2話
「気を取り直して。今のが指令室だよ。緊急時にはアラームが鳴るから、フェルトも来てほしい」
「ああ?必要あんのかよ?指示出せるのはお前だけだろ?」
「必要さ。場合に依ったら、降りて白兵戦になるかもしれない。そうなったら、現段階じゃ君だけが頼りだからね」
ふーん、と聞いているのかよくわからないフェルト。僕たちは指令室から降りて、『ケツァルコアトル』の探検中なのだ。僕からすれば、全体像どころかパーツの一つ一つまで知っているのだけど、そこはそれ。いくつになっても、冒険心は抑えられないってやつさ。
「お前は戦わねえのか?」
「うーん、いざとなったら戦うかもしれないけど……あくまで僕は技術者であって、戦士ではないからねえ。僕より実力がある魔物と戦うことになったら、むしろ邪魔にしかならないと思うよ?」
「ってーと?」
「戦闘の才能がからきしなんだよね。いつまで経っても上達しないというか、基本ができてないというか………」
昔っからそうなのだ。運動神経は悪いわけじゃない。それなりに動けるし、重量挙げといったものならむしろ得意分野に入る。
が、武術関係は全くダメ。剣道をやれば、素振り中に竹刀がすっぽ抜ける。柔道をやれば、受け身が変な形になり、いつ使うのそれ?状態になる。弓道をやれば、糸が切れまくる。このように、やろうとすると不幸を越えてるレベルで上手くいかないのだ。結局、我流で戦う羽目になる。
そんなわけだから、ある程度までは強くはなれても、それ以上にはなれない。街中の喧嘩ぐらいならなんとかなるけど、大会とかなら地区予選の段階で姿を消すタイプ。僕の実力なんて、そんなものなのだ。
「で、作るやつになったってわけ?」
「それもあるけど、どちらかって言うと先だったのは作る方だよ。0から何かを作っていくのは楽しいからね」
他にも理由はあるけど、ここでは割愛。案内に戻ろうと思う。
胴体の中央まで来ると、下の階に降りる階段に差し掛かった。フェルトを呼び止めて、階下へと向かう。
「ここは3階、って言えばいいかな?今から降りていくのが2階に当たる部分。シャワールームは2階にあるから、必要なときは降りていってね」
「りょーかい。けど、なんで2階なんだ?」
「居住スペースは1階から3階まですべてなんだけど、3階か1階にすると遠い人大変でしょ?だから、中間の2階にしてるんだよ」
「なるほどな」
しばらく黙って、歩いていく。コツコツと歩く音が響く。
そういえば、あんまり意識はしてなかったけど、女の子と二人っきりなんだよね。普通ならドキドキするようなシチュエーションだね。まったくしないけど。理由としては、僕とフェルトの両方に問題があるんだよね。僕は過去にあったとある理由から。フェルトは僕がタイプじゃないから。これじゃあ、ロマンスも何もないよね。
「ここがシャワールームだよ。中からロックを掛けられるから、入ったらちゃんと鍵を掛けといてね。もしかしたらがあるかもしれないし」
「お前がか?」
「いや、これから人が増えたら、さ。いろんな人がいるし、劣情を抑えられない人もいるかもでしょ?」
僕はやる気はないけど、他の人だってそうかと言われると自信がない。というか、100%起きるだろうね。男なんて意外とそういうものさ。
「……まあ、お前は信用してるがよ。意外だな」
「ん?何が?」
「お前って理想を掲げてるわけだし、もっと信用してるのかと思ってたわ。そんなことをするやつはいない!とかよ」
沈黙。静寂を先に破ったのは僕だった。吹き出してしまったのだ。
「な、何がおかしいんだよ!」
「いや、ごめんごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。ただ、ちょっとおかしくて」
「やっぱりおかしいんじゃねえか!」
「そりゃねえ。だって思春期の男なんて、脳みその中ほとんどエロいことばっかりだよ?間違いが起こらないわけないじゃないか」
言って、また笑ってしまった。いやいや、冗談で言ったのだとすれば、なかなかのものだね。呆気にとられたフェルトを見ながら、しばらくお腹を抱えていた。
「……おかしなやつ。普通はもっと妄信的じゃねえのかよ」
「理想は理想、現実は現実さ。理想の全てが上手くいくわけじゃないし、理想を持たずに突き進むことは意外と難しい。そうだな……君は旅をしてるでしょ?」
「ああ、まあな」
戸惑ったように頷く彼女。
「行きたい目的地に行く。これが君の理想だ。夢と言い換えてもいい。けど、君は目的地に向かうまでに、目的地のことだけを考えるかい?」
「いや、そりゃあねえだろ。周囲を警戒しなきゃいけねえし。浮かれてたら死ぬじゃねえか」
「つまりはそういうこと。目的地に着くには道を認識し、道が合っているかどうか地図を確認し、周囲のことも気に掛けなくちゃいけない。別の言葉で言うなら、現実を見ろってことさ。理想を見てるだけじゃ何も前に進みやしないよ」
「……お前、ドライだな………」
呆れたようにため息をつかれてしまった。とは言ってもねえ。声高に理想や夢を謳うやつに限って、それを叶えるために何をすればいいのか、見えていないやつが多い気がするし。割と見るから、冷めた目で見てたものだよ。反面教師になる、って意味では役立っていたのかもしれないけども。
それに………
「……理想がすべて叶うなら、こうなっちゃいないだろうからね」
「あん?」
「なんでもないさ。さ、行こうか。まだ紹介するところは残ってるんだ」
フェルトを促し、先に延びる廊下を歩いていく。胸に残る痛みには気付かないふりをしたまま。




