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25話

 ……後ろから見た感想はというと、なのだが。


 「無茶苦茶過ぎるでしょ、あの子………」


 その一言に尽きた。実力がわからない、とは言ったけれど……こうして見せられると、恐ろしいものを感じる。この力を僕と初めて会ったときに使われなくてよかった、としみじみ思った。

 フェルトの戦い方はシンプルだ。まさに、パワーでゴリ押し!と言うのが一番正しいだろう。


 「ッらあ!」


 思考を切り裂くように、彼女の声が聞こえる。声と共に振り抜かれた棍棒は、海竜から放たれたブレス(僕が水鉄砲と言っていた攻撃。正式にはそういうらしい)を叩き割っている。……そうか、あれ叩き割れるのか。ぼんやりとそんなことを思っていた。

 やがて、ブレスではダメージを思うように与えられないと気付いたのか、身体を伸ばす。どうやら、格闘戦に持ち込もうとしているらしい。確かに、あの大きさと質量だ。どう考えても、海竜側の方が有利になるはずである。

 そう、普通ならそのはずなのだ。


 「……嘘でしょ………」


 圧し掛かろうとした海竜の身体は、棍棒のかち上げによって海へと倒れ込む結果となった。あの巨体、見た目に反して本当は軽いとか?あるいは、梃子の原理とかそういう理論の下にやってるとか?だとしたら、納得できるけど………


 「駄目だ……異世界って、こんなとんでもないところだったのかい………?」


 うん、現実から目を逸らすのはやめよう。巨大な水柱と鳴り響く轟音で、実はそんなに重くないんじゃないか、という考えは消えた。あの体勢からじゃ、何かの原理を使った様子もないだろう。つまりは、あれはフェルトの純粋な力らしいのだ。

 これからこんな現実離れをした光景を、毎日見なくちゃいけないんだ。諦めて受け入れてしまった方が、気が楽ってやつだね!……やややけくそになり掛かっているのは自覚しているよ。

 脱線したし、話を戻そうか。フェルトのパワーは少なくとも、地球で並び立てる人がいないぐらい。いいや、それですら控えめな表現か。重機クラスでもあのパワーは通用するはずだ。恵まれたパワーが最大の武器。それがフェルトの強みなのだろう。


 「んー、となると………」


 下手に力を増強させるより、弱みをカバーする方がいいだろうか?筋力増強の護符や同じ系統のアクセサリーを渡したところで、大した効果は現れない可能性がある。というか、そちらの方が高い。護符やアクセサリーの中でも簡易的なものといった、簡単に作れるものは総じて上限がついていることが多い。無駄になるか、むしろ邪魔と言われることもあり得る。

 では、防御面は?という話なのだが……こちらもこちらでそれなりのものだ。筋肉が強靭であるため、鎧代わりとして役目を果たしているのだ。はい、そこ。筋肉女とか言わない。


 「スピードは普通の人よりは、レベルかな?もし必要ならそこか……もしくは、防御面を強化するかかな。まあ、そこは好きな方を選んでもらえばいいか」


 あ、海竜が戻って来た。結構怒ってる。ブレス撒き散らしながら、襲い掛かっている。体当たりやパンチなど、意外と器用なものである。

 だが、そこはフェルトも流石のもの。喰らってはいけない攻撃はきっちり避けるか、受け止めるかしている。多少の傷は仕方ないもの、と割り切っているらしい。その甲斐あってか、海竜は少しずつ勢いが削がれつつあった。


 「あ、いいの入った」


 頭に振り下ろしが決まり、頭がクラクラしてしまった様子。海竜でも脳震盪は起こるらしい。まあ、考える脳があるらしいから、当たり前と言えば当たり前か。

 そこから先は一方的なものである。一方的に棍棒を振り下ろされ続け、遂には頭蓋骨を割られてしまう。最期には脳を破壊されて、絶命した。……うーん、僕たちが悪く思えて来る不思議さです。ここまで残酷な殺し方じゃなければ、また違った感想になっていたかもしれないけど。


 「……けど、怪我してないみたいだし、そこはよかったかな?」


 海竜の頭の上でVサインを向けるフェルトに、手を振って返すのだった。


※               ※               ※

 「で、結局何を探したかったんだ?こんなところに食材なんかねえぞ?魚だって魔物に食いつくされてるだろうしな」

 「え、そうなの?あ、でも待って。なんで食べ物だと考えてるんだい?」

 「違うのか?」


 意外だという顔で見られた。ひどい。僕は何だと思われているのだか。


 「……食材ではないよ。食材の材料にはなるけども」

 「やっぱり食い物じゃねえか」

 「まあね。食べ物と水は生きていく上で必須だからさ」


 フェルトの言葉は否定できない。取り繕ったところで事実は事実なわけだし。


 「で、何を取る気なんだよ?」

 「ん?海水」


 早速手にした入れ物で海水を汲む。これだけたくさんあるのだ。少々取り過ぎてしまっても問題はないと思う。一応確認のために舐めてみたが、塩辛さは同じに感じた。


 「こんなもん手に入れてどうすんだ?」

 「ちょっとね。新しい食べ物を作るために、必要なものだと思ってくれればいいさ」

 「ふーん?まあ、いいけどよ」


 もう興味を無くした様子。早いねえ。というか、食べ物にすぐ結びつく辺り、君の方が問題あるような気がしないでもないけど。

 ふと、倒れた海竜が目に留まる。血を流して倒れているところは、なんだか痛々しい。それと同時に、申し訳ない気持ちにもなる。


 「ねえ、少しいい?あの子を弔ってあげたいのだけど」

 「は?なんでだよ?」

 「可哀相、だからかな。こう思うのは失礼かもしれないけどね」


 下手な同情などされたくない。その気持ちは痛いほどによくわかる。でも、無駄だ。必要ない。そう断られたとしても、やってあげたいと思った。


 「……変なやつ。ま、いいさ。好きにしろよ」

 「ありがとう」

 「ったく、どうしてそこまでするんだか」


 フェルトは離れて、素振りなんかを始めている。手伝ってはくれないのだろう。僕が言い出したことだし、構わないのだけどね。

 海竜の頭に近付き、どういう弔い方をするべきか考える。やっぱり海に棲むものだし、水葬の方がいいだろうか。それならば、水が見えなくなるような棺桶はやめた方がよさそうだ。


 「どうして、か………」


 小さく呟く。海竜からは潮の香りがした。海よりもずっと濃い、海の中にいるかのような匂い。きっと、長いときを海の中で過ごしてきたという証だろう。


 「僕が僕であるためさ」

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