9話
……空気が凄く悪い。勿論、本当に空気が悪いとかそういうことじゃなく。ギクシャクしてるというか、気まずいというか。
いや、結構それでも控えめだけどね。ムカデを倒したときはまだ無関心程度だったのだけど(それもそれでどうかとは思うけども)、今はもはや敵意しか感じられない。また最初に逆戻り、ってやつだ。攻撃されてないだけ、まだマシとは言えるけど。
とはいったものの、どうするべきか。言語のことといい、この女の子との距離のことといい、やるべきことは山積みだ。なのに、解決する目途はないのだから困ったものである。
せめてもの救いは完全に見捨てられてはいないこと、今のところは異世界生活がなんとかなっていること、神器がきちんと機能していること、ぐらいだろうか。まあ、生きてられるだけ感謝しといた方がいいのかもしれない。
さて、そんな頭を悩ませている一因である女の子は、現在火を起こしているらしい。あ、すぐに点いた。魔法か何かだろうか?突然火が薪に現れて、煌々と辺りを照らす。これはあれかな?僕の力なんて必要ないってことかな?ちょっと傷つくね。
あっさり火が点けた女の子はいくつかのお肉を焼き始める。……何の肉かはわからない。でもなあ……後ろのムカデの外骨格内の肉がごっそりなくなってるんだよなあ………そのことから、薄々あれの正体察せちゃうんだよなあ………
「……そっか………あれ、食べられるのか………」
地球でも食べられないことはないし(勿論、頭は取らなきゃいけないらしいけど)、理には適ってる……のかな?ただ、あんまり美味しくはないって話なんだよね。食べたことないし、実際のとこはわからないけど。
焼いている数はかなり多い。分けてくれはするのだろうか?それならありがたい。食事をしなくても数日は生きられるとはいえ、食べられるなら食べるに越したことはないし。そもそも、こんな森の中じゃいつ食料が得られるともわからないのだから。
「………あれ?」
しばらくが経過。肉も焼けてきた。自分から手を伸ばすのは気が引けるし、相手の様子を窺っていた。いた、のだが……渡す気配は全くない。どころか、一人ですべて食べてしまいそうな勢い。だって、お肉追加しているし。その間にも食べる手は止めないし。
あっという間に用意したお肉を食べ終えた彼女は、話なんてないとばかりに立ち上がる。何をするのかと思えば、夜闇に消えていく。また出掛けるらしい。
「ただ、あの様子だと僕のために食事を用意してくれる、ってわけじゃなさそうだな………」
むしろ、僕に見せつけるために食べてたんじゃなかろうか。そんな邪推をしてしまうほどには、むこうは僕のことを嫌っているっぽい。理不尽にも程がある。他にも理由はあるかもしれないけど。
「仕方ない、これはあんまり使いたくなかったんだけど………」
取り出したのは一つの瓶。中にはオレンジ色の液体が詰まっている。パッと見では野菜ジュースかオレンジジュースにでも見えるだろう。
蓋を開けて、中身を口に含む。……相変わらず、不味い。というか、ひどい。最初は甘ったるさから始まり、急激にしょっぱく、終いには苦味が口だけでなく鼻にまで伝播する。鼻ではっきりと苦い息を感じるのだから、相当なものだろう。師匠に飲まされてた回復薬よりはマシでも、味のひどさではそう後れを取るものじゃないと思う。それが自慢になるかどうかは置いておくとしても。
「………栄養補給剤は味がいいようにしとこ。こんなもの他人様には飲ませられないし」
今僕が飲んだのは特製栄養剤。1日に必要な栄養の3分の1を補給できる上に、カロリー自体もかなりのものがある。これを飲めば、食事は要らなくなるほどだ。回復薬を作る最中に、気まぐれで作れてしまった偶然の産物である。
が、問題がないわけではなく。先ほども言った通り、栄養とカロリー補給に全振りしてしまったので、味がすこぶる悪い。ヴォルフに飲ませたところ、二度と飲みたくないと言わせた代物である。
加えて、栄養剤には交感神経を刺激する作用がある。簡単に言ってしまえば、カフェインのようなもの。飲めばしばらくは眠くならなくなる、というあれである。しかし、これはカフェインなどよりよっぽど強力で、飲んでしまえば約6時間ほどは眠気が吹っ飛ぶ。そのくせ疲労を軽減するわけでもないので、性質が悪い。
一方、栄養補給剤は足りない栄養を補給するだけのもの。いわば、サプリメントと同じである。勿論、栄養剤よりも効果は落ちるし、それだけ飲んでいれば大丈夫!というわけでもない。
その代わり、これといった副作用の類いはない。ガバガバ飲まない限りは、身体に異変が現れることもないだろう。味も栄養剤よりはマシである。甘ったるいだけだし。
「ふー……食事はこれでいいから、後は寝床だよね………」
テント、もしくはウッドハウスのようなものはない。山小屋なんて贅沢なものもないし、文字通り外で寝なくてはいけないようだ。季節がどうなのかはわからないが、朝になれば寒いぐらいに気温が落ちていることがないとは言えない。野宿に慣れていない僕としては、外で寝るのは避けたいところだった。
「……よし、あれ使うか」
瓶は回収して、アイテムボックスに手を突っ込む。こういうときに役立つ魔道具は………




