3話
「ふむ、今日はここまででいいでしょう。だいぶ型について来ましたね」
「そ、そう……言われると、嬉しい………です」
ぜえぜえと地面に倒れ込みながら、なんとか返事だけは返す。護身術を学んでから、どれぐらい経っただろう。わかったのはやっぱりゲイロムルさんは教え方が下手、っていうこと。あと、無駄に強いってことだった。
水を飲んだり、着替えたりして、次の場所へと移動する。次の場所へと移動する足取りは軽い。先生なのは相も変わらずあの人だけど、次にやることは楽しいことだからだ。
「時間よりも早く来るとは……感心ですね。さて、それなら早めに始めましょうか」
「そうですね」
目の前に置かれた教科書代わりの本を手に取る。今取り組んでいるのは勉強だった。それも特殊なものの。
※ ※ ※
「いやー、充実してるなあ。こういうことなら、いくらでもできるんだけど」
筆箱からシャーペンと消しゴムを取り出して、ノートを開く。その後、図書館で借りてきた本も開く。タイトル名は「鉱石の特徴と主な加工法について」。明日の範囲には関係のないことだけど、気になったから読んでみたかったんだよね。ゲイロムルさんも自主学習することは推奨してたしね。
そうは言いつつも、机に広げられた本の数は1冊だけじゃない。それこそ何冊も並べられ、そのどれもが開かれている状態だった。
「おや、また勉強ですか。感心ですね」
「あ、どうも。まあ、これぐらいしかやることがないので」
たはは、と笑いながら、新しくわかったものをノートに書いていく。見ただけで覚えられるほど器用じゃないし、長く覚えられていることだとも思えない。そうしたときにこれさえ持っていれば、見て思い出せるからね。必要なことだと思うんだ。
「……話は聞いています。あなたには強くなる才能がなく、どうしようもないのだ、と。なればこそ、知識はしっかりと蓄えておくべきです。加えて、これからは別のものも必要でしょう」
「と、いうと?」
「簡単な話です。魔道具を作るのですよ。護身用のものを作り、それを持っていくのです。また、現地で調達できるよう、自身で作れるようにならなくてはなりません。まあ、それはおいおい………」
「今からやりましょう!」
僕はテーブルに手をついて、身を乗り出していた。だって、そうだよね。そんな心が揺れ動きそうなこと、我慢できるはずもないんだ。ゲイロムルさんは目を白黒させていたけれど。
「今から、ですか?」
「ええ!上達するには、一夕一朝なんかじゃ足りません!ひたすらに作るしかないんです!失敗して、どこが悪かったのかを考えて、それを元にまた新しいものを作る!その繰り返しです!そのためにも、早くから始めるべきですよ!」
「ど、どうしてそこまでやる気なのかはわかりませんが……しかし、ええ。努力したいという心意気は高く評価できます。いいでしょう、今からスタートです!工房に連れて行くので、しっかりと道を覚えるように!」
「はい!」
やる気に満ち溢れたゲイロムルさんの後について行きながら、小躍りしたい気分で一杯だった。だって、僕は……万巧は、モノを作ることが大好きなんだから。
道順をしっかりと覚え、大きな扉の前に着いた。ゲイロムルさんがすたすたと中に入っていったので、僕もそれに続く。
「うわあ………」
中に入った感想はただただ圧巻、という言葉が合いそうだった。所狭しとばかりに道具が置かれ、素材もたくさんある。素材の中には、まだ知らないような素材もある。僕にとってここはお宝が眠っている部屋のように見えた。
「いいですか?私は専門外なので、何が何であるか教えることしかできません。あなたが手探りでやっていくしかないのです。ですが……いえ、言う必要はなさそうですね。存分に作るといいでしょう」
「はい!まずは何から作ろうかなあ………」
ウキウキしながら、素材や道具を手に取っていく。道具は自身の手に馴染むものを。高いものや性能がすごくいいものを使っても、自分がしっくりくるものを使わなかったら、それでちょっとした誤差ができちゃう。たったミリ単位の誤差だったとしても、僕は妥協したくはなかったから。しっかりと見極めることから始めることにする。
道具と素材が決まったら、今度は何を作るのか。それも決まっていないのに、何かを作ることなんてできない。あるものを組み合わせて、何が作れるのか、何が思い浮かぶのか、そのためには足りないものはないのか、なんてことを考えていく。
「最初は……そうだ、こんなにいっぱいあるんだったら、あれでも作ってみようかな?」
ふと脳裏によぎったのは、先ほどまで読んでいた本の1ページにあったもの。興味があったから、材料とか作り方とか覚えちゃったんだよね。難しくはあったけど。
アイデアは浮かんできた。次にやるべきなのは、設計図を書くこと。
「さあて、忙しくなるぞ!」
忙しくはあったけど、憂鬱にはならなかった。上手くできるといいなあ。
※ ※ ※
「どうじゃ、むこうの様子は」
「そうだな。概ね上手くいっている、と言っていいだろう。戦いが続いていることには感心できないがな」
「そうか……なんとかなればええんじゃが………」
「そちらこそ、どうなんだ?あの子供の様子は」
二人の老人が何かを見ながら、話し合っている。鏡のようなそれの中には、老人たちの顔ではなく、別のどこかの風景が映されていた。
巧に最初に会った神はうむ、と頷いて、表情を緩めていた。どうやら満足がいっているらしい。
「順調じゃよ。護身術の方は厳しいから大変とは言っていたが、物を作ることと勉強をすることに関してはむしろ嬉々としてやっておる。ゲイムロルも一目置いてるほどじゃしのう」
「そうか。それはなかなかだな。これからが楽しみだ」
老人たちは笑っていた。その意味を知るのはまだまだ先となりそうだ。




