24話
がつがつがつがつ。そんな言葉が合うように、一心不乱に食べ続けるフェルト。
最初にカレーを出したときは戸惑っていた。色が色だし、食べ物なのかと疑っていたらしい。確かに、何も情報がなければ、そう思われるのも仕方ないかもね。
「ん」
「はいはい、わかりましたよっと」
用意しておいたお皿にご飯を盛って、ルーをかける。時間を置かずに手渡すと、また食べ始めた。これで10皿目なのだから、食欲とは恐ろしいものだな。とかなんとか考えていた。
一口食べてしまえば、後は早いもの。あっという間にお皿にあったカレーは消えていき、お代わりを催促するようになってしまった。ペースはまるで落ちず、とんでもないと思ってしまうほど。いつもよりもハイペースで食べてるぐらいだし。かなりお気に召したらしい。
「……まさか、ここまでとは思ってもいなかった………」
最終的にフェルトが食べた量は38皿。大の大人よりもよほど食べている。大目に作っておいたため、余裕はあったつもりだったのだが……まさか、足りなくなるとは予想してなかったのだ。
そんな彼女はご満悦といった様子だった。食べ物の力は以下略。
「美味かったな。これはどこの料理なんだよ?折角だし、そこに行ってみるのもいいかもな」
「え?あ、あー……ごめん、たぶん作れるの僕だけだと思う………」
もしかしたら作れるのかもしれないけど、正直なところよくわからない。この世界のことをよく知らないのがここでも順調に足を引っ張ってる。頭が痛いなあ、ほんと………
「え……?マジでか………?」
そのときのフェルトの顔を、僕は忘れることはないと思う。そう。例えるなら、大好きなイチゴのショートケーキのイチゴ部分を、最後の最後でかっ拐われたかのような。そんな、この世の終わりのような顔をしてた。よほどカレーがお気に召したらしい。流石は国民の人気メニューである。
「……うぐぐ、仕方ねえ!おい、お前!ついて行ってやってもいいが、一つ聞かせろ!」
「うん?」
指を突き付けられたので(気付いたのは振り返ってからだけど)、どうしたのかと首を傾げた。……そりゃ、彼女が食べたお皿を片付けなきゃいけないので、今はそれを洗わないといけないわけだ。なので、勿論洗っている手は止めないままであった。次からはカレーをよそる毎にお皿を変えるのはやめようと思った、今日この頃である。
「お前は何のために大陸に行こうとしてる?答えによっちゃあ、ついて行くことはできねえ」
「ああ、そのことか。それには困ってる人を助けるため、って答えるかな?」
あっさりと答えた僕に、やはり戸惑うフェルト。けれど、回答は気に入らなかったみたい。目尻を上げている。
「ハッ、それなら一緒には行けねえな。なんで人族のために動かなきゃならねえんだか………」
「ん?いや、別に人族だけのつもりはないよ?」
どうやら、齟齬があったらしい。言葉足らずだったかな、と思いながら、きちんと説明することにした。
「僕は大陸に行って、そこに住む人……これは人族でも、魔族でも、それこそ鬼人族もだけど。みんなを見極めたいと思うんだ。もし、本当に困っている人がいるのなら……それがたとえどんな種族であっても助けるよ」
それが神様たちのお願いでもあるだろうからね。頼まれて、引き受けてしまった以上、しっかりとやらないと。途中で投げ出すのは僕のポリシーに反するし。それに、もう一つ。大きな理由がある。
「……わからねえな。なんでお前はそこまでする?何のためだ?」
困惑した様子の彼女に微笑む。僕が動くのは今も昔もシンプルな答えでだ。
「約束、だからね」
※ ※ ※
パンッ!掌と拳が打ち合った音が大きく鳴り響く。気合いを入れるためにやるんだって。癖みたいなものかな?
僕たちが立っているのは、僕が遭遇した海竜が現れる砂浜の手前。森の木々が途切れる境界線のような場所だった。どうやら砂浜もあの海竜の縄張りであるらしく、侵入した瞬間に襲い掛かって来るみたい。道理で、森の中に逃げ込んだら追撃が止んだわけだ。
「でも、大丈夫?なんなら僕も前に出るけど?」
「いいっての。折角なんだから、オレの実力でも見とけ。これから一緒に行動することになんだからな」
不敵に笑うフェルトは武器を軽く振るっている。身体を温めて、すぐに動けるようにするためなのだそうだ。まあ、そこら辺は個人の好きにしてくれればいいと思う。なにも、戦い方にまで口を出そうとは思わないから。
夕食後、ようやく彼女は返事を聞かせてくれた。僕と共に、大陸に来てくれるのだ。仲間を得られた僕としては、嬉しい限りだった。僕一人だとできることに限りはあるからね。
ちなみに、理由としては食事のこと、人族の中ではまだマシな方であること、そして何より重要視されていたのがヒヒイロカネを取り扱えることだった。世界中でもここまで上手く取り扱える人は少ない上、魔道具化できるとなれば価値は更に上がるらしい。確保しておきたい人材ではあったらしいのだ。
「そんじゃま、行ってきますかね」
フェルトが一歩踏み出すと、僕を襲ったあの海竜が現れる。その目はギラギラとしており、彼女を睨み付けていた。
「ハッ、おもしれえ。かかって来やがれ!」
駆け出した瞬間、戦闘が始まった。




