21話
フェルトの動きが止まる。なんというか、珍妙なものを見るような目だ。……そんなにおかしなこと言ったつもりはないのだけど。
「……ほんと、お前の頭の中はどーなってんだ?」
「色々混ざってカオスなのさ。返事はどうかな?」
「んなもん、却下に決まってんだろが。阿呆らしい」
「そう?少なくとも、毎日美味しくもない食事にならないから、一考の余地はあると思うけど?」
うっ、と苦い顔になる彼女。……やっぱり、ご飯が判断材料なんだね。
「な、無しだ無し!それでも、オレにはオレの目的があんだよ!」
「そうなの?それってどんな?」
「……婿探し」
今度は僕が固まる番だった。この子もう結婚のこと考えてるのか。驚きですよ。
とりあえず、入ってきたら?と促す。強がってはいても、やはり気持ち悪くはあったようで。促されるままに、脱衣所に向かった。
「婿探し……っていうけど、どういう人探してるの?」
「強い男。少なくとも、オレよりずっと」
即座に返ってくる辺り、それなりに考えてはいたらしい。
「そういえば、君って強いの?」
「ああ?強いさ。んでそんなこと聞くんだよ?」
「いや、それにしてはなんだか苦戦してるな、と」
僕と戦ったときも戦いにくいって感じだったし、クラゲモドキにはやられかけてたし。なんか、ほんとに強いのかな?って思っても仕方ないんじゃないだろうか。
途端に不機嫌になっちゃったけども。ムッとした様子なのが、外にいる僕のところまで届いてくるし。
「舐めんな、奥の手を使ってりゃ勝ってた。面倒なことになるから使わなかっただけだ」
「はいはい、そういうことにしておきます」
「おい、お前信用してねえだろ!?」
「ソンナコトハナイヨー?」
ま、本当に疑ってるわけじゃないけど。なんとなくだけど、底が知れない感じはするのだ。本気を出していない、というのは真実なのだろう。だからこうして頼んでるわけだし。
「それは置いとくとして」
「おい!」
「ここにいても、旦那さんは見つけられないんじゃない?人が少ないみたいだし………」
もし多いのなら、僕だって出会っていてもおかしくないはず。村があるなら、わざわざ野宿なんてしなくてもいいはずだし。つまりは人が少ないのだろう。人族にしても、他の種族にしても。
「別に、ここには婿探しに来たわけじゃねえよ。単に、武者修行さ」
「……?それなら別に一緒に行ってもいいんじゃない?」
強い人を探しているなら、むしろ旅をした方が見つかると思うのだけど。それとも、魔物に遭うことを考えてるのだろうか?それなら……そのときで対処するしかなさそうだねえ。
「ハッ、馬鹿言えよ。お前といても、足手まといが増えるだけだろ?飯は美味いが、それだけだ。たかだか食事のためだけに、そんなリスクは負えねえな」
お風呂場から出て来たフェルトは、髪が生乾きの状態だった。加えて、薄着でもある。……なんだか、エロいかもしれない。ここだけ切り取れば、アレをしようとする前にも見えるわけで。
「つまりは……足手まといじゃなければ、ついて行ってもいいってこと?」
「いや、そういうわけでもねえが………」
返事は歯切れが悪い。顔も少し赤いかもしれない。何だろう、と思っているが、ようやく思い至る。なるほど、確かに一緒に行くのには少しばかり問題があるか。
「男だから、か………」
「は?」
「いや、そうでしょ?今は一時的、ってことだから我慢できてるけど、早い話が1組の男女なわけだし。間違いが起こるか心配ってことなのかと?」
そりゃそうだ。いくら強いとは言っても、フェルトだって女の子。よく知ってる相手ならまだしも、知り合ってまだそんなに経っていない異性と過ごすなんて、なかなかにハードルが高いだろう。それに、一緒に活動するだけならまだしも、一つ屋根の下で暮らすわけなのだ。警戒しないはずもない。
「となると、セキュリティを強化する……?いや、それだけじゃありきたりか。それなら、いっそのことテントを二つ作って………」
「おーい?聞いてっかー?」
「移動用のときも個室作った方がいいのかな?となると、あれとあれは少なくとも作り直し……いや、でもどのみち完全分解するつもりだからいいか………あれに関してはちょっと改造するだけで大丈夫そうだし………あっちは元々あるし…………」
「いい加減に戻って来いやぁ!」
頭を叩かれて、ようやく現実に意識が戻って来た。目の前には怒った様子のフェルトが。放置されてたから寂しかったのだろうか。そう思うと、ちょっと可愛い。
「いいか!お前が男なのが問題でも、オレが女なのが問題でもねえ!お前が人族で、オレが鬼人族なのが問題なんだよ!」
「……言ってる意味がよくわからない?」
「なんでわからねえんだ、お前は!」
頭をシェイクされた。やめてやめて、脳細胞が破壊されちゃう。馬鹿になるのは構わないけど、洒落にならないことまで忘れたら困るから。
「……最初に向かうのは人族大陸だろ。お前人族なわけだしよ」
「うーん、まあそうだね」
「何を考えてるのかは知らねえが、わざわざあんな大陸に行く必要性が感じられねえんだよ。あんなとこ、弱いやつらが犇めいてるところなんか行けるかっての」
吐き捨てるように言い放った彼女は、何かを思い出すかのように感情を露わにしていた。ここまで激情しているのも珍しい。過去に何かがあったのかもしれない。それを無理に聞き出そうとはしないし、そんな気も起きない。フェルトと僕はまだそこまで親しいわけでもないのだから。
「それでも、君に頼みたいんだ。今頼れる人は君しかいないんだし」
「……断る。何のメリットがあるってんだよ?」
顔を背けられた。結構頑なだなあ。どうしたものかとため息をついてしまう。
ふと目を落とせば、彼女の持っている棍棒が目に入った。
「そうだ!」
「あん?」
「その武器、貸してくれないかな?」




