22話
すみません、用事で昨日は投稿ができませんでした。今日は2話投稿するので、許していただけると幸いです。
……いったい、なんだというのだろう。目の前で丹念に自分の棍棒を眺めている人族――――タクミとか言ったか?――――を監視している。変なことをされても困るからだ。
ここ最近はこの男にペースを狂わされ続けている。便利な魔道具で歓待され、美味い食事を出され、オレが必要などとほざくのだ。人族の割にはそこそこ骨のあるやつだし、それなりに強い。加えて、料理上手ということもあって、この島にいる間ぐらいは一緒にいてやってもいいか。そう思えるほどには心を許していた。オレにしては珍しいことなのだが。
「……やっぱり………でも、これ………」
さっきから棍棒に触れながら、ぶつぶつと呟いている。完全に頭のおかしいやつだ。こういうやつにはろくなやつがいない。……の、だが。不思議と目を離せずにいた。
そう、不思議なのだ。掴み所がない、とでもいうのだろうか。その笑顔も、その言動も、確かに本物に見える。本当に笑っているというときもあるし、オーバーなリアクションもそれを裏付けている。だから、浅い付き合いや機微に疎いやつなら見逃してしまうのだろう。
……どこか違和感があるのだ。どことは具体的に言えない。真実があれば、偽りもある。まるで、仮面をつけているかのよう。そんなはずはないのだが……変なやつ、というのが今のオレの偽らざる気持ちだろう。
「……わけわかんねえな………」
この人族は何のために生きているんだ?本気でわからない。こいつは謎過ぎるのだ。本当に人族であるのか。それすらも疑ってしまうほどに。
「よし、と」
「おい、結局何だったんだ?」
棍棒から目を離したそいつに問いかけた。そいつにしては珍しく、真面目な顔で。そして、本物の感情を出していた。
「これのことなんだけどさ。今、若干使いにくくない?」
ドキリ。心臓が跳ね上がった。その意見は的を得ているからだ。
やつに助けられた後、この棍棒は歪んでしまっていた。目に見える形ではほんの少し。だが、そのほんの少しがこれまで培ってきたものを崩してしまうのだ。現に、今は無理をして戦いをしていない。素手でも戦えるのだが、武器がないと困る場面もあるからだ。それを当てられた。
「直す予定とかある?ヒヒイロカネを使ってるんだ、それなりに腕のいい人が必要だと思うのだけど」
「そ、そんなこと関係ねえだろ」
……関係なくはあるが、正直困っているところだ。鍛冶師や加工職人のあてなどないし、今の世界の状況では直せるやつを探すのにも一苦労。しかも、ただの腕だと駄目にされる可能性だってある。下手に見せられないというのが現状だ。
「そこで、なのだけど」
「なんだよ?」
また突拍子のないことでも言い出すのだろうか?知り合いに腕のいい職人がいるとでも言って?こいつの性格は理解している。何が来ても平気なように、平常心でいようとした。
「僕と一緒に来てくれないかな?その代わり、これを直す……ううん、改良するからさ」
「へえ、腕のいい知り合いでもいるのか?」
予想はできていた。だが、それは甘い。こいつの知り合いというのであれば、人族であるのだろう。だとすれば、信用できない確率が高い。詳細を聞いて、とっとと断ろうと思っていた。
「いや、僕が直すんだよ?」
カサカサ。木の葉同士が当たる音だけが響く。静かだ。森の中らしく、とても。
「…………………は?」
たっぷり3分ほど掛けて絞り出せたのは、そんな言葉だけだった。
※ ※ ※
「要望はある?少し軽めにしてほしいとか、握るとこもうちょっと太くしてくれとか」
「……別に、特には。まあ、でも、やれるならもう少し重くしても構わねえがな」
できるわけがない。そんな考えが過りもしたのだが、どうしてか信じてみようかとも思ってしまった。それはこいつが不思議なやつだからなのだろうか?それとも、こいつにある何かを感じ取れたからなのか……わからない。
ただ、失敗したときは持っている武器をいくらか譲る、とのことだった。少し見てみたが、どれもこれも恐ろしい力を持っているようなものばかりだった。聞いてみると、すべてが神器だというのだから驚きだ。なんでこんなに持ってるんだか。
「わかった。作業中は危ないから、離れてて。たぶん数時間もあれば直せると思うから、その間他の武器使って慣らしててもいいよ」
「いや、いい。変なことしねえか見てるわ」
「信用ないなあ。ま、好きにしてくれてて構わないよ」
そいつはどこかから取り出した何かを弄くると、すぐに工房へと変化した。……これも神器か。いくつ持っていることやら。呆れてしまう。
すぐに火を点け、温度を上げていく。どこまで上げるつもりなのだか。普通に加工するときの温度は通り過ぎているのだが。
「……その温度で入れるのかよ………」
ヒヒイロカネは取り扱いが非常に難しいのだそうだ。そのため、ヒヒイロカネを扱えるだけの技量を持つ職人=凄腕の職人というわけなのだ。
そんな希少な存在がポンと現れるはずがないし、そんな都合がいいことがあるわけもない。やはり、こいつは見栄を張っただけなのだろう。どうしてもついて来てほしかったから。
「………まあ、悪い気分ではないがな…………」
オレの力が認められたようなもんだし。だからと言って、恋には結びつかないが。当たり前ではある。出会ってからそんなに時間が経っているわけでもなければ、強いわけでもないし。好みではない、というのがオレの本音である。
しばらくボケーッと見ていたのだが、目を疑うような光景に切り替わる。唐突に棍棒を火から取り出し、水に浸けやがったのだ。ジューッ!と大きな音が鳴り響く。
「お、おま、何やってんだ!?」
金属を急速に冷やすと、もろくなるということぐらいオレでも知っている。なのに、こいつはなんでこんなことを……とにかく、すぐに止めねえと!あれは借り物なのだから、ひどい状態で返せば後が怖い。
「静かにしてて。聞こえない」
「お前、無視する気か!?上等だ、ふざけてんならこの場で………」
「この子の声が聞こえなくなるから。今は静かにして」
有無を言わさない声。その様子に圧倒され、掴んだ手を放してしまった。……放してしまってから、オレは何をやっているんだと嫌になったが。
再び火の中に入れ、ゆっくりと熱を加える。先ほどよりは温度が低い。失敗したからやり直しでもしているのだろうか?だとすると、低すぎる気がしないでもないが。
「……こんなところか」
おもむろに火の中から引き抜き、常温の中に晒す。ようやく終わりか、と息を吐き出す。おかしなようであれば、締め上げて罰を与えるか。あと、また職人を探さなければ。
そんなことをしていただろうからだろうか。そいつの動きに気付くのが遅れた。
「おい、今度は何をしてんだ?」
「んー?ちょっと術式をね。さっきの段階でいくらか混ぜたし、いけると思うんだけど………」
「術式だあ?」
また面妖なものを。よくわからんものを仕掛けている、ということか?怪しさだらけなのだが。本当に大丈夫なのか?今から心配になるレベルだ。
……それが裏切られることになるのは、もうすぐの話だった。




