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9話

 「さてと、どうしたもんかな………」


 離れたところに座る一団を見て、頭を悩ませる。彼女たちが来てから1週間ほどが経った。異世界に来てからは、もうそろそろで1ヶ月が経とうという頃だ。

 アマゾネスの少女を含め、むこうの集団は誰一人として話そうとはしてくれないのだ。数えてみれば、集団は12人。それだけいるのにただの一人も、だ。よほどひどいことをされてきたのかもしれない。


 「……にしても、君は相変わらずだよねえ」

 「何がだ?」


 僕の前でスプーンを口に運ぶフェルトは通常運転。今日もまたカレーを食べている。食べて小休憩を挟んだら、今度はトレーニングルームへ。1日のほとんどは食事、睡眠、トレーニングで済ませている程だし。面倒なときはシャワーすら浴びないことがあるほど。それはどうかと思うんだけどなあ。


 「せめて、シャワーぐらいちゃんと浴びようよ。好きな人ができたときに苦労するよ?」

 「お前にゃ関係ねえだろ。そもそも、好きなやつができたら直すっての」

 「習慣って意外と抜けにくいものだからね?一応できたら、こっちからフォローするつもりでもあるけど………」


 本当に大丈夫かなあ、と思ってしまう。一緒に暮らしてればわかるのだけど、フェルトってだらしないところがあるからねえ。脱いだものは脱ぎっぱなし、料理を作らせたら大雑把、加えて部屋はごっちゃごちゃ。……あ、これは僕が言えないか。

 とにかく、もし相手が強さだけを追い求めている人だったら……家の中は恐ろしいことになりそうである。身だしなみぐらいはしっかりしておかないと、どこでボロが出るかわかったものじゃないと思う。付け焼刃の恐ろしさは知ってるし。


 「で、今はどこに向かってるんだ?」

 「食料確保のために、一旦森のどこかに降りようかな、って。野菜の方はどうにでもなるけど、やっぱり肉や魚も食べたいでしょ?」

 「まあな。そんなら……と、地図持って来てやるよ」


 カレーを食べ終えて、一息をついた彼女が食堂を後にする。1分もしないうちに、帰って来たけど。食堂の近くに部屋を移したんだな、と理解するのはすぐであった。


 「あいつらを助けたのがたぶんここだろ?」

 「そうだね。少しずれてるかもだけど、おおよそは合ってるはずだよ。『ケツァルコアトル』に聞けば正確に知れると思うけどね」

 「いや、そこまではいい。なら、次はここを目指そうぜ。ここには元々食える魔物がたくさんいた。魔物が闊歩する今なら、結構食える魔物が増えてるんじゃねえか?」


 なるほど、それは耳寄りな情報だ。今はここに暮らす人も増えた。ここで食料をたくさん確保するのもいいかもしれない。


 「よし、じゃあそれで行こう。早速伝えて来るよ。フェルトはそこに生息する魔物の特徴を思い出しといて。厄介な能力があったら、対策用の魔道具作らなきゃだから」

 「別にそこまでしなくてもいいんだが………」

 「甘い!万が一があり得るかもしれないでしょ?その万が一も起こっちゃいけないんだよ。失敗の可能性を限りなく低くするのが魔道具なんだから」


 どれだけ警戒しても、し過ぎるということはないはずだ。なにせ、魔物に支配された世界。何が起きるかわからないのだから。

 僕が折れそうにないことを悟ったのか、渋々頷いてくれた。うん、それでよろしい。

 次にやるべきことは食料確保か。上手くいけばいいのだけど。


※               ※               ※

 「おい」


 呼び止められたので、足を止めて振り返る。声で気付いたけど、予想通りのあの子だった。


 「やあ、やっと話し掛けてくれたね。どうしたんだい?」

 「どうしたもくそもあるか。お前が不審過ぎるから監視してただけだっての」

 「ああ、道理で視線を感じたわけだ。誰かなと思ってたんだけど、君だったんだね」


 ここ最近、ずっと視線を感じてたからね。たぶん、あの集団のうちの誰かだとは思ってたけど、この子だったとは。……ちょっと白々しいか。


 「で、用件は?見た感じ、仲良くしたいとかではなさそうだけど」

 「当たり前だろ。そんなことはあり得ねえ。あたしは……いや、あたしたちは絶対に人族を許さない。その気持ちは変わらねえ」


 頑なだな。本当に、何があったのやら。直接聞き出そうとはしないけど、やっぱり興味はある。地雷原を踏み抜かないか不安だし、この子自身のこともあるし。


 「でもほら、怪しいことはしてなかったでしょ?」

 「だから余計に怪しいんだろうが」


 うーん、この様子だと先は長そう。地道に信頼を得ていくしかないかな。


 「そういえば、お前さ」

 「うん?何かな?」

 「その剣。ずっと腰に下げてるよな?」


 この子が差しているのは、一振りの刀。僕が下げているには不釣り合いで、まったくと言っていいほどに似合っていない。フェルトにも見られたとき、刀の付属品みたいだなと言われたことだってある。

 ま、そんなものだよね。似合っていないのは自分でもわかっている。


 「そいつは護身用か?それとも、大事なものなのか?もしそうだったとすりゃあ、そいつを奪えばお前の本心も聞ける………」

 「やめろ」


 自分で出したとは思えないほどに、ゾッとするほど冷たい声。褐色の少女が見せた怯えの表情で、すぐに元の表情へと戻すことはできたけど。いけないいけない。これ(・・)は他人と話すときに不要なものだ。


 「お、お前………」

 「ごめんね、驚かせちゃって。けど、この刀……いいや、剣を盗ろうとはしないでくれないかな。これは君が思っているようなものじゃなければ、いいものでもない。君が持てば、災厄しか呼ばないだろうからね」

 「それって、どういう………?」

 「互いに信用を置いてないなら、話すべきものじゃない。こんなものは誰にも背負わせたくないから。ただ一つ言えるとすれば……これは破滅へと導く武器だ。誰にも使わせる気はないし、使いわせたくもない。それだけだ」


 視線を落とす。鍔も、柄も、鞘に至るまで、すべて漆黒に染まった刀。暗い色であるはずなのに、不思議と人を魅せる美しさがある。例えるのであれば、夜空の色。人が手を伸ばしても届かない、そんな遠い空の色。とても美しく、思わず視線が行ってしまう。そんな色であり、それに負けない造形で芸術品とも言えるかもしれない。

 けれど、それは危険な美しさ。もし、これに魅入られてしまえば………


 「………おい?」

 「……なんでもない。気になるならついて来る?変なことをする気はないから、別にいいよ?」


 再び前を向いて、歩き出した。足音が僕だけではないことから、どうやらついて来るらしい。構わないけどね。

 指令室へと向かう僕の耳には、あの声がこびり付いている気がしていた。そう、あの事件が起きたときのあの声が………



 ―――――紫月……紫月はどこだ………?

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