7話
「ということで、今日はけんちん汁ならぬ、けんちんうどんにしてみましたー」
「……カレーは?」
「そんなあなたにカレーコロッケ」
食事の支度を終え、人数分の料理を机に並べる。途中で挟まれた不満の声は大量のおかずで黙らせた。フェルトの身体能力や感覚はずば抜けていい。コロッケの中から香るカレーの匂いぐらい、すぐに気付くだろう。早速口に放ってるぐらいだし。
「一応、うどん主食ね?そっちもちゃんと食べてよ?」
「わかってる、わかってるー」
聞いているのかわからないぐらいに、一心不乱だった。……まあ、残すことはないからいいんだけどさ。
戸惑いをありありと浮かべているのは、先程助けた集団だ。目の前の食事を物欲しげに見はしたものの、警戒と困惑が抜け切ってない。罠かもしれないと思っているのだろう。
「そんなに怪しまなくても、変なものは入れてないよ?」
「……信用できねえな。お前人族だし」
「理不尽なまでに嫌われてるなあ……信用できないなら、毒味でもしようか?どれ選んでも大丈夫だよ?」
並べた皿を指す。種族的に毒になるようなものがあるとすれば(犬でいうタマネギみたいな?)、話は違うけれども。そうでもないなら、食べれるものしか入れてない。……ちょっとは小細工施したけど。
「……じゃあ、これを一口食ってみろよ。できたら少しは信じてやる」
少女が示したのは真ん中……より少し端よりにあるもの。なんだか意外だな。キリのいいとこを示すかと思ったのだけど。いや、それだとわかりやすいからかな?
「これでいい?」
口に運んで飲み込むと、若干怯んだ様子。嫌がるとでも思っていたのだろうか?信じてくれるのなら、別にどうでもいいのだけども。
「ま、まだだ!」
彼女は次々と指し示していく。その度に平然と食べようとしたので、遂には折れたらしい。仲間たちを呼んだ。
「……で、何のつもりだ?」
仲間たちは安全だとわかると、最初はゆっくり。徐々に勢い付くように食べていた。なんだかんだ言っても、やはりお腹は空いていたのだろう。
「何のつもりって?」
「とぼけるな。あたしたちを助けた理由だ。人族だっつーのに、何の利益もない手助けなんざするわけがねえ。何か企んでんだろ」
「……信用が最底辺なんだね、人族って」
料理にも手をつけず、ただ僕を睨み付ける少女。彼女の敵意を受けて、思わずそう呟いていた。そう言わずにはいられないほどに、ひどい敵意だったのだ。
これに怒ったのはアマゾネスの彼女、大爆笑を始めたのはフェルトだ。
「……何かおかしなことでも言った?」
「いや、そりゃな。とんでもねえこと同族がしといて、その言葉はキレるだろうさ。お前の頭は相当お花畑みたいだな!」
ヒーヒー言いながら肩を上下させる。むう、どうやら人族は変なことしてるみたいです。
「首の所見てみな。不自然なアザがあんだろ?」
「そうだね。見たときから不思議に思ってたけど、何これ?」
少女の首もとにも、他の子たちにも同じ痣がある。もっとも、それは『ケツァルコアトル』に案内する前から気付いていた。だから、変に思っていたのだ。
「それはこいつらが奴隷だった、っつー証だ。あっちのドワーフ共は大方労働奴隷、エルフとアマゾネスは性奴隷だったんだろ」
「奴隷………?」
「そうだ。で、予想にはなるが、魔物の襲撃で主人は死んだ。契約から晴れて解放され、逃亡生活でも送ってたんだろうさ」
否定の声は上がらない。言葉が通じている女の子の方でさえも。皆、下を向いているだけだ。悔しそうに、辛そうに、苦しそうに。
その言葉で、態度で。それが事実なのだとわかった。わかってしまった。
「……そか。なら、一つだけ言わせてもらおうかな」
「………なんだ?」
「こっちからは危害を加えるつもりはないよ。それだけは信じてほしい」
できる限り温和に見えるよう、笑顔を作る。気休めにしかならないけれど、それでもこの子たちといい関係を作れるように。そうすれば……いや、それは仲が良くなってから考えよう。今は信用される方が先だ。
案の定、そんな言葉は信じられなかったらしい。激情して、テーブルを叩いた。
「ふざけんな!信じられるわけねえだろうが!」
「だよね……でも、僕だけじゃないから。何かあれば、フェルトに頼ってよ。それなら少しは信じられるでしょ?鬼人族で、君と同じ大陸から来てるわけだしさ」
「それは………」
「とにかく、今はここで休んでいってよ。武器を取り上げることはしないし、回復し切ったら出ていっても構わない。だからね?」
それでも、不満は残るらしい。しばらくの間、睨んでいた。ひどい目に遭わされてきたんだ、無理もないか。
ただ、後ろの仲間の存在もあった。大きくため息をつき、鼻を鳴らした。
「わかった、お前のことを聞いてやる」
「そっか。ありがとう」
「けどな、お前を信用したわけじゃねえ。そこだけは履き違えんな」
「わかってる」
一歩進むことができた。そんな気がする。と、そこで気付いた。そういえば、目の前の子はそれなりに怪我を負っていた。そこまで大きな傷はなかったとはいえ、思うように栄養を取れない今のような状況だと造血機能は落ちているのでは?と。
ゴソゴソとアイテムボックスの中を弄り、目的のものを取り出す。こっちに来る前に、かなり生産してきたのだ。在庫は結構ある。それに、必要な物質も入手難度はそこまで高くない。……はずだ。
「これは?」
「薬だよ。血の産生を力を高めてくれるね。血を流してたわけだし、見た感じ十分に栄養も取れてなさそうだし。せめてこれぐらいはね」
嫌そうではあったが、心配そうな目もある。色が危険ではなさそうだった、ということもあるのだろう。飲んではくれた。少し咳き込んでいたけど。
「あ、ごめん。まずかった?」
「……クソ不味い。こんなもん、一本飲めば十分だぜ………」
「いや、何本も飲むようなものじゃないよ。一本で十分なように作ってるしさ。もしそんな必要があるなら………」
相当出血してるか、常時血を流しているかの二択だ。そんなヤバすぎる状態、そうそう起こらないとは思うけど………
「あ、れ………?」
ふらり。褐色の少女の身体が不自然に崩れる。後ろの仲間たちも同様に。3分もしないうちに、彼女たちは全員倒れていた。一人残らず。
「ま、予定通りかな?」
僕はぽつりと呟くのだった。




