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16話

 「で、落ち着いた?」

 「それはこっちの台詞だっての………」


 ぐったりとした様子で座り込んでいるのは、助け出した女の子。小1時間ほど説教をしたのだけど、精神的に来るものがあったらしい。どうも言い合いになると弱くなるらしいからね。

 勿論叱った内容はなんでこんな無謀なことをしたのか、ということ。時折言い返してもいたのだが、その全ては「だからと言って、無理する場面じゃなかったよね?」の一言で沈められるのだ。言いたいことを言いまくった結果がこれというわけである。


 「まあ、ここまでにしておくよ。反省はしたみたいだし」

 「ああ……そうしてくれ………」


 場所は変わって、テント内の食堂。軽めの食事をつまみながら、話をしているというわけだ。お腹は空いていたらしく、結構女の子は食べていたけども。


 「さて、話ができるようになったことだし。軽く自己紹介から入ろうか。僕は万巧。こっちで言うなら、タクミ・ヨロズかな?好きに呼んでくれて構わないよ」

 「そーかい。オレはフェルト。フェルト・リエンアイだ」

 「わかった、リエンアイさんだね?」


 彼女の顔が途端に苦いものとなった。どうかしたのか、と首を傾げる。


 「リエンアイさんはやめろ。気持ち悪い」

 「そう?じゃあ、フェルトさんで………」

 「さんは要らねえんだよ。フェルトでいい。オレもお前はタクミって呼ぶ」


 吐き捨てるように言った彼女は、本当に嫌そうな顔をしていた。さばさばしてる、っていうのかな?一人称もオレだし、姉御肌みたいなタイプなのかもしれない。わかったよ、と頷いた。


 「よろしく、フェルト」

 「……ほんと、調子狂うな………」


 差し出した手を軽く握った。それでも結構な力を感じるのだから、本気じゃなくても普通に握られただけで僕の手が潰されちゃうんじゃないだろうか?それはヒヒイロカネの塊をぶん回す姿を見たときに、わかっていたはずなのだけども。改めて感じたよね。


 「……つーかよー、んでお前はそうなんだ?」

 「………?ええと、いまいち意味がわからないんだけど………」


 言葉足らず過ぎて、何と答えればいいのかわからない。というか、何を聞きたいのかがわからない。僕の様子に気付いたのか、フェルトは頭をガシガシと掻いて言い直した。


 「人族らしくねえ、ってことだよ。鬼人族を前にしてるっつーのに、変な目で見ねえし、何かしてこようともしてねえだろ?それが異常なんだっつの」

 「………?」


 ますます疑問が強くなる。そもそも論なのだけど、人族?鬼人族?もしかして、種族が違うってこと?ああ、こんなことだったら異世界に来る前に、異世界の常識や知識を学んでおくべきだったかもしれない。……これも忘れてたとか、本当に救いようがないね、僕。


 「えっと……ごめんね?いまいち言ってることが理解できないっていうか………」

 「はあ!?嘘言うな、お前!生まれてこの方、異種族を見たことがないわけでもあるまいし………」

 「ないんだ」

 「そんなことはあり得ねえ……って、え?」


 捲くし立てるような声が止まる。フェルトの顔は信じられないようなものを見た顔だ。そんな顔をするほどにおかしなことだっただろうか?


 「え、お前、マジで見たことねえのか?」

 「うん」

 「鬼人族を?」

 「うん」

 「エルフもドワーフも?」

 「知識としては知ってるけど、実物は………」

 「獣人も?」

 「それもさっきと同じ」

 「アマゾネスや魔族は!?」

 「……それはわかんないや」


 目の前の女の子は頭を抱えた。時折ぶつぶつ言っているのが怖いなあ。変なこと言ったつもりはないのに。

 ようやく顔を上げた彼女は、どこか納得した様子だった。


 「そうだよな……よくよく考えりゃ、何も知らないなら利用もしねえはずだし、おかしなことも仕出かさねえよな………」

 「大丈夫?」

 「ああ……しかし、お前よっぽど閉鎖的なとこから来たんだな?」

 「あ、あはは………」


 そりゃ、世界の壁っていうものがありますから。知らなくて当然ですよ。予習してれば、また話は別だったのかもしれないけども。苦笑いをしながら、誤魔化しておいた。


 「んで?どうしてここにいるんだよ?」

 「……んー、気付いたらここに、って言うのが一番正しいと思う」


 神様たちが用意した道を通ってきたら、急にここにやって来た。そのため、この説明は間違っていないと思う。単に、すべてを話していないだけで。

 こんな面倒なことをするのには理由がある。それはこの世界に転移する前に、神様――――ヘイムダルさんとミーミルさんのこと――――に言い含められていたのだ。地球から来たことは言わない方がいい、と。ほぼ確実に面倒なことになってしまう。また、敵がどこに潜んでいるのかもわかってはいないからだと。もし話してしまえば、常に命を狙われることになってもおかしくない。だから、話すなと。そう言われたのだ。

 フェルトには悪いと思うけど、この子がどんな子であるのか。まだ測り兼ねている部分もある。すべてを話すことは躊躇っていた。


 「ふーん……?まあ、いいか。とりあえずオレと戦おうだの、変なことをしようだの考えちゃいないんだな?」

 「変なこと?」

 「奴隷にしたり、暗殺したりしようとしてねえか、って話だ」

 「あ、それはないから大丈夫」


 即答すると、やっぱり変な目で見られた。ひどいなあ。別におかしなこと言ったつもりはないんだけど。


 「それは置いといて。フェルトに聞きたいことがあるんだ」

 「オレにか?なんだよ?」


 一度、深呼吸をする。今まで先延ばしにしてきたこと。先延ばしにせざるを得なかったこと。それがやっと聞けるのだ。緊張もするというものである。


 「今、世界がどうなっているのか。それを教えて欲しいんだ」

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