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2話

 「……ほんとに異世界来ちゃったな………」


 正直、森を見ただけでは信じられないところがあった。確かに、神界での出来事は痛みを伴うものであったので、現実だということを嫌でも突き付けられた。でも、送られてたところが自分の世界ではないという確証もなかった。だから、ほんの少しだけ考えてしまったのだ。ここは本当に異世界なのだろうか、と。

 ただ、目の前にいるやつを見れば、その疑問の答えがある。少なくとも、地球上にはあんなに巨大なクマはいないし、いたら絶対にニュースになっている。


 「……そりゃ、クマはでかいけどさ………」


 それでも、巨木の半分ほどの大きさであるクマはいない。この辺りに生えている木々は、どれもこれも僕の身長よりもはるかに高い。というか、日本に植えられている街路樹よりもずっと高いし。大体8~9mはあるんじゃないだろうか。その半分というのだから、およそ4~4.5mほどの高さはあるのだろう。

 ……まあ、それ4足で歩いてる状態でだからね。立ったら木と同じか、それ以上の高さになるはずだ。途方もないデカさ。あんな超生物、地球にいたら重力にやられて、どうこうなっていると思う。魔力様様なのだろうね。


 「あんなのと戦うわけにもいかないし、ここは逃げた方がよさそうかな………」


 戦闘狂じゃないし、試すようなチート能力も持っていない。神器(アーティファクト)だってあるものの、元々あれがどんな強さなのかもわからない。僕が倒れたらまずいということはわかっている。やるべきことと、やらなくてもいいこと。それを天秤にかけて、慎重にいかないと。


 「戦闘はいつか経験しなくちゃいけないのかもだけど……切迫してるらしい今は状況を知る方が大事だよね」


 しっかりと考えたけど、やっぱり無理に戦う場面とは思えない。そもそも、こんな森の中で(いたずら)に体力を使えば、今日1日を無駄に過ごすことだってあり得るのだ。どっちが出口かもわからないし、人のいる方向へ行きたいのなら体力は温存しとかないと。どれだけ歩くのかもわかったものじゃないのだし。


 「さて、と。じゃあ、気付かれないように逃げますかね………」


 そろそろと音を立てないように移動する。一応、下に注意しながら。よくありがちな、小枝を踏んで音を立てる。からの、気付かれたなんて定番ネタはゴメンだからね。ギャグ漫画とかならまだしも、これは本当に自分の命を懸けている。注意し過ぎるなんてことはないはずだし。

 そうやって、しっかりと注意を払っていたからだろうか。いや、師匠との修行も役に立ったのかもしれない。とにかく理由は何にせよ、それ(・・)に気付くことができた。


 「……あはは、確かにこりゃ異世界だ」


 間一髪、その場から飛び退ることができた。一瞬遅れて、地面が盛り上がる。そこから顔を覗かせたのは、あまりにも巨大なムカデだった。強靭そうな顎に、何本もの足を揺らし、僕を狙っている。

 不幸はそこで終わらない。巨大ムカデに気付いたあのクマが、こちらへとやって来たのだ。双方が僕を見て、口をもごもごとしている。


 「友好的なやつ、だったら嬉しかったんだけどなあ………」


 どう見たって、そんな雰囲気じゃない。獲物を見つけた、捕食者の目だ。どちらの目もギラギラと輝いているし、餌としてしか認知されちゃいない。そんな、出会ったモンスターをテイムできます!といった特殊能力なんて、持ち合わせていないのだから。

 となると、選択肢は一つ。


 「とっとと逃げよ」


 糸を切り、即座にその場から離脱した。無理する場面じゃないし。大体、あんな物理法則を無視したクリーチャーとの戦闘なんて教えてもらわなかったし。下手に突っ込んでどうしようもないことになるぐらいなら、最初からまともに付き合わないことに限る。僕は臆病者なぐらいがちょうどいいのだ。

 辺りを見回せば、再びあの開けた空間へと戻っていた。こちらでもきちんと機能してくれているらしい。そのことにホッとする。機能していなければ、あのまま逃亡劇を繰り広げなければならなかったのだから。


 「でも、結局人には会えず終いか……『アリアドネの糸』の実証試験にはよかったけど………」


 正直、早くも手詰まりな感じがしてきたのだけど。あんなに大きなモンスターがウロウロいる、とまでは言えないだろう。もしそうだったとしたら、この場所もすぐに気付かれているはずだし。この近くでモンスターを見ることだってあったはずだ。だから、それはないとは思う。

 しかし、だ。かと言って、探索を始めてからそう時間が経たないうちに、あんなモンスターと会ったのだ。あれよりは弱いモンスターがそこらを彷徨っていることは考えられる。つまりは、モンスターをどうこうしないことにはこの森からは出られない、とも言えるかもしれない。


 「……むう、どうしたもんか」


 ………やろうとすれば、どうにかできないことはない。まったくもって、ない。移動手段も、攻撃手段も用意することはできる。


 「けど、人が住んでるかもしれないのに、あれ(・・)を使うのはちょっと………」


 そう、あの魔道具を使えば、ここら一面はあっという間に火の海へと変貌するだろう。もし人がいれば、即座に火ダルマ。モンスターたちに対しても、明らかにオーバーキル。自然破壊もおまけでついて来る。あんまり気が乗るとは言えない作戦だった。


 「……一応、いくらか方法を試してみようか。それで駄目だったら、そのときはそのときで………と?」


 ガサリ。どこかから音がした。音のする方を振り向けば、モンスターのものではない影がある。それはだんだんと近付いて来て、この開けた場所へと足を踏み入れる。

 光に照らされた空間に入ったその子は……女の子だった。

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