表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/261

8話

 「結局、何も思い浮かばなかった………」


 日が沈み、辺りが暗くなっていく。こんな鬱蒼とした森の中なのだから、暗くなるのは早い。それに、ここは日本とは違う。街灯がなければ、明かりもない。完全な暗闇の中で過ごさなければいけなくなる。それは辛いものがあった。

 暗闇というものは何が出て来るかわからない。そんな恐怖を運んでくる。特に、あの巨大ムカデや巨大なクマを見た後だと、本当に何が出て来るかわかったものではないのだ。目覚めれば死んでいた、ということも十分にあり得る。


 「……一応、対策ぐらいはしておくかな」


 普通なら火を起こせばいい。獣は火を恐れるのだから。火で明かりを取れるのと同時に、安全もある程度は保証できる。

 だが、ここは異世界。火なんてものを恐れない獣もいるだろうし、そもそもあれだけ大きなモンスターに効く炎を出そうとすれば、それこそ山火事になりそうだ。……いや、山ではないけど。


 「まさか、これをいきなり使うことになるとはねえ」


 アイテムボックスから取り出したのはランタン。地球上にあるランタンと同じように見えるが、一点だけ違うとすればそれは中身。電球がセットしてあるだろう部分には、光源となるようなものがどこにもない。ただ石のようなものが置いてあるだけ。キラキラと光る不思議な石が、一つ置いてあるだけなのだ。

 だが、ただのランタンと侮るなかれ。これもまた神器(アーティファクト)なのだから。


 「よいしょ、と。これで明かりは大丈夫かな」


 石に向かって手を(かざ)すと、柔らかなオレンジ色の光が灯った。明るさはそれほど明るいわけではないものの、周囲を照らせないほどに暗いわけでもない。眺めてて癒されるな、というぐらいの光量だった。

 神器『聖光よ、ここにあれ(セイント・レイ)』。明かりとして使える魔道具だが、この光が灯るうちは邪悪を阻む。いや、そんな表現は生ぬるいか。邪悪なるものが近付いたとき、それを浄化する。こういった野営の際には便利な魔道具なのだ。


 「ま、邪悪なものだけなんだけどねえ」


 そう、あくまで邪悪なものに対して効果を発揮する。裏を返せば、ただの本能で動いているものには通じない。それこそ食欲だの、性欲だの、知識欲だの、母性だので動いていれば、まったく意味はない。あっさり食われたり、慰み者にされるのがオチだ。

 なら、意味はないのではないかというとそうでもない。夜というのは亡者や亡霊が最も活発になる時間帯。そういった悪意に対抗するために、この光があると言ってもいいだろう。

 また、邪悪といっても実際は曖昧なのである。生きるために仕方なく、という理由で襲う――――例えば、先ほどの巨大ムカデのように――――のなら見逃されるのだが、過剰なものは対象外。それがなくてもどうにかなるのに、楽をしようという理由で悪事を働くのなら効果対象になる。正直、不用意に近付くのは得策とは言えないだろうね。


 「それでも、万が一がないとは考えられないし、っと」


 先ほど使った『穢れを祓う聖盾よ(アイギス)』の設定を弄り、あの女の子と僕だけが通り抜けられるようにしておいた。通り抜けられるものを設定できることと、時間も設定できるのだからやっぱり便利である。だから好んで使っているわけで。

 え?あの子が使っているヒヒイロカネがぶつかったら、無効化されるんじゃないのって?そのときはまた張り直せばいいだけさ。『穢れを祓う聖盾よ』は魔力の消費量も少ないし。


 「……さてさて、汗もかいたし、流すとしようかな」


 暗くなってきたことだし、今日はここから移動することはできないだろう。暗い森の中を移動するのは大変だし、危険度もわからないし、そもそもどっち行けばいいかわからないし。とりあえず、手掛かりとなりそうなのはあの女の子ぐらいなのだ。それなら、あの子から信用を得るのがまず優先されるべきことだろう。

 と、なるとだ。いくらなんでもこのまま話すのは躊躇われる。だって、初対面なのに汗臭い男と話したくないだろうし。さっきは結構動き回ったんだから、決して少なくない汗が流れているのだ。臭いが気にならないということはないと思う。


 「気持ち悪い、っていうのもあるんだけどねー」


 またアイテムボックスを漁り、携帯型の浴場を取り出す。少し魔力を流せば、すぐにお風呂場へと早変わり。勿論、シャワーやお風呂を沸かすのも魔力でできる。そうしないと、水が用意できないってことも考えられるからね。

 脱衣所に当たる部分で服を脱ぎ、お風呂場でシャワーを浴びる。温かいお湯はすぐに出るし、下手をしたら日本にいたときより便利かも?魔道具様々だね。


 「シャンプー、リンスは魔道具の性質上いくらでもなんとかなるけど……石鹸だけは材料見つけとかないとなあ………」


 液状だったら容器を魔道具化することで、中身が無くならないようにすることはできる。が、石鹸は固形派であるので、石鹸だけは1から作らなければいけないのだ。作る方法はメモしてあるから大丈夫だけどね。はい、そこ。言語のことはど忘れしてたのに?とか言わない。悲しくなってくるじゃないか。

 考え事をしているうちに、体を洗い終えた。シャワーで泡を洗い流し、湯船に浸かる。やや温めのお湯のおかげで、体のべたつきは感じなくなったと思う。


 「ん?」


 しばらくして出ようとすれば、ガラッと扉が開く。そこにいたのは出掛けていた女の子で………


 「……いつも思うのだけど、お風呂入ってるときってやたらトラブルが起こるよねえ」


 フリーズしてしまった彼女を前に、どうしたものかと頭を悩ませるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