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18話

 「魔物に……?でも、二つの国は疲弊してなかったはずだよね?互いに不干渉な多種族大陸の方はともかく、獣人大陸なら………?」

 「そうでもねえんだよ。多種族大陸の方はお前が言った通り、助け合わなかったせいで滅んだ。一応生き残りはぼちぼちいるが、何人生きられるか怪しいだろうな。が、それにも理由はある」


 一度言葉を切って、水を口にする。口の中がパサついてきたんだろう。食べ過ぎなんじゃないかな。


 「魔物は魔物同士で繁殖できる。だが、一方で人族や魔族、ドワーフ、エルフなんかも使うことはできるわけだ。ここまで言えばわかるな?」

 「……人族と魔族が繁殖用の道具として飼われている。そのせいで、魔物の数が爆発的に増えてしまった。そういうことかな?」

 「ああ。獣人たちも善戦はしたが、物量には勝てなかった。国家は滅び、今じゃ各地でゲリラ戦を行うのみ。表立って動くことはできねえだろうな」


 ……なるほど。大方の状況は理解できた。まとめてみると、こういうことだろう。

 この世界は種族が違うと、いがみ合うようなところだった。特に人族と魔族は仲が悪く、しょっちゅう小競り合いが起こる。そのため、一定間隔で国力が疲弊する。

 その間に、魔物たちが力をつけてしまった。魔物たちは瞬く間に二つの大陸を支配し、支配権をさらに広げるために、彼らを奴隷とした。結果、増え過ぎてしまった魔物は他の2つの大陸も支配し、この世界の王者として君臨している。


 「………頭が痛くなってきた」

 「そりゃそうだろうな。オレだって阿呆かと思ったぜ」


 フェルトは鼻を鳴らすけど、僕の頭を悩ませているのはそれだけじゃない。神様たちが頼んだことがようやく理解できたからである。

 この世界でやるべきこと。それは虐げられている人々を救い、再び生活ができるようになるまで魔物たちを間引くことだろう。言うのは簡単であるが、やるのは滅茶苦茶難しい。……というか、これ一人で大丈夫なの?レベルである。無茶ぶりにも程があるからね。


 「……どうしたもんか………」


 彼女には聞こえないように、小さく呟く。そう、本当にどうしたものか。先に向かった勇者たちのように、チート能力が備わっていればすぐに行動開始、でもよかったかもしれないのだけど。僕には特別な力はない。せいぜい、神器(アーティファクト)を作れるぐらいなのだ。

 その神器にしてみても、使い手が一人であれば真価を発揮できない。僕のような平凡な才能なら尚更だ。『使う』ことはできても、『使いこなす』ことはできない。あくまで僕は作り手であって、戦士ではないのだから。


 「……まだいくつか聞いていい?」

 「んー……?まだなんかあんのかよ?」


 フェルトはめんどくさそうな顔をしている。これ以上聞くと、不機嫌になりそうだなあ。話を聞いている限り、僕の外見は人族のものらしいし。もしかすると、話をするのは嫌なのかもしれない。


 「仕方ない、か………」


 僕は席を立つ。何をする気かって?それは見てからのお楽しみ、ってやつさ。


※               ※               ※

 「もうそろそろご飯にしようかと思ってるんだけど、食べられそう?」


 食堂に顔だけ覗かせると、フェルトは意外そうな顔で頷いた。どうかしたのかな?まあ、食べられそうならいいや。


 「それじゃ、今日はシチューということで。パンがあるから、こっちの方が合いそうだったんだよね」

 「……毎度思うけど、お前は料理人でもやってたのか………?」

 「いや?単に、家庭の事情でキッチンに立つことが多かっただけ」


 思えば、小学生の頃からなんだよねえ。うちは男所帯だったし、高校生から1人暮らしだったし。自炊できるようにならなければ、やってられなかったのだ。そのため、レシピさえあれば大抵の料理はお手の物なのである。

 ……ま、1人暮らしなのにも理由はあるけど、ここでは省略しておこう。


 「ふーん?まあ、美味いもん食えるのはラッキーだからいいんだが」

 「やっぱ、あのムカデ不味かったんだ………」

 「ん?そりゃ、好きであんなもん食うわけねえだろ?見た目からしてキモいし」

 「ですよね………」


 あはは、と苦笑いをしながら、二人分のパンとシチューを用意した。シチューの量はかなり多い。ここまでの経験で、かなり食べるってことは理解したつもりだし。


 「いただきます、と」

 「……?なんだそりゃ?」

 「僕のいたところで、食事の前にする挨拶……みたいなものかな?料理を作ってくれた人と、食材に感謝をするんだよ」


 フェルトは不思議そうな顔をしていたが、空腹が勝ったのか。それ以上聞いてくることはなかった。早速食事へと移っている。一心不乱に食べている辺り、気に入ってくれたのだろう。


 「この食事の礼に、でいいかな?」

 「……あぐ、何がだ?」

 「さっき聞こうとしてたこと。こっちばかり貰ってばかりじゃ悪いからね」


 彼女の動きが一瞬止まる。かと思ったら、唐突に笑い出した。僕は首を傾げるのみだった。


 「ほんっっっとお前、変なやつだな。いいぜ、人族にしちゃあまともなやつだからな。聞いてやるよ」

 「そう、ありがとう。じゃあ、遠慮なく」


 話を聞いていて、疑問に思ったことを口にする。フェルトを疑うわけではないのだが、不可思議に思っていたことがあるのだ。それは。


 「魔物たちを束ねるやつっているの?」


 食事をしていた手が止まる。


 「……まだ、話してねえよな?」

 「……?うん、そうだね?」

 「なんで気付いた?」


 フェルトの目は少し怖い。ただ、威圧ならもっと怖い人の威圧を知っている。これぐらいで怖がったり、怯えたりはしない。


 「ちょっとした違和感、って言うのかな?人間……いや、人族や魔族だって、大軍を動かすなら指揮を執る人がいると思うんだ。そうじゃないと個々が勝手に判断して、折角の集団が無意味になる。でも、話を聞く限りそんなことはなかったみたいだし………」

 「裏で手を引いたやつがいるんじゃないか、ってか?その予想は当たりだ。やたら鋭いな、お前」

 「まあ、それなりにはね。そいつは今どうしてるの?」


 再び手は動き始める。やっぱり食事の方が優先度は高いらしい。


 「……わからん。世界が支配されてからは、噂さえも聞けねえからな。もっとも、噂ができるようなやつがいないってのもあるんだろうが」

 「そっか………」

 「ただ、呼び名はある。魔物たちを操り、まるで神であるかのように振る舞った、っつー話だ。だから、そいつは『魔神』って言われてる」

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