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20話

 「……これは予想外だったね」


 1時間ほど木の上を渡り続け、海へと出ることはできた。白い砂浜。青い空。光り輝く太陽。特に、誰もいない上にゴミすら打ち上げられていない、この砂浜ならば存分に海を楽しむことができるだろう。普通ならば。

 そんな冠をつけるのには理由がある。それは目の前にいるそいつのせいだった。海面から顔を覗かせたそいつは、こちらを威嚇するように睥睨している。大きさもあって、かなりのド迫力であった。


 「……竜っぽい何かだな。異世界行ったら会いたかったけど、こんな形で、敵意ガンガンの状態では会いたくなかった………」


 余裕っぽい感じではあるものの、実際は結構焦っていたりする。だって、目的のものが取れてないし。折角海まで来たのだから、入手したかったのだけど……この様子だと無理かなあ。今も水鉄砲(口から吐き出される水。適当に命名してみた)をバンバン撃ってくるし。地面が抉れているから、当たればどうなるかなんて当たらなくてもわかりますよ、ええ。

 ぶっちゃけ、『穢れを祓う聖盾よ(アイギス)』があるからこんな暢気でいるだけですよ。なかったら即座に回れ右して帰ってますよ。


 「にしても、威圧感が違うな……この島の海域の主なのかな?だとすれば、あの強さにも納得がいくけども」


 現在遭った魔物――――僕がモンスターと言っていたやつらもまた、魔物というらしい。フェルトに教えてもらった――――巨大なクマ、ムカデ、クラゲモドキといたのだが、そのどいつも目の前にいるやつよりも迫力がない。なんせ、こいつは僕を簡単に飲み込めそうなまでに大きな口を持っているのだ。『穢れを祓う聖盾よ』の強度の方が高いのが救いである。

 とはいえ、飲み込まれてしまえば大変だ。こいつの頑丈さはわからないし、腹の中は強度が下がるだろうとはいえ、どれだけの強度なのかもわからない。そもそも、今回取ろうとしていたものとて、あれば便利程度の認識でしかなかった。ここは無理をしないで、戦える存在であるフェルトに話を聞いた方がよさそうだ。


 「というわけで、撤退!」


 『アリアドネの糸』を海の近くにある木へと引っ掛け、拠点へと向かう。さてはて、あの竜はどうやって攻略したものかな?


※               ※               ※

 「あ?海岸にいる竜?」

 「そ。何か知らないかな?」


 拠点としている場所に戻れば、汗だくのフェルトを見つけた。結構疲れているようだけど、そんなに苦戦するような相手に遭ったのだろうか?強さがよくわからないから、正直わからないというのが僕の言い分である。


 「やめとけやめとけ、いくらお前がそれなりに強いとはいえ、あいつの相手は無理だろうさ。海竜ってやつはそんだけ厄介なもんだからな」

 「そんなに?」

 「ああ。取り立てて特別な能力はありやしねえが、とにかくタフだ。どれだけ傷をつけても、構わず動く。それどころか、生半可な攻撃はまず鱗に阻まれて通らねえ。巨体はそのまま脅威になるし、歩くだけでも十分攻撃にはなるだろうさ。それに、高出力の水ブレスだ。攻撃の方はお前の防壁でなんとかできても、倒すことはできねえだろうな」

 「そっか。わかった」


 なるほど、確かにそれだと勝てないかもしれない。僕の魔道具は大体対人用であって、威力の高いものは多くないのだ。その高いものにしたって、一癖も二癖もあるもので僕に使いこなせるかは怪しいし………

 というか、本当に戦える人が欲しい。フェルトの話を聞く限り、これから戦闘は避けられないはず。魔物たちを間引くとなれば、戦闘が起こらないということはまずない。それに、『魔神』のこともある。そいつをどうにかしようとすれば、その強力な魔物3体とは戦わざるを得ないのだ。だとすれば、それなりに強い仲間が必要なわけで………


 「……あ、そうだ」


 唐突に思いついた。上手くいけば、あの海竜に勝つことができる。それに、もしかすると橋渡しになってくれるかもしれない。


 「ねえ、フェルト」

 「なんだ?」

 「今日は何してたの?随分と汗掻いてるみたいだけど」

 「ん?ああ、昨日のとこに行ってな。あそこで訓練してた。その甲斐もあってか、多少体が軽いかもしれねえな」


 ふむ、苦戦していたわけではないのか。ヒヒイロカネの塊を軽々振り回せるのだから、弱いということはないのだろう。その怪力だけでも常人にとっては十分な脅威だろうから。

 アイテムボックスの中から、携帯型の浴場を取り出す。僕も少し汗を掻いたし、ちょうどよかった。


 「ん?これ………」

 「携帯型のお風呂場だよ。汗結構掻いてるみたいだし、入ってくれば?」


 きょとんとした目で僕を見つつ、首を傾げた。僕の行動が不思議に思えたらしい。覗きでも疑われているのかもしれない。


 「覗くつもりはないから安心しといてよ。そんなに命知らずでもないしね」

 「……それもそうだろうが。いまいちよくわからねえな。お前、なんでここまでよくするんだ?言っちゃあなんだが、始めは殺されかけただろ?」

 「……?ああ、そうだね。君に一目惚れをしちゃったからかな?」

 「……殺されてえのか?」


 無言で棍棒を構える彼女に、怖い怖いと肩を竦める。


 「冗談だよ、三分の一ぐらいは」

 「おい」

 「他の三分の一は個人的な主義と、協力を得たかったからだね。あのときは何が何でも情報が欲しかったわけだし。接触ができた君を逃すのは悪手だと思ったまでさ」


 つらつらと理由を述べると、ひとまずは納得したらしい。武器を下ろしてくれた。


 「そんじゃあ、今は?情報はもう貰っただろが」

 「そうだね、今回も打算は働かせてる。それは偽りのない事実だ」

 「それは?」


 フェルトは凄みのある目で僕を睨みつけた。別に変な依頼はしないつもりなんだけどな。

 姿勢を正し、頭を下げる。初めの一歩を踏み出すために。


 「僕の旅に同行してほしい」

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