2話
さて、異世界転移に巻き込まれてしまった巧の今後はいかに?
「すっごい納得いかない………」
なんで僕はこんなことをしているんだろう。割と真面目にそう思う。立ち上がることも辛いし、もう何回もこんなことを繰り返している。正直、立ちたくないっていうのが本音です。
そんな考えを読まれたのか、バシャッ!と水を掛けられた。ひどいよね。仕方なく立ち上がると、再び衝撃がやって来た。受け身も取れず、再び地面に転がることになった。痛いなあ………
「早く立ち上がりなさい!魔物や魔族は待ってくれないのですよ!?わかったらすぐに剣を持ち、構えを取る!」
「無理だって……いくらなんでも、これは無理だって」
「無理ではありません!否定的なことを言うから、できることもできないのです!」
目の前で槍を構えているのは、綺麗なお姉さんだった。それだけならまだいい。長めの金色の髪はしっかりと手入れをされてるのか、揺れる度に光を反射して、まるで宝石みたいだし。顔立ちもすっきりとしてるし、澄んだ青い瞳も星みたいだし。それに、スタイルもよくって、何も言うことはないと思うよ?でもね?
「戦ったことも、武術の心得もない完全素人相手に、見えない攻撃されたってどうしようもないと思うんだよね………」
「そんなことはありません!さあ、早く構えるのです!」
何度も吹っ飛ばされながら、理不尽だなあ、としみじみ思うのだった。あと、このお姉さん、教えるの下手だなあ、とも。
「ほんと……何やってんだろ、僕………」
※ ※ ※
あの神様(らしい。後で確認したんだけど、やっぱり合ってた)が示した方法。それは特訓して実力を付けろ、ということだったみたい。加えて、かなりの実力者を用意してくれたようだし、別に僕のことをまったく考えてくれてないわけでもないのかな。
「いや、でもさぁ………」
体力をつけるべく、走り込みやら筋トレやらをするのは別によかった。そんなすぐに強くなれるわけもないのだし、付け焼刃の技術が通用しないのは痛いほどにわかってる。だから、それはいいんだけど……その後の実戦形式訓練が洒落にならない。
まず、攻撃が見えない。他の器官で感じようにも、気付いたときには攻撃を食らってる。これをどうしろと言うんだい、と叫びたくもなる。さらには、身体が動かない。人間の身体にはどう足掻いても越えられない壁というものがある。それを平気で無視して攻撃してくるのだから、どうしようもなかった。
「はあ……この後もまた模擬戦かあ………」
ここに放り込まれてから、何日が経っただろう。いまだに上がる様子のない自分の戦闘力に、凹みそうにもなってしまう。いっそのこと逃げてしまおうか、と思ったことだってあった。逃げないけど。逃げても死にそうだし。それに、わざわざ稽古をつけてもらってるんだから、頑張らないとね。
「どうじゃ、様子は?」
急に声を掛けられたので、振り返ってみればあの神様がいた。隣には眼鏡を掛けたおじいさんまでいる。こっちは誰だろう、と思いつつ、一応頭は下げておいた。
「どう、って……見ての通りだよ。ボコボコにされる毎日さ」
「ふむ、そうなのか?ゲイロムルに任せたのは間違いだったかのう………?」
「いや、明らかに間違いだ。というよりも、そもそも大前提が間違っている」
しきりに髭をさすりながら、遠い目をしている神様。だけど、それに物申したのは眼鏡を掛けているおじいさんだ。僕も神様も不思議に思って、どういう意味かと無言で先を促した。おじいさんも教えない気はないらしく、素直に教えてくれた。
「まず。ゲイロムルは教えるのが下手だ。スパルタ訓練に加え、努力をすれば不可能なことも可能と言い張る」
「……そこまでかの?」
「ああ。人間に魔法を使わないで空を飛べ、と普通に言うぞ」
……僕がおかしいんじゃなかったのか。ちょっとだけホッとした。胸を撫で下ろしたのも束の間、すぐに爆弾を投下された。それもとんでもないものを。
「次にだが。その子供には戦闘の才能が皆無だ。やったところでむこうでは強者と相対して、すぐに死ぬのがオチだろうな」
「……………え?」
「こんなことは言いたくはないのだが……今までやってきたことは無駄なものだったな」
心底痛ましいものを見る目で、僕を見てくるおじいさん。僕は大きく息を吸い込んで………
「なんだよ、それ!?」
叫ばないととてもじゃないけど、やってられなかった。
※ ※ ※
才能がない、と言われてから、早1週間。筋トレは続けているけど、実戦形式の訓練はなくなった。意味はなくなってしまったからだ。はあ、とため息をつく。あんまりだ。あんまり過ぎる。
「しかも、帰ることもできないって………」
強くなれないのなら、と僕は地球に戻してもらうことを頼んだのだ。それはもう切実に。けれど、一度発動した魔法は取り消せないらしく、むこうに戻ることはできない、とのことだった。ひど過ぎる。少しは考えたり、調査してから召喚しろよ、神様たち。
で、どうしようもなくなったので、僕は部屋でボーっとしてるというわけなんだ。無闇に筋トレ続けても意味はないし。ああ、どうすればいいんだろうなあ。これから。
そう考えていたときのこと。急に後ろから衝撃がやって来た。受け身も取れず、ゴロゴロと転がってしまう。
「何をボーっとしているのですか!」
「ああ、あなたですか……どうしようもないんで、これぐらいしかやることがないんですよ」
一応、目上の人には当たるんだし、敬語を使っておく。短期間とはいえ、教えてはくれた人だしね。……まあ、綺麗な人だったから耐えられていた感はあるけど。
そんな僕の様子を見て、もう一度殴られた。理不尽過ぎないかな、と思いつつ、仕方なしに立ち上がる。そうした方がよさそうっぽいし。
「武術の才能はないかもしれませんが、最低限の護身術ぐらいは身につけるべきなのです!それに、他にもやるべきことはあるでしょう!」
「やるべきこと?」
そんなものがあるんだろうか。首を傾げる僕に、ゲイロムルさん、という女の人は胸を張って答えてくれた。
「決まっています!勉強ですよ!」




