は考えとかなきゃだし、戻るときの体力を踏まえてどこまで進むか、あとは倒した魔物がどんな戦いをしていたか、それからそれから………」
「ああ、うん、わかった。わかったから静かにしてろ」
大きくため息をついて、僕の言葉を遮る。聞いてると頭が痛くなってくるのだろう。元々考えて動くタイプじゃなさそうだし。
「随分とめんどくせえやつだな。そこまで考えて動いてたらどうしようもねえだろうに」
「責任があるからねえ。ないならある程度適当に済ますけど、今回ばかりは話が別だ。命を預かってる」
自分の命と、この子の命。けして無駄にしていいものじゃない。なら、慎重にならざるを得ないし、考えを巡らせることもやめてはいけないのだ。
「わけのわからねえやつ」
「よく言われるよ」
「そればっかりだな」
「それもよく言われる」
軽口を叩きながら、森の中を進む。僕は神界での特訓があったから。フェルトは今まで長い間旅を続けてきたから。どちらも体力には自信のある方だった。だからだろうか?2時間ぶっ続けで歩き通し、尚且つ戦いがあったというのに、休憩らしい休憩もなしに移動を続けられているのだ。
また、移動が続けられる理由には相性的なものもあった。僕がサポート、フェルトがメインという役割が上手く分けられているので、無駄な体力を使わずに済んでいる。フェルトはただただ目の前の敵だけに集中すればいい。僕はその場に留まり、妨害に徹すればいい。そこまで大きな疲労が訪れるはずもなかった。
「と、こんな感じで大丈夫だろ」
「おつかれ。はい、水。あとは僕がやっておくよ」
「おー、任せた」
戦闘が終われば、フェルトが魔物の解体。長くサバイバル生活をやって来た彼女からすれば、この程度は簡単だという。
一方、僕は解体した魔物の処理に回る。肉はアイテムボックスに入れ、内臓や血は帰り道から外れたところに処理をする。使わない部分にしても、他の魔物が使うという。見つけやすく、邪魔にならないところへ置いておけばいいだろう。
「……ん?」
「どうかした?」
不意に、フェルトがどこかへと目を向ける。そちらには何もなく、辛うじて道と呼べる獣道からも外れるような方角だった。
けれど、フェルトの感覚は非常にいい。そんな彼女が何かを感じたというなら、素直に聞く価値はあると思うのだ。
「悲鳴が聞こえた」
「それがむこう?」
「ああ。ただ、あのアマゾネスの集団の誰のでもねえな。魔物の罠かもしれねえ」
そうか、その可能性だってある。話によれば、人型の魔物は存在するらしい。人型の魔物は悪質で、大抵は人を騙す。騙し方は千差万別で、可愛らしい少女に化けることもあれば、集団に紛れて夜な夜な襲うということもあり得る。
彼女が示唆しているのは、魔物がエサを得るために発した声かもしれない、ということだった。ここは敵地。あり得ないことではない。
「………行こう」
「へえ?罠かもしれねえのにか?」
「だとしても、行かなきゃわからない。何もせずに後ろ髪が引かれる思いをするよりは、向かって罠だったって知る方がいい」
「そうかい。なら、向かってやるとするさ」
僕たちは道を外れ、声のする方角へと走り出すのだった。
※ ※ ※
「うわあ………」
「これは………」
目の前に広がる光景。それはあまりにもテンプレというか、何というか。お約束過ぎて、笑えてくるような。
「――!―――――――!」
「「罠っぽい………」」
植物に飲み込まれそうな、少女の姿だった。
「おい、あれどうするよ………」
「罠だよね……?もしかしなくても、罠だよね………?」
「見なかったことにするか?」
「うーん、それは………」
どうなのだろう?もし本当に助けが必要だったときは大変だし、かと言って助け出したら魔物でした、でも困る。僕一人なら迷わず行動に移せるのだけど、今はフェルトもいるからなあ。なんとも言い難いというか。
「……フェルト、防御はできる限りの対策するから、助け出してくれない?」
「助けるのか?」
「魔物だったら手間が増えるだけだと考えてくれれば。今日の夕食カレーにするからさ」
「よし、やるか」
扱いやすくて何より。そんなことを考えながら、『穢れを祓う聖盾よ』の範囲を広める。同時に、構造を変化。1、2枚抜かれても平気なように、10枚展開する。
さらに、特殊な攻撃が来ることを予想。ガス系の攻撃、及び呪い系の攻撃をシャットアウトするように再設定した。加えて、護符の方へも手をやっている。不測の事態にも対応できるようにするためだ。
「んじゃ、行ってくるわ」
様子を見るため、木の上に立っていたフェルトは飛び降りる。一瞬にして魔物の前に立ったかと思うと、次の瞬間には頭を砕かれていた。なんとも呆気ない。
その後も油断する様子はない。棍棒をそのまま少女の方へと向けた。
「……なんだ。おい、降りて来ても平気そうだぞ」
「魔物じゃなかったの?」
「そうみてえだ。普通の人族みたいだな」
言葉に従い、彼女の近くへと降りる。少女はまだ戸惑っている様子だ。突然のことで、何が起きたのかわかっていないのだろう。
しばらく呆然としていたのだが、ようやく落ち着いたのは別の要因だった。複数人の足音と共に、新しい人影が現れた。それは僕と似たような姿形の種族でもあった。
「――――!――――――!?」
「―――――!―――――――!」
恐らく人族なのであろう面々に飛び付く少女。よほど怖い思いをしたのだろう。しばらく震えていた。
震えが止まってからは、少しの間会話を交わしていた。そのうちに代表者であろう人物が僕の方を向き、手を差し出す。握手、ということだろうか?深く考えもせず、僕は手を握った。
「――――――。――――――――—。――――――――」
手招きをして、どこかへと歩いていく。ついて来い、ということか。フェルトと顔を見合わせ、どちらともなしに歩き出す。今後のために、一緒に行くべきだと思ったのだ。
……それにしても。やはり、人族の言語は翻訳できないのだな。思い知らされた今日この頃であった。




