8話
バッ!そんな音が聞こえるほどに、勢いよく飛び起きる。その勢いの良さに、僕は元気だなー、なんて思っていた。勿論、すぐに胸倉を掴まれたけど。
「てめえ、何をした!?早速破りやがったな!あいつもグルだったんだろ!」
「嘘はついてないさ。あの子ともグルじゃない。さて、あのときなんて言ったか覚えてる?」
褐色の少女は一瞬怯んだが、すぐに威嚇してくる。うーん、まるで警戒心の強い野良猫みたいだな。
「何もしねえっつー話だっただろうが!」
「残念、それは違うよ。僕が言ったのは、危害を加えないっていうこと。何のアクションも起こさないとは言ってない」
「それは詭弁だろうが!」
「そうかもね。けど、こうしなきゃいけない理由もわかってほしい」
今も睨みつけている少女。僕と一対一ではあるものの、身体の震えが見て取れる。そうか、そうだったね。この子は………
「っと、ごめん。何もなしに二人きり、っていうのは怖いか」
「あたしは怖がってなんか………!」
「はい、これ君の武器。それ抜いといていいよ。なんなら、おかしく思ったときに切ってくれて構わないし。僕は今丸腰だからさ」
証拠も見せていいよ?と自身のポケットを裏返したり、服の中を少し見せたりする。本当に丸腰なので、やましいところはないしね。
剣を持ったことで少しは収まったのか、震えが止まる。代わりに、訝し気な目を向けられたが。
「何のつもりだ?」
「というと?」
「お前の意図が読めねえ。あたしたちを助けたり、かと思ったらこんなところに連れてきたリ。そうだと思えば、急に武装させたり。意味がわからねえんだよ」
なるほど。僕が何のために助けたのかわからないから、不安だっていうことか。いつ態度が急変するのか。いつ本性を露わにするのか。そんなことを考えてしまうのだろう。
「んー、理由はないと言えばないし、あると言えばあるかな?」
「ふざけてんのか?」
「いや、そうでもないけども。なんか困ってる子がいるととりあえず助けるのが性分だから、っていうのが理由がないっていうこと。これからの旅で仲間を増やしとけば楽に戦える、っていうのがある方だからねえ」
助け出したときにはそこまで意味がないことが多い。いちいち考えるのがめんどくさいからだ。そんなことを気にしていたら、動けなくなるし。
でも、助けられた方は理由を求める。なので、後付けで理由を考えるというのがいつもなのだった。というわけで、こんな返事になるのは当然とも言えた。
「仲間?」
「そ、これから世界中回らなきゃいけないからさ。僕の戦闘力なんて微々たるものだし、仲間が多いに越したことはないのさ」
「……いかれてやがるな」
「自分でもそう思うさ。あ、そうそう。もう入ってもいいよ」
後ろにあった扉が開く。そこには今にも泣き出しそうなエルフの少女が立っていた。居ても立っても居られなかったようで、褐色の少女に飛び付く。
「ナトゥラ……!無事だったか!」
嬉しそうに抱き合う二人。お邪魔であろう僕は少し離れていることにした。
しばらく抱き合っていたことで、ある程度は安心できたのだろう。それぞれいつでも攻撃できるようにしながら、僕の方へと向き直った。
「で、何から聞きたい?僕に答えられる範囲でなら、ある程度は答えられるよ?」
「……お前の目的を聞きたい。なんであたしたちを助けたのか。何のために世界中を回らなきゃいけないのか。それをな」
「そう来たか。君たちを助けた理由としては、さっきのが理由だよ。理由はないとも言えるし、あるとも言える。納得できる方で捉えてもらって構わないよ」
そう、そこは別にどっちでもいい。この子たちはまだ僕を信じられはしていない。それならば、好きな方に考えてもらうというのが一番いい。
「で、何のために、だっけ?そっちはちゃんと理由がある。無事な人たちを助けることさ。魔物たちからね」
「ハッ、おかしなことを言うな?それだったら、まるで人族以外も助けるつもりに聞こえるじゃねえか」
「うん?いや、今は助けるつもりでいるよ?」
勿論、あまりにも素行がひどいとかなら考えるけども。それは人族にも言えることだし、さしたる問題でもないと思うかな。
もっとも、予想外の答えを返された方は堪ったものじゃなかったらしいけど。
「はあ!?お前、本気で言ってんのか!?」
「……?当たり前じゃない。おかしなところはないでしょ?」
「あるわ!おかしいところしかねえわ!」
「そこまで言うかい?」
肩を上下させる彼女に、僕は首を傾げる。この世界で人族の評価はどれだけひどいのやら。なんだか、期待できない気がしてきたよ?
「まあ、そういうことだから。信じるか信じないかは君たちに任せるということで」
「……そうかよ。ほんとにいかれてるぜ、お前はよ」
そうかな?自分ではそう思わないのだけど。他人からしたらそう見えるのかも。
「あたしたちに何した?急に倒れるなんざ、何かしたとしか思えねえ。何を盛った?」
「睡眠導入剤をうどんに練り込んだんだ。とは言っても、かなり微量だったけどね。君らの抵抗力が十分にあれば、防げてたはずだよ?」
これもまた同じ理論。あくまで変なものは入れてない、と言ったのであって、効果がわからないものや副作用が激しいものなどは入れていない。そもそも、そんなものを他人に使うこと自体、よくは思っていないのだし。
「何のために………」
「だって、君らは普通に寝ろって言っても寝ないでしょ?警戒して、心が休まらないのが関の山さ」
「けどな………!」
「交代で見張りをしながら、休んでいけばいいって?それこそ冗談。君たちはもう限界だった。そんな無理をさせれば、絶対に誰かが倒れる。だからさ」
ぐっ……と言葉が継げなくなった。感情が邪魔をしているものの、理屈ではわかっているのだろう。僕の言っていることが正しいことぐらい。
「次いで言っとくなら、君が代わりをする、っていうのもなしだ。その理由は君自身がよくわかってるだろ?」
「……………」
返事はない。自覚はあるか。それなら、尚のこと性質が悪いかもな。
「とりあえず、部屋はまだ余ってる。好きなところを使ってくれて構わない。なんなら、一つの部屋に二人の体制でもね。そこら辺は自分たちで決めておくれよ。何かわからないことがあったら、僕のところまで来てくれれば答えるし。今日はまだ疲れてるだろうから、ここまでにしておくよ。それじゃあね」
机の上に置いた腕時計やペンダント、リモコンを手にする。その中に武器が交じっていたからだろうか?褐色の少女も、エルフの少女も一瞬肩を震わせていた。……やっぱり、まだまだ先は長そうだ。
「………どうして…………!」
小さな声が聞こえる。返す必要はなかったけれど、なんとなく返事をしていた。
「約束だからさ」




