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ゲイムロルの憂鬱

 「ところでさー、あんたまだ弟子の一人も取れないのー?」


 唐突に、そんな言葉を吐かれた。言い放ったのは私と同じ戦乙女。正直、私はこいつが嫌いだった。やることは適当。面倒事は丸投げ。その割には男と付き合う時間がたっぷりとある。しかも、その男はコロコロ変わるのだ。

 加えて言うなら、私の弟子候補であったものたちはこぞってこの女の下へ行く。仲良くなろうという気は起きず、むしろ毛嫌いする気持ちの方が勝るのだ。他の戦乙女であれば、もう少し仲良くしようという気も起きるのだが。


 「……いるが。お前には関係ないだろう」

 「いやさー、あんた厳しーじゃん?嫌がってるようなら、あたしのとこで引き取ろうかと思ってさー」

 「余計なお世話だ。そもそも、あの子は嫌がってなどいない」


 思い浮かべたのは昨日までいた私の唯一の弟子。非常に努力家で、珍しい価値観を持った子供だった。女の子と見間違うほどに低い身長。整った顔立ち。声変わりをしていないのか、まだまだソプラノと言っていいほどに高い声。仕草の一つ一つにも女の子らしさを感じ、性別を間違えていたのは今でも覚えている。

 だが、男らしいところも確かにあった。辛い目に遭っているはずなのに、泣き言の一つも言わず。練習をすっぽかしたことがあっても、挫折したから来ないということはなく。そして何より、諦めることをしなかった。それは紛れもなく、あの子の男らしさなのだろう。

 新しく、もう一人の戦乙女が入ってきた。そちらは親しい者で、私に声を掛けてくれた。


 「どうした?また何か言われたのか?」

 「そうですね。あの女に弟子を奪われそうになっていたところです」


 指で差そうとすれば、もう逃げていた。相変わらず、逃げ足は速い。この部屋からあの女の気配を感じ取ることはもうできなくなっていた。

 思わずため息をつく。あんなやつだと言うのに、弟子を取っている数は一番多い。それがより一層怒りを増長させる。


 「まあ、お前は厳し過ぎるからな。対して、むこうは最低限の労力で戦果を挙げようとしている。馬が合わないのも当然か」

 「しなければならないことも、放り出すことがあるでしょうに」


 鼻を軽く鳴らす。隣に来た彼女も、肩を竦めるだけで否定はしなかった。事実であることは確かなのだから。


 「だが、よく頑張ったものだな。お前のメニューについていける者がいるとは驚いたぞ。しかも、人間なのだろう?」

 「ええ、そうですとも。あの子だけは根性があると認めてもいいと思っています」


 友人に褒められ、まるで自分を褒められたように嬉しくなる。後で教えてあげるのもいいかもしれないな、と懐に入れた魔道具の感触を楽しんだ。

 そう、誰よりも努力をしていた。寝る時間を削り、魔道具を作り続けたり。自分で答えが出せないときは他人に意見を聞いたり、調べ物をしたりなどして、強くなることに貪欲だった。その姿勢に好感を持ち、自分も頑張らなければと思ったものだ。


 「そうか。そこまで言うのなら相当だったのだろうな。今は異世界に行ったのだったか?」

 「はい。きっとむこうでも頑張っていることでしょう」

 「そうだな。お前の弟子ならそうだろう。無理のない範囲でやっていかせればいい。きちんと伝えたのだろう?」

 「はい?」


 私が不思議に思って聞き返すと、隣の笑顔が固まった。その様子に、私はますます疑問を感じてしまう。


 「ま、待て。何も言わずに送り出したのか?休憩などのことにも言及せず?」

 「え、ええ……何か、おかしなことでも?」

 「おかしなことだらけだ!」


 ガッと肩を掴まれた。あまりの剣幕に、思わず一歩引いてしまう。それほどの気迫だった。


 「いいか?お前の訓練メニューは常軌を逸している。弟子がすぐにやめていくのはそのためだ」

 「い、いえ。ですが、私はこうしてできていますし………」

 「私たちと人間では根本的に身体能力が違う!私たちにできることが、人間にもできるわけじゃないんだ!できたらそいつは英雄と言われる人間になっている!」


 初耳だった。驚きで声も出せないでいると、言葉はさらに続いていく。


 「だから、人は空を飛ぶことはできないし、音速を越えることもできなければ、素手でドラゴンにも勝てん!加えて言うなら、お前が強いのは努力もあるが、才能もあったからだ!」

