11話
最悪だ。最低だ。騙されていた。そんな言葉が頭を駆け巡る。
事のきっかけは、オレが不用意に扉を開いてしまったことにある。……まあ、オレが悪くないとまでは言わない。いきなり扉を開けられた方は混乱するだろうし、鍵のようなものは付いちゃいなかった。確認しなかったオレのミスで間違えようがない。
だが。だが、だ。あの見た目と小ささで男というのは詐欺だろう。声も高い、気付けという方が無茶である。なのに、しっかりとつくべきものは立派なのだから腹が立つ。
「……ほんとにムカつくぜ………」
ただ、それだけならキレたりはしない。いくらなんでもあれは事故だ。事の発端はオレにある。見抜けなかったオレが間抜けだっただけのこと。だから、気にしてはいない。
気に食わないのは、戦っていたときのことを思い出してだ。あんなに無様に逃げ回っていて、背中を見せることを恥だとも思っていないようだった。あんな弱さがたまらなくイラつかせた。
「それでも人族の男かってんだよ」
まったく。どいつもこいつも弱過ぎて話にならない。自分が強くなれている気がしないのだ。こんなことでは、あの人にいつまで経っても追いつくことができない。これでは駄目なのだ。けれど……だけれども、探し回れど強いやつを見つけることはできなかった。
その上こんな状況にまでなってしまった。オレの目的はもはや達成することができないかもしれない。それがより一層腹立たせたのだ。
「……寝るか」
飯も食い終わった。これ以上起きている理由はない。危険が迫れば気付く。武器だけ手元に置いておけば、なんとかなるだろう。そう思って横になった。
チラリ、と少しだけ目を向ける。あいつはまた鞄をゴソゴソと弄っている。食べ物でもあるのか?そりゃこんな森の中だ。食料の一つや二つを用意していても不思議ではないが。
「………阿呆らし」
もう無関係であると決めたのだ。あいつを気に掛ける必要もない。そもそも、気にする必要もない。あいつは人族だ。見捨てる理由はあれど、助ける理由はない。野垂れ死ぬなら野垂れ死ぬで全然かまわないのだ。
とっとと目を閉じて、眠りにつくとしよう。明日もまたこの森の中を散策しなければならない。体力を回復させなければ。明日こそ強い相手が見つかればいいのだが。
どれぐらい、横になっていただろうか。何かの近付く気配に、意識が覚醒した。目は開けず、耳を澄ませて正体を探る。大きさ的にはさほど大きくない。人の、それもガキぐらいのサイズだろう。と、なるとだ。
素早く起き上がり、そいつを取り押さえた。下になっているのは予想通りの人物。なるほど、なかなかの策士だったわけだ。鼻で笑った。
「あんまりオレを舐めんじゃねえぞ。寝ているところを攻撃するか、奴隷にするかしようって腹積もりだったんだろうが、オレにそんな手は通用しな……って、ああ?」
取り押さえられた人族のガキは、何も手に持っちゃいなかった。丸腰だったのだ。それどころか、今の状況に混乱しているらしい。驚いた様子でオレを見ている。
何かスキルでも持っているのか、とも考えたが、それにしては本能が警報を示さない。危険が迫ったときはなんとなくわかるのだ。死にそうな目に何度も遭ったからだろうか?あの人は加減を知らないからな。
「………何がしてえんだ、お前?」
仕方なく解放してやった。妙な動きをしてもわかるから、別にいい。どうせオレの方が強いのだし。取り押さえることぐらい、いつだってできる。
立ち上がったガキは服に付いた草を払い落としながら、手招きをした。ついてこいということだろうか?なんでそんなことに付き合わなければ……とも思いかけたが、悪いことをしたということもある。付き合ってやるぐらいなら構わんか、と思い直した。
「………………………は?」
ガキが連れてきたのは、小さめのテントだった。入れということだろうか?この小さなテントに?何のために?オレは混乱するばかりだ。
「……!そうか、そういうことか」
感じ取ろうとすれば、微弱ではあるものの魔力を感じられる。これは魔道具なのだろう。恐らく、中に入ることで罠だか魔法だかが発動するに違いない。それならば納得はいく。
いく、のだが………
「……んでここにも発動しねえんだよ………?」
ここでもオレの第六感は働かず。鈍ったのかと疑ってしまうほどだ。だが、あのムカデと戦ったときには変わらず発動していた。鈍ったとは考えにくい。
そうすると、かなり高性能な魔道具……魔法具かもしれないという懸念がある。けれど、人族がそんなものを持っていたりするだろうか?ただでさえ、今は余裕がないというのに………
「チッ、仕方ねえ。こうなりゃ腹をくくるしかねえな」
挑まれた以上、背を向けて逃げ出すのはオレの主義に反する。意を決して、中に入ることに決めた。中に入って行ったガキを追いかけ、テントの中へと踏み入る。
「………………………は?」
またもや思考が停止した。いや、先ほどよりもずっと衝撃を受けていた。だって、こんなことがあり得るのか?こんな、こんなことが………
「こんなの、それこそ神器でもねえ限り無理だろ………」
テントの中はまるで家のような造りとなっていたのだ。否、それは正しくない。豪邸の類いと言われても信じてしまいそうな中身。外と中とで容量がまったく違う。それほどに中は広かった。
ガキはオレをまた手招きし、奥へと案内していく。思考がほぼ停止しているオレにはついて行くことしかできない。
「なんでこんなもん持ってんだ、こいつ………?」
そういや、ジャイアントセンチピードと戦ったときも不思議な首飾りを使っていた。普通あの巨体を押し留め、あまつさえ押し返すような出力の障壁など張れない。少なくとも、市販のものはそうだという常識がある。
よくよく思い出してみれば、おかしな点はまだまだある。人族特有の差別するような雰囲気がない。目を覗いても、純粋な目で見ているのだ。これがおかしい。あいつぐらいのガキでさえ、他種族だとわかれば下に見るような目を向ける。それがないのだ。これっぽっちも。
「……ほんとに、何なんだよこいつぁ………」
部屋の一室はベッドや机など、生活するのには十分な調度品が揃っている。ここを使えということなのだろう。外にあったオレの荷物を(いつの間にか)運び込み、手を振って廊下へ出ていった。……やはり警鐘は鳴らない。危険はないとみてもいいのだろう。
「わけわかんねえ………」
備え付けのベッドに倒れ込み、ぽつりと呟くのだった。




