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6話

 巨大ムカデの脅威は去った。頭が吹っ飛ばされて(爆散して、の方が正しいかな?)、もうピクリとも動かない。死んでしまったらしい。虫の命はもう少ししぶといものだと思ってたけど、そうでもないのだろうか?いや、知能があったようだし、見た目が見た目でもどちらかと言うと人間に近いのかもね。

 それは一先ず置いといて。これからどうするかだ。絶体絶命の状況には何も変わっちゃいない。というか、ヒヒイロカネとそれを扱えるだけの技量がある分、こちらの方が危険かもしれないのだけど。今だって少しでも変な動きをしたら、僕の身体はあのムカデと同じことになってしまう。まさに万事休すである。


 「あ、あのー……?とりあえず、怪我を治させてくれると嬉しいのだけど………?」


 折られた方の腕はまだそのままだし、痛いのも変わってないし。治療ぐらいはさせてもらいたいと思う。……腕折れて(表面上だけとはいえ)平然としてる辺り、ヴァルハラで嫌な慣れをしちゃったものだ。普通なら泣き叫んでいてもおかしくないでしょ、これ。

 まあ、肋骨折られたり、腹部を何かが貫通したりしたときよかマシだけどさ。痛いものは痛いんですよ。あと、爆発。漫画とかも読んでて、なんでもないとか思ってたんだ。あの頃は。結果?爆風を舐めちゃいけないってことは、しみじみと感じたよ。


 「……んー、そろそろ何か話してくれてもいいんじゃないかなあ?」


 顔だけ後ろに向けてそう言うも、状況は変わらない。何も話してくれないし、棍棒も突き付けられたままだし。どうすればいいんだろうね、これ?


 「――――――――――」

 「え?」


 耳元で何かを言われた。それは感じ取れる。息がかかったし、間違いないはず。

 ただ、何を言われたのかがわからない。聞き取れたはずなのに、まったく理解ができない。


 「えっと、もう一回いい?よくわからなくて」


 女の子に話してもらうことを試みたのだが、またも聞き取れない。まるで、外国人に母国語で捲し立てられたときのように……ん?外国人?

 恐る恐る、ガラケーに手を掛ける。着信履歴から1つの電話番号を選び、着信スタート。襲われる心配もあったけど、これだけは確認しなくちゃいけないことだったし。


 『は、はい!?どうしました!?』

 「師匠、声が裏返ってます。緊張しなくても普通に話すればいいだけですよ」


 幸い、彼女は動かなかった。何を考えているのかまではわからないけど、正直ありがたい。ガラケーを肩と耳で支えながら、アイテムボックスを漁った。


 『そ、そうですか……一度使ったとはいえ、あまり慣れませんね………』

 「だんだん慣れてけばいいですけどね。あ、少しヘイムダルさんかミーミルさんに代わってもらってもいいですか?」

 『はい?何故です?』

 「ちょっと確認したいことがあって。お願いします」


 真面目なトーンだったからだろうか。師匠も少し待っていてください、と言ってくれた。……風切り音が聞こえるのは、全力で移動しているからかな。ちょっと悪いことしちゃったかも。あと、保留の仕方も教えとこう。

 その間、アイテムボックスからお目当てのものを見つけ、取り出した。スプレー型のそれは前に使ったことがある塗るタイプの回復薬。怪我している場所に使えば、一瞬で治してくれるという優れもの。ここに来る前にいくつか作っておいて正解だったよ。

 折れた腕を露わにして、回復薬を塗り付けていく。流石にこれはまずいかな。攻撃されないだろうか。そんな考えは杞憂に終わり、腕は元通りになった。


 『ふむ、代わったぞ。どうしたのだ?』


 落ち着いた声。この声はミーミルさんだね。割とすぐに代わってもらえて助かった。


 「すみません、突然電話しちゃって。一つ、聞きたいことがありまして」

 『それは?』


 ミーミルさんは先を促す。この神様なら事情を知ってそうだからいいか。そう思って、今胸の中にある疑問をそのままぶつけた。……恐らく、間違ってないだろうけど。


 「あの、ですね……こっちの世界じゃ日本語って通じません、よね………?」

 『………………………』


 長い沈黙。ああ、これは当たりだな。頭を抱えたくなるような現実に、深々とため息をついてしまう。いや、仕方ないでしょ。これは責めないでほしいな……これぐらいは。


 『……すまない。これは完全にこちらのミスだ………』

 「え、もしかして持ってくことはできたんですか?」

 『……ああ。転移者は最初にその能力をつけられ、その後能力を貰うのだが………君の場合は予想外の事態で、準備していられる余裕がなかった。その結果………』

 「言語はわからない、ってことですか。どうしましょ………?」


 うん、道理で反応してくれないはずだ。わけもわからない言語で話し掛けられても、むこうは混乱するだけだろう。それどころか、知らない人が急に現れて、これまた知らない言語でペラペラ喋って来る。……擁護できない。殺され掛けたのは過剰にしても、攻撃されるのは当然だったのかも。


 「そっちから能力は送れないんですか?」

 『無理だな。直接触れなければ何もできない。そちらに行こうにも、直接神が下界に降りることは不可能だ。自分でなんとかしてもらうしかないのだ………』

 「……結局、こうなるのかあ………」

 『面目ない……こちらの都合で迷惑を掛けているというのに………』


 ミーミルさんの声は本当に申し訳なさそうだった。僕は気にしないでください、とだけ言って、電話を切る。考える時間が欲しかったし。


 「……ほんと、異世界ってハードモードだ………」


 またも現れた不幸に、頭を抱えたのだった。

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