 「そ、そうだったのですか?」

 「そうだ!だから、もしお前の訓練メニューのまま人間が動こうとすれば………!」

 「す、すれば?」


 その先を促す。


 「……まず潰れる。疲労で体が動かなくなり、魔物に食われるか。もしくは魔道具製作者なら、危険物の取り扱いを失敗して事故を起こすことも………」

 「た、大変ではないですか!?」

 「今さら気付いたのか!?」


 血の気が引いていく。この友人がこの手の話で嘘をつくことはない。このままでは本当にあの子が危ないのだろう。


 「み、ミーミル様に聞いてきます!」


 何かが聞こえた気もするが、気にしていられる余裕もなく。私は全速力で部屋を飛び出していたのだった。


※               ※               ※

 「なんだ、今さら気付いたのか?」

 「や、やはりそうだったのですか………?」


 いい知恵を貸してもらうべく、ミーミル様の下を訪ねたが、返ってきた言葉はそれだった。私が間違っていたなんて、と落ち込みそうになる。

 すぐに持ち直せたのは、タクミのことがあるからだった。あの子にもしものことがあれば、悔やんでも悔やみきれない。すぐに知恵を貸してもらおうとした。


 「というか、そのときのための魔道具だろう。折角だ、掛けてみればどうだ?」

 「そ、そうでした!」


 焦っていて忘れていたが、よくよく考えれば私にはこの『ケイタイデンワ』なるものがあるのだった。これを使えば、遠く離れている者とも話ができるらしい。早速感謝しながら、タクミの指示通りに操作をしていく。


 『はい、もしもし?師匠ですか?』

 「た、タクミですか!?本当に話ができるのですね………」


 魔道具の出来に感心したが、それよりも先にやるべきことがある。


 「いいですか、タクミ。休息はしっかりと取るのですよ?どうやら、休みなく行動できるのは戦乙女だけらしいので………」


 ……言っていて恥ずかしくなってくる。これでは弟子が来ないのも当然だ。無茶ばっかり言う師匠では、ついて行くのも嫌になってしまうだろう。きっかけをくれたタクミには感謝しなければ。


 『……え?今さらですか?』

 「なっ……知っていたのですか!?」


 更なる驚き。けれど、デンワのむこうにいる彼はええ、とあっさり答えた。


 『だって、元々人間として18年生きてきたんですよ?知らないはずないじゃないですか』

 「し、しかし、あなたは私について来ていたでしょう?知らないのではないかと………」

 『いやいや、長時間労働は過労死の危険がありますし、それぐらい理解してますって。伝えなかったのは師匠が甘えなど言わないでください!って言うと思ったので』

 「そんなことは!………あるかもしれません………」


 思わず否定しようとしたが、よくよく考えればあの頃の私は、弟子の意見などほとんど聞いていなかった。言われていても、甘えと切り捨てていただろう。

 付き合いが長くなった頃には、もうそれが当たり前と割り切れるようになっていたはずだ。結局、私が悪いということになる。


 「……本当に、申し訳ないです………」

 『大丈夫ですって。もし反省してるなら、次に来る弟子は声を聞きながら育てていってくださいね?基本は師匠のメニューでも大丈夫ですけど』


 デンワのむこうで聞こえるあの子の声は気にしている様子がない。本当に、不思議な子だ。どうやったらこんな子に育つのやら。興味が湧いてしまう。


 「わかりました。次からは気を付けましょう。それと、何かあればデンワをするように。せめてもの罪滅ぼしです」

 『あはは、了解です。そうします』

 「……本当に、あなたが弟子でよかった」

 『はい?師匠?』


 返事を聞く前に、デンワを切った。最後は少しだけ気恥ずかしかったからだ。

 あの子のこれからが上手くいくように。この神界から祈っていよう。ちょっと不思議で、努力家なあの子のために。

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