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6話

 「お、終わったー………」

 「おー、やっと終わったか」


 ぐでっとした様子で食堂に戻れば、ケロッとしているフェルトがいた。寝たことで回復できたらしい。うん、よかった。よかったんだけどね?なんだか、不平等感を感じちゃうのはおかしいかな?


 「一応、フェルトのも少し弄るから貸してくれない?すぐ終わらせるからさ」

 「どんぐらい?」

 「1分で仕上げるよ。下準備自体は済ませてるしね」

 「そか。じゃあ、ほい」


 耳から翻訳機を外し、僕に放った。こら、物を乱雑に扱わない。壊れたらどうするのさ。……そんな柔なものは作らないけども。

 ササッと仕上げ、再び手渡す。時間はジャスト1分だった。


 「で、翻訳できるようになったのか?これで」

 「うん、君と話ができてるし、できると思うよ?問題は………」


 こちらに向けられる視線。やっぱり、好意的なものではない。


 「つけてくれるかだよね………」

 「そりゃな。普通こんな怪しげなもんを、それも人族から手渡されりゃ警戒しねえはずもねえさ」

 「だよねえ………」


 これが悩ましいところだ。つけてくれないと、話はできない。けれど話ができなければ、信用も生まれない。つまりは、翻訳機をつけてもくれないわけで………


 「……どうしようか?」

 「方法考えてなかったのか?」

 「開発する方に目が行きがちだからねえ………」


 所詮技術者は技術者でしかなく、相手を信用させるための話術はない。というか、そもそも話が通じないわけだし。どうしようもないというのが今の状態だった。

 実際に異世界召喚をされて、今まで読んできた小説の主人公たちってどれだけ優遇されてるのか、身に染みてわかったよ。自動で言語翻訳、チート能力、加えて何故か加わる主人公補正ってやつ?最初にヒロインと会って、すぐに仲良くなる辺り凄まじいなと思うよ。


 「うーん、どうしたもんか………」

 「しゃあねえ、オレがなんとかしてやるよ」

 「え、ほんと?」

 「ああ、その代わり………」


 ちらりと見たのはキッチンの方。そういうことね。


 「わかった、考えとくよ」

 「よっしゃ!」


 大方、カレーが食べたいのだろう。よくもまあ飽きないものである。むこうの人たちに出すのも考えて、今日は違うメニューにするつもりだったけど……まあ、フェルトは元々よく食べるか。フェルトだけ1品増やしても食べられそうである。

 さて、どんな方法をするのやら。期待を込めて見ることにしよう。


 「………あれ?」


 なんだか普通に近付いてるんだけど?何も話し掛けていないのだけど?仲良くしようとする意志が欠片も感じられないのだけど?気のせいかな?

 ひしひしと嫌な予感がしてくる。あれ、これ僕間違えちゃった?選んじゃいけない選択肢だったやつ?


 「おらよっと」

 「なんでそうなるのさ!?」


 フェルトの取った策というのは至極単純なもの。そして、とても彼女らしいと言えるものだった。……まったく褒めようとは思えないけど。




 ――――まあ、要するに。力尽くである。


 わたわたと慌てる周囲の人たちをよそに、フェルトは意気揚々と戻って来た。何の疑問も抱いていない様子だ。


 「フェルト……あれはないよ。普通になしだよ」

 「あれが手っ取り早いだろ?それとも何か?話せるようになるまで努力するってか?そんなことしてる間に、あいつらのうちいくらか死ぬぜ?もしかしたら、全滅するかもな」

 「そりゃそうかもしれないけど………」

 「ま、起こっちまったことは諦めろよ。ほら、話せるようになったはずだぜ?」


 親指で示した方を見れば、褐色の少女が敵意を込めた目で僕たちを見ている。うわあ、相当怒ってるな、これは………


 「てめえ、何しやがる!あたしたちに敵意があるってことでいいんだな!?」

 「ほら、話どころじゃなくなったじゃん」

 「知るか。あとはお前がどうにかしろよ」

 「丸投げかい?ひどいなあ………」


 髪を掻きながら、女の子の前に行く。どうせフェルトは助けてくれるわけないし、元からこれは僕の仕事だし。交渉をするのは僕一人であるということぐらい、わかっていたさ。……ここまで険悪な仲でやるとは思っていなかっただけで。


 「なんだ、てめえ?」

 「こんにちは。僕はこの船……船?戦艦?要塞?んー……まあ、この『ケツァルコアトル』の所持者だよ。万巧って言うんだ。よろしくね?」


 手を差し出したら、あっさり跳ね除けられた。うん、まあ、そうだろうなとは思ってた。


 「ケッ、ふざけんな!てめえなんかとよろしくするつもりはねえ!次ふざけたこと言ってみろ、ぶっ飛ばすぞ!」

 「あ、ぶっ飛ばすぐらいで許してくれるんだ?」

 「は?」

 「いや、心臓貫くとか、頭かち割るとか、全身の骨砕くとかしないのかって思ってさ。流石にそこまでされたら死ぬからよかったなー、と」


 信じられないものを見る目で見られた。おかしいな、変なこと言ったつもりないのに。


 「あほか。つまらないこと言ったぐらいで、そこまでするわきゃねえだろ」

 「え?……変だな、つまらないジョークで頭吹っ飛ばされたことあるのに………」

 「お前はどんなとこから来てんだ!?」


 ちなみに、ヴァルハラではこれが普通です。死が軽く考えられているので、殺す殺されるは日常茶飯事だよ?酒に酔った勢いで殺されたとか毎日のことだよ?


 「とりあえず、話はできてるみたいだね。きちんと翻訳できてるようでよかったよ」

 「あ?……ッあ!なんで話ができてるんだ!?」


 今更のように気付いた模様。何度も繰り返して僕と自分とを見た。


 「さっき、あの子が耳にこれを付けたでしょ?これが翻訳機になってるんだ。だから、急に人族語を覚えたとかいうわけじゃないよ」

 「そ、そうか……ならいいんだが。いや、そうじゃねえ。お前、いったい何のつもりだ?」


 改めて僕を睨みつける褐色の少女。僕は苦笑いをしながら、彼女の後方を指差す。


 「その前に、食事にしない?お腹減ってるだろうし」

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