15話
ようやくまともに主人公が活躍する……かな?
拠点としている場所に着く。即座に『穢れを祓う聖盾よ』を発動。拠点内への侵入を阻んだ。これで安全に関しては大丈夫だろう。
次は女の子のこと。痛いとは思うけど、少しだけ我慢してもらう。流れ落ちる血を小瓶にいくらか貰い、蓋をする。これで材料は貰うことができた。あとは治療だ。噴射式の回復薬を吹き付けて、傷を塞いだ。
「あとはこれを飲んどいてね?」
女の子に渡したのは回復薬の派生系、造血薬。血液を作るのに必要な材料と、血液造成を促進させる効果を持つ薬だ。これを飲めば、失った分の血は戻るだろう。むこうは戸惑っているようなので、すぐに飲んでくれることはなさそうだが。
まあ、でも大丈夫。どうにかできる目処が立ったのだ。伝えるのはそれが完成した後でもいいだろう。
「じゃ、一旦部屋に戻るから!ご飯の時間になったら呼んで!作るよ!あと、無理はしないようにね!」
それだけ言い残して、僕はテントの中へと走っていった。
※ ※ ※
「完成!……とは言ったものの、テストしてみないとわからないよねえ」
手にしたソレは思い描いた通りにできたモノだった。自分の思った通りに作れたし、問題もないように思える。が、使ってみないことにはわからないのだ。何しろ、言語系統の魔道具を作るのは初めて。今までやって来たことを総動員して作ったとはいえ、失敗したということも十分に考えられる。実証試験は必要だろう。
とはいえ、実証試験が本番のようなものなのだが。せめて、あの女の子がご飯の恩を忘れずにいてくれれば、ちょっと変な風に変換されてても大丈夫だとは思う……大丈夫だよね?出会ったときがときだっただけに、凄く不安があるのだけど。
「まあ、やらなきゃ何も変わらないし、やってみますかね………」
うーん、と大きく伸びをして、凝り固まった筋肉をほぐす。ずっと作業台に向き合っていたから、ポキポキという音が聞こえた。
「って、嘘!?こんな時間じゃん!」
何の気もなしに時計を見れば、作業を始めてから余裕で半日が経過していた。そういえば、やけにお腹が空いているなと思ったんだよ。喉もカラカラだ。これで気付いていない辺り、どうやらあの状態に入っていたらしい。なら、この魔道具も期待できるだろうか。
「と、そんなこと考えてる暇はなかった」
半日も経っていれば、あの子だってお腹を空かせているだろう。なんで気付いてあげられなかったのか。悪いことをしちゃったかな、と思いながら、部屋へと呼びに行った。
だが、既に部屋はもぬけの殻。あの女の子どころか、荷物の一つさえもない。まさか、と思いながら居場所を探せば、昨日のところに反応がある。また向かっていたのだろう。負けたくないと思って。
「あああ、もう!仕方ないなあ!」
こうなったらもう覚悟を決めるしかないと、アイテムボックスからあるものを取り出す。本来ならば、あまり使いたくなかったモノ。設計の段階で殺意や闘気を吹き込んでしまったモノ。それを使わなければいけないときが来たのだ。
※ ※ ※
「あーあーあー、あんなになっちゃって……なんで正面突破しようとしてるんだか………」
木の上を走って移動し、羅針盤の示す方へと向かう。そこにはあの鬼っぽい女の子が苦戦している姿がある。それもそのはず。あの空間では重力が3倍となっているらしく、まともな人間なら歩くどころか立つことすらできないだろう。
そんなところに、ヒヒイロカネの棍棒を持った子が行ったらどうなるか。答えが目の前の光景というわけだ。ヒヒイロカネが重くなり過ぎて、思うように振れていない。当然、素手で戦うしかできないのだ。
「それでも戦えてる辺り、末恐ろしいものがあるなあ………」
血を失っているはずなのに、まだ動けている。どころか、素手でモンスターを倒しているのだ。彼女に付着した血は彼女のものだけでなく、敵の返り血もあるのだろう。
が、やはり相手の方が有利だ。相手は原理まではわからないものの、空中に浮いたクラゲのようなモンスター。無数の触手を動かし、少しずつ。けれど、確実に体力を削っている。数も多い。力尽きるのはどちらが早いのかなんて、馬鹿でもわかるだろう。
「ま、見てる場合じゃないか」
彼女に向かって、護符を投擲。時間差で発動した護符の効果は防御の護符。1分間の間だけ、どんな攻撃からも身を守ってくれるというものだ。そして、1分あれば十分だった。
「回収、っと」
鞭の魔道具を使って、女の子を戦場から回収。あの重力下でも動けないことはないけど(師匠の無茶ぶりのせい……いや、おかげでと言っておこう)、無理に不利な条件下で戦う意味は見当たらない。大切なのはこの子を救うことだったんだから。
手元に引き寄せられた女の子はまた混乱している。どうやら、僕がここにいることに驚いているらしい。暴れてないなら楽でいいかな。
「……ごめんね。君たちに恨みはないのだけど」
一斉に僕の方を向くクラゲモドキに、僕は謝った。命を無闇に奪うのは嫌だ。それが例え、人ではなかったとしても。……それが例え、甘さと断じられようと。
「………さよなら」
腕時計をセット。盤面を軽く叩くと、目の前に巨大な魔法陣が現れた。クラゲモドキは天を見上げたが、もう遅い。魔法は発動した。
無数の光が魔法陣から落ちる。それは一つ一つが魔法であり、銃弾と同じ威力を持つ。それが1分の間撃たれ続けるのだ。その威力たるや、使うことを躊躇うほどである。だから、使いたくはなかったのだが………
「……終わった、か」
1分間、目を逸らすことはしなかった。これは僕が望んだこと。僕が起こした結果。あのモンスターたちの命を僕が奪い、僕が蹂躙したのだ。その事実をしっかりと受け止めるために。
「……せめて、これからの君たちの道が安らかであるように」
黙祷を捧げ、彼らへの弔いとする。決して忘れないように。
くるりと向き直り、驚きで固まっている女の子の耳に、作った魔道具を押し当てた。成功していれば、これでようやく………
「おい、てめえ何しやがった?いや、今はそれはいい。なんでオレと戦ったときに、その力を使わなかった!……つっても、答えられねえのか」
女の子にしては、やや低い声。アルトボイス、と言えばいいだろうか。とにかく、彼女の言葉がわかる。ということは………
「うん、成功だね」
「成功……?いや、ちょっと待て!?お前、なんで………!」
「それはそうと、君には一つ言いたいことが」
コホン、と咳ばらいを一つした。
「何を考えてやがりますかあああああああ!」
全力で怒鳴るのだった。




