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1話

 道が途切れる。真っ白に包まれた世界が終わる。急な光にしばらく目を細めていた。

 降り立ったそこは日本ではあまり見ることができない、背の高い木々が生えた森だ。僕が降り立った狭い範囲のみ、何かがあったのか日の光がある。ここだけ木が倒されていたのだ。


 「……この様子だと、自然に倒されたわけじゃなさそうかな」


 ある一点を中心にほぼ円状となった破壊跡。木々の倒された跡も、ほぼ同じような位置で同じように折られている。恐らく、誰かがここで生活するためにここだけ開けた空間にしたのだと思う。

 中心には火を起こしていたのか、炭が転がっていた。また、手頃な木が置いてあった。これはソファ代わりに使っているのかもしれない。他にもいくつか木を使っていることから、少なくとも数日の間ここに誰かが住んでいたということはわかる。


 「そういえば、忙しくて地図までは持って来てないからな……ここがどこかもわからないし。ここにいる人に接触するのが無難そう」


 今になって準備不足に気付いてしまった。師匠のくれた物の中にも入ってなかったし、手詰まり状態だ。とはいえ、これは完全に僕のミス。師匠を責める気はなかった。


 「てなわけで。てってれー!『アリアドネの糸』ー」


 アイテムボックスから取り出したのは、僕が作り上げた魔道具の一つ。『アリアドネの糸』だ。

 アリアドネの糸はギリシャ神話に登場する、ミノタウロスに関係するものだ。


 詳しい説明は省くけれども、ある所にミノタウロスという化け物が住んでいた。ミノタウロスはとても狂暴なため、人々は困っていた。そのため、迷宮に閉じ込めることでこれを封じていたのだ。毎年12人の青年と少女を人柱にして。


 あるとき、生け贄とされる若者たちの中にテーセウス、という者がいた。このテーセウスに一目惚れをしたのが今出て来たアリアドネ。王女様である。


 アリアドネはテーセウスのために、麻糸と短剣を渡した。再び地上に戻って来られるようにと。


 テーセウスは迷宮の入り口に麻糸を引っ掛け、ミノタウロスを退治した。その後、麻糸を辿ることで戻ってくることができたのだ。


 この話が元となり、『アリアドネの糸』という言葉は、難題などを解決するための手引き、方法の意味で使われることになった。


 アリアドネやテーセウスのことを知らずとも、糸を迷宮の入り口に引っ掛けて迷わないようにした、という話は有名だろう。また、迷宮の主ミノタウロスも。この魔道具はそんなミノタウロス伝説を基にして作ったのだ。

 勿論、これも神器(アーティファクト)。効果は単純だけど、使いやすさで言えばかなりのものを誇る。そんな道具だ。


 「ここに引っ掛けて、と。あとは腰につけてればいいか」


 恐らく座るために置かれた木に、糸の先端を引っ掛ける。引っ掛けられた糸は色を失い、周りの色と完全に同化した。糸玉の方は僕の腰につけて、準備完了。移動を始めることにした。


 『アリアドネの糸』の効果。それは糸の先端を引っ掛けると、必ずそこに戻って来れるというものだ。それだけ?と言われるかもしれないが、たったそれだけ。それが凄まじい効果なのだ。

 この神器を使うと、引っ掛けた場所がマーキングされた状態になる。糸はどれだけ離れたとしても、無限に伸び続ける。しかも、周囲に溶け込むように色まで変わる。これだけでも、糸を切ることはほぼ不可能と言ってもいい。使用者だけにはきちんと見えるので、便利と言えるだろう。

 でも、この魔道具が神器と言われるのはそういった理由ではない。作った本人でさえ、作ったときには笑うしかなかったのだから。


 「それじゃ、探索を始めよっかな。これもあるし」


 『アリアドネの糸』がしっかりとついていることを確認して、森の中へと入って行く。中には何がいるかわからない。武器だけは出しておくとしよう。一番使いやすい、魔道具の銃を取り出した。


 さて、説明に戻ろうか。『アリアドネの糸』は必ず戻ってくるという神器。それは説明した。この魔道具の肝は必ず、というところにある。




 ――――つまるところ、過程を無視して結果のみが現れるということがあり得るのだ。


 本来、戻るためには移動手段が必要となる。それは徒歩であったり、車であったり、あるいは飛行機であったりする。それは当然だ。ある場所に戻るためには、『移動』という過程が必要になるからである。

 しかし、『アリアドネの糸』はその過程を無視する。普通に糸を辿るだけでも戻れるのだけど、もしも使用者に何かがあった場合――――例えば、疲労困憊で歩けなかったり、怪我をしてしまったりということ――――糸を切ることで、先端を引っ掛けた場所へと強制転移するのだ。これこそが過程を無視して、結果だけが現れるということ。帰る途中という過程をすっ飛ばしているのである。

 加えて、この糸は使用中には凄まじい強度になる。使用者以外には誰も切ることができなくなるのだ。この性質を利用して、武器にすることもできる。まさに、一人で何役もこなせる便利道具なのである。


 「とはいえ、糸を武器にするなんて器用なこと、僕にはできないんだけどねー」


 せいぜいがトラップ程度にしかならないはずだ。必〇仕事人じゃあるまいし。だから、これはあくまで道しるべと、緊急時の脱出手段。武器は他のものを使う。


 「さてと、何がいることやら?」

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