23話
「……どういうことだ………?」
「何が?」
完成した棍棒を手渡し、使ってもらった。1分と経たないうちに、混乱した様子になっていたが。もしかして、おかしなとこでもあったかな?
「おかしいんだよ」
「あれ、おかしかった?ごめん、それならまた直すよ」
自分では上手くいったと思っていたのだけど。フェルトからしたら、そこまでではなかったよう。僕もまだまだってことかなあ。
仕方ない、と受け取ろうとしたら、遠ざけられた。
「……そっちじゃねえよ。お前のやり方がおかしいだけだ」
「やり方?」
首を傾げる。はて、変なことをしたつもりはないけども。そんな様子に苛立っているのはフェルトだ。だああ!と頭を乱暴に掻いて、僕に棍棒を見せ付けた。
「いいか!普通ヒヒイロカネはなあ、熱過ぎず低過ぎずの温度で加工するもんなんだよ!てめえみたいに、高温では加工しねえんだよ!更に言うなら、熱した後に水に浸けるなんざ、頭がおかしいとしか言えねえんだよ!」
「脆くなるから?」
「そうだっつの!」
「わかってるって、だから焼き戻ししたんだよ」
何がお気に召さないかと思えば、加工法のことだったらしい。確かに、正しくやろうとすればそうなるんだろうけど……それはヒヒイロカネの形を変えるまで。焼き戻しぐらいは普通の人だってやるはずである。これを使えば、硬く丈夫な金属になるのだし。
「焼き戻し?」
「そう。水で急速に冷やすと金属は硬くなっても、逆に脆くなる。でも、最初に熱した温度より少し低めの温度でもう一度熱すると、硬くて丈夫な金属になるんだよ?」
「………え、お前、それ、マジなのか?」
呆然とした様子で呟く彼女。あれ、こっちだとメジャーじゃないのかな?僕は教わったとき、ちゃんとこの作業までやれ!と殴り飛ばされたのだけど。ただ、これはあくまで鋼の場合だからねえ。どこまで効果があるかはわからない。……まあ、本人が大丈夫って言ってたし、大丈夫だとは思うけど。
「い、いや、そうだとしてもだ!始めから高い温度にしたのは間違いだろ!」
「えー、だってあれぐらいの温度がいいって言ってたし………」
「誰がだよ!?」
「その子」
指差したのはフェルトが手にする棍棒。それを馬鹿にされてると取ったのか、怒り始めてしまった。
「武器が話すわけねえだろが!」
「話すよ。そこにあるだけでかなりの情報を発してるのに」
手にしたときの重さ。打ち合ったときの音。触れた感触。声が聞こえなくとも、たくさんの情報を伝えてくる。それだけで十分過ぎるほどだ。
「それに、ユニークスキルもあるしさ」
「ユニークスキル!?」
声が裏返った。驚くようなことかな?誰にだって、1つや2つ持っていると思っていたけど。ヴォルフやモネなんか、7つ8つ持ってたはずだし。それを考えると、僕は少ないはずだ。
「どんなもん持ってんだ………?」
「《無機物たちの声》。無機物でできた、非生命体の記憶を辿れる能力だよ。その棍棒に使われてるヒヒイロカネは温度が高い場所で育ってきたから、高めの温度で扱った、ってわけ」
「そ、そうなのか………」
もう追及しよう、という意思は感じ取れない。ただ、手にした武器を眺めているだけ。納得はしてもらえた、ということでいいのかな?不満はないみたいだし。
「あ、そうだ」
「ああ?まだなんかあるのか?」
「うん、あるよ。それ、魔道具化しちゃったんだよね」
……静かになった。物凄く、静かだ。フェルトはまるで壊れたロボットのように、ゆっくりと首をこちらに向けた。
「魔道具………?」
「そう。壊れたら大変かな、と思って強度を上げる効果と、重過ぎたら困るから重力操作の効果。たぶん、前よりは使い勝手がよくなったんじゃないかな?」
魔力が流されるのを感じた。早速試すのであろう。そう思ったときには、クレーターができていた。
「いつ見ても凄まじいパワーだなー………」
「……もう、笑うしかねえわ………」
二人して苦笑いをするのであった。
※ ※ ※
返事に関しては待ってくれ、とのことで、1週間ほどが経った。畑の方は再び収穫する日になり、念願のお米も手に入れることができた。ぶっちゃけ、そこまで難しくなかったから拍子抜けだったよ。病気の対策はあってないようなものだったし。
そうそう、大豆も手に入れられた。これで海まで行けば、ようやくあれが作れるだろう。やっぱり、あるとないとじゃレパートリーが変わるしね。
「これで久々に作れるかな………」
今日作ろうとしている……というか、作っているのは嫌いな人はいないんじゃないか、と言われるほどに人気のあのメニューである。たくさん作れるので、楽でいいのだ。スパイス?あれは調味料だから、いくらでもありますよ。最近、魔道具に頼りまくっている感はあるけどさ。
「……そういえば、なんで僕はフェルトにここまで構ってるんだか………?」
殺されかけた。その後も突き放され続け、いざ仲良くなってもあまり話に乗ってくれない彼女。どうして僕は気に掛けているのか。普通なら、愛想を尽かせて関わり合いになることを拒むはずだ。いくら女の子に寛容とはいえ、許容ラインというものぐらい僕にだってあるし。……もしかして、ああいう子がタイプだったのかな?自分でもびっくりですよ。
「ま、いいか」
深く考えても仕方ない。そういうこともあるんだと受け入れた方が楽そうである。基本、僕は楽観的な人間なのである。
「うーい、帰って来たぞー……て、また飯作ってんのか。しかも、今日のは何つーか………」
目の色を変えたフェルトを見て、今日のご飯も気に入るかな?と思うのであった。
このとき作ったものがまさかこれからを変えるなど、このときの僕には知るよしもなかった。




