12話
「ふう、こんなもんかな?」
作業が一通り終わったので、一息をつく。今日はよかった。モンスターではなく、普通の動物に遭遇できたし。調べたところ食べられるようだったので、こうして料理を作れているというわけだ。
「ま、男のやつだし、大雑把なんだけど………」
レストランや食堂で出せるような立派なものじゃないけど、料理ならある程度作れる。レシピがあるなら、それこそそれなりに。……ええ、地球での料理が忘れられず、レシピを書き写してましたよ。言語のことは忘れてね。もうほんと頭抱えたくなるよ………
それと、料理の中でもあるジャンルのみ、やたら上手くはできるのだけど……それはまたの話にするとしよう。あの子を起こしてこなくちゃいけないし。
「口に合えばいいんだけど、ね」
味見はしたけど、ちょっとしょっぱいし、辛い。いかにも大雑把、という言葉がよく合うのだ。塩と胡椒の分量を適当にし過ぎたかもしれない。僕はこれで十分だけど、他人の嗜好まではわからないからなあ。
考え事をしながら歩いていると、すぐに目的の部屋に辿り着いた。部屋は食堂に近いところに案内しておいたからね。距離はそんなにないんだ。
「……近付いたら嫌がるかな?」
昨日は寝ていたから運ぼうかと思ったのだけど、わけもわからぬまま取り押さえられていた。……うん、僕の不注意だったね。ここは異世界。地球と違って、危険な生物がうようよしているのだ。そんなところに突然近付く相手がいれば、取り押さえられてもおかしくない。
それに、日本でもない。無防備に寝ているなら、物を盗まれてもおかしくないわけで。物を落として返って来るなんてのは日本だけとも聞くし。それに……あんまり考えたくはないけど、女の子なんだし。貞操の危険だってあるのだろう。眠りは浅いものだったはずだ。
「うーむ、仕方ない。となると………」
近付くのはNG。かと言って、何もしないままだといつ起きるかわからない。まだまだ起きないかもしれないし、そうしている間に料理が冷めるかもしれないし。冷めた肉は硬くなるから、あんまり美味しいとは言えないのだ。だから、起こしたい。
こういうときは、とばかりに腕時計を出した。これもまた当然の如く神器である。少し設定を弄って、機能を使うことにした。
「――――――――!?」
ジリリリリリリリ!とうるさいぐらいの音が鳴る。アラーム機能を使って、起こしてみようかと思ったんだ。効果は目の前の光景を見ればわかる。
ベッドから跳ね起きた女の子は、すぐさま傍らにあった棍棒を手に取る。ちょっと驚かせ過ぎたかな?あとでボリューム下げとこ。
「や、おはよ。ご飯あるけど食べる?」
手を挙げて挨拶したものの、通じないのはわかってる。それでもしないよりはした方がいいと思うから、挨拶だけはしておこうと思うのだ。
むこうはまだ眠いのか、目が半開きだ。危険がないことはわかったのか、改めてベッドに潜ろうとした。ちょっと、それじゃ起こした意味がないじゃんか。
「とりあえず、食堂に、行きますよー」
彼女の手を引いて、食堂に連れて行く。何をするにしても、まずは食事を終えてから。お腹空いてたら何もできないと思うし。抵抗されたらどうしようもなかったけど、どうやら寝起きで頭がぼんやりしているらしく。おとなしくついて来てくれた。
椅子に座ってもらって、朝ご飯を用意する。……と言っても、簡易的なものだ。主食となるパンに、先ほど取ることができたウサギの肉を焼いたもの。あとはスープだ。
パンは魔道具を使った。最初からそれ使えよ、と言われるかもしれないが、昨日はパンしかないんじゃ栄養が取れないと思ったから。今日は肉が取れたからこうしただけの話。今後も食料が手に入らなかった場合は栄養剤を飲む羽目になりそう。
あ、スープは粉末のものです。こっちは数に限りがあるから乗り気はしなかったんだけど、パンとお肉だけじゃ殺風景過ぎるからね。今日は使おうかと思った次第だ。ちなみに、これだけ普通のものである。
「いただきます、と」
手を合わせて、食事に移る。女の子は躊躇した様子ではあったものの、お腹は空いていたのだろうか。口にした後はなくなるのが早い早い。あっという間に完食し、お皿を差し出して来た。これはおかわり、ってことなのかな。昨日あれだけ食べたのに?
「ごめんね、材料がなくてこれだけなんだ。あー、えーっと………」
ジェスチャーで伝えようとしたけど、なかなか伝わらない。何度も首を傾げている。むう、どうしたものか。
今度はこちらが頭を悩ませると、ポンと手を打つ。何事かと考えている間に、さっさと部屋から出ていってしまった。
「んー、足りなかったかあ……次からはもうちょっと量を増やそう………」
少なくとも、あの様子だと嫌われたという感じではない。……と、思う。だから、食事である程度コミュニケーションを取ろうという気にさせられればいいのだけど。こればっかりは時間を掛けていくしかないかなあ。
あの子が食べ切った後に残されたお皿を持って、シンクで洗っていく。洗い物はしてくれないだろうし、そもそも僕が勝手にしたことだし。そんなに気にするものでもない。
「……?なんだろ?」
お皿を片付け終えて、今日は何をしようと考えていたときだった。ドタドタと走って来る音が聞こえ、食堂に誰かが入った。その誰かとは勿論女の子なのだが、その子が抱えているものが問題だ。
大量の肉、肉、肉。それを僕に渡してきたのだ。
「……もしかして、これで料理してってこと?」
ジェスチャーを交えながら聞くと、大きく頷いた。そっか。まだ食べる気なのか………
「……まあ、材料があるならいいか」
初めて意思表示をしてくれたことだし。少しだけ関係が前に進めたのだろう、と思いながらキッチンに運び込む。
………そこ、考えることを放棄したとか言わないの。




