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3話

 ようやく全体像が見えるようになり、森からやって来たその子の特徴を捉えられることができるようになった。


 まず真っ先に目が行ったのは、額にある角だった。人間にはあんなものはついてないはずだし、あの子もまた人間じゃないのだろうか。不思議と、先ほど遭遇したモンスターと同じ、には思えなかったけど。

 角は額に2本生えていて、やや小さい。小指の先っぽぐらいの大きさかな。それが左右対称となるような位置についている。


 次に目を引くのは、何と言ってもその身長だ。遠目から見てもわかるほどに大きい。190は超えているのではないだろうか。むこうは開けた場所の入り口にいて、僕は開けた場所の中心にいる。距離としては、それなりにあるはずなのだ。それでも、顔を見るには視線を上げなくてはならないほど。並んだときには、見上げなければ顔すら見れないのではないだろうか。


 肌はやや赤み掛かっていて、ピンク色に近いかもしれない。少なくとも、地球上の人間種のような物凄く色素の薄い薄橙色でも、やや色が濃くなった薄橙色でも、ましてや物凄く濃い茶色でもない。まったく見たことのない肌の色だった。

 スタイルとしては、女性アスリートのよう。という言葉が正しいように思える。つくべきところに筋肉がついていて、それなのにボディビルダーのようにモリモリな筋肉があるわけじゃない。何というか、例えるならネコ科動物みたいな感じだろうか。ああいったしなやかな筋肉でできている、と表現できると思う。


 あとは、極力見ないようにはしていたけど……胸が大きい。身長に比例するかのように、かなりの大きさがある。僕の頭ぐらいはあるんじゃないかな?まあ、軽く見ただけで済ませたけど。女子は視線に敏感だからね。いつまでも見てると気付かれるし、それ以上に失礼だろう。そもそも初対面なわけだし。

 髪は紅蓮のように赤い。その髪を肩の辺りで切っている。動きやすいようになのかな。着ている服も動きやすそうなものだし。


 「……て、マジですか」


 そこまではまだいい。なんとか理解はできるレベルだった。異世界だし、そんなこともあるよねとは思えた。その手にあるものを見るまでは。


 「嘘でしょ、それ………?」


 呆然と呟く。彼女が手に持っているのは、棍棒だった。

 いや、そりゃ女の子が棍棒持っていたら驚く。人によってはおかしい、と言いたくなることもあるだろうし、そんなものは似合うわけがない!ってのもあると思う。

 それでも、それが使いやすい武器というなら否定はしない。別に女の子がハンマーをぶん回したり、それこそモーニングスターみたいな武器使っててもいいだろうし。逆に言うなら、男がレイピアや短剣使ってても構わないとは思うし。だから驚きはするけど、絶句まではしない。




 ――――問題は、その棍棒がヒヒイロカネ製であるということだ。


 前にも説明したとは思うけど、ヒヒイロカネというやつは非常に重い。短剣にしただけでも、通常の鉄や鋼で作った普通の剣(剣士や騎士が使うような両刃タイプの剣のこと)よりも重いのだし。それを棍棒にすれば、並の人間じゃ持つどころか運ぶことすらできない。

 加えて、あの棍棒はあの子の背丈ほどもあること。あの大きさであの幅だとすると、どう見積もってもトンは下らない重量である。

 さらに言うなら、魔力反応がないこと。重量を軽減するのなら、現在も魔力を使用しているはずなのである。それが感じられないということは、つまり………


 「……あれ、素の身体能力でどうこうしてるってこと?いや、でも魔法で補って………いや、でも魔法使ってるなら多少なりとはいえ魔力が感じ取れるはずで………」


 そりゃ混乱するよ。まともに持てるはずがないもん。ヒヒイロカネ製の刀ですら戦乙女や戦士たちは補助なしに持ち上げられなかったんだし。唯一持てた師匠ですら、好んで使うほどではないですね。と言うぐらいの重さだったんだもん。それを軽々持ってる子がいれば、そりゃあ混乱しますよ。ええ。魔道具を作るからこそ、あの子の途方もない力がわかっちゃうんですよ。

 しばらく頭を抱えていたけど、少なくともコミュニケーションが取れそうな初めての人物だ。この世界の状況を知るためにも、ここはきちんと話をするべきだろう。


 「ふう、まずは第一印象が……て、こんな奇行を繰り返してたらおかしく思われてるか………」


 せめて嫌われてなければいいのだけど、と彼女の方へ歩みを進めていく。見たところここを使っていたのは彼女っぽいし、どうにかして協力を得たいところだ。そうすれば、この森から出るのも楽になるはずだし。

 どう声を掛けたらいいかな?初対面だし、この世界での常識も知らない。だとすると、無難にお辞儀をしてから声を掛けた方がよさそうな気がする。


 「えっと、初めまして。もしよければなんですけど、少しお話を………」


 言葉が途切れた。お辞儀の体勢で喋るのはきついからとか、改めて見ると綺麗で言葉を失ったからとかじゃない。単に、物理的な要因である。

 そりゃだって君、すぐ上をヒュゴッ!とかいう音を立てて、何かが物凄い速度で通り過ぎて行けば驚きもするだろう。言葉が途切れても仕方ないってやつさ。


 「……えーと、僕、何か失礼なことしちゃいました………?」


 顔を上げたそこにあったのは、無言で棍棒を振るった後の体勢の女の子。間違いない。僕の上を通り過ぎたのはこの棍棒だ。

 恐る恐る後ろを振り返れば、延長線上にあった木々が倒れている。あのまま立っていたら、確実にひき肉と化していただろう。


 「あ、あの………?」


 返事はない。いや、嘘。あった。言葉じゃないだけで。


 「何!?何が失礼だったの、今の!?」


 棍棒が勢いよく振り下ろされた。さっきまでいた位置に。間一髪で避けられたけど、心臓はバクバクだ。一歩間違えれば、死んでてもおかしくない状況だったから。


 「な、なんとかしないと………」


 師匠。異世界生活は波乱万丈です………

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